第26話 無敵なの?
「ほらっ、こいよっ!」
テレッテ、レレッレレー
「もっともっと!」
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
「いいねいいね!! もっともっと!!」
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー…………
あっ、どうもクラルです。
アイテムをくださいと切実にお願いしたのだが、騎士団の方々は俺のことが嫌いなのか、それとも魔物を集めるなんて変態的アイテムはないのか。
未だに、アイテムが届きません。
もう普通に倒すのも飽きたので、俺は魔物たちとシャドーボクシングをはじめました。
ルールは簡単です、俺がでたらめにパンチを打ち、それに当たった魔物たちが倒れる。
ね? 簡単でしょ?
それ、お前しか得ねぇじゃんと思った方。正解です。
仕方ない。今俺は無敵状態。スーパー〇ターなのだから。
俺が謎のドヤ顔を決めて、次の相手とシャドーしようと思ったとき。
「いてっ」
何かが頭を当たった。
無敵と言っても痛みを感じないわけではないので、ものが当たれば普通に痛い。
「なんだこれ?」
俺の頭に当たって落ちたそれをひろうと、丸くて中心辺りに線が入っていて、さらには丸いボタンがついている。
これ、モ〇スターボール?
いやいや、そんなわけあるか?
ここ異世界だぞ?
任〇堂さんの専売特許だぞ?
てか、異世界に任〇堂の力は及ぶのか。
さすがに、世界をまたいだら特許もきれるだろう。
だから、多分大丈夫!
……世界の任〇堂さんなら、大丈夫じゃなさそうなのが怖い。
てかこれ、なんなの?
これで魔物捕まえろってこと?
俺が
「いてえっ!」
さらなる追撃があった。
さっきからなんなの?
普通に投げればいいじゃん!?
なして、わざわざ当てるの!!?
俺に恨みでもあるのか?
俺、恨み買いそうなコト…………あ、ハイ。しまくってますね。すみません。
「って、あれぇ?」
誰が投げてるのかと顔を上げて……俺は気がつく。
なんか魔物集まってきてね?
さっきまで賢いやつは俺から遠ざかり、一部の変態と馬鹿とドMのみが集まってきていたのに。
今は、俺をめがけてすべての魔物が集まってきている。
来てほしいとは言ったけど、本当に全員で来られると、圧迫感がすごくて怖いわ。
例えるなら壁が迫ってくる感じ?
閉所恐怖症の人にはめちゃ怖体験だろう。
でも、魔物たちが集まってくれるのは嬉しいことで。
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー…………
倒したときの音でうるさくはなるが、俺はそこにいるだけで勝手に倒れていくんだから、楽なことこの上ない。
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー…………
「ふぁぁ」
俺は地面に手をついて、あくびなんかしちゃいながら魔物たちが倒れていくのを見ている。
ゴブリン的な雑魚も、オーク的なちょいデカイのも、オーガ的なめちゃ怖いのも。そのすべてが俺に当たったら倒されていく。
見ていて爽快だ。
「へのへのもへじから、へを取ると〜、ののもじ〜」
俺が適当な歌を歌って暇をつぶしていると。
「ガァァァァァアアアアアアア!!!」
周りよりも一回りも二回りも大きい、翼なんかついちゃってるとても強そうな魔物が引き寄せられてきた。
こ、これやばくね?
ドラゴンとまでは行かないけど、その下位種。もしくは、はぐれドラゴンの可能性があるんですけど。
そんな生態系のトップに近い方に来られても、ビビるだけなのだが……。
「グゥァァタアアア!!」
テーテーテーテテーテーテテーテー
テーテーテーテテーテーテテーテー
テーテーテーテテーテーテテーテー
テーテーテーテテーテーテテーテー
お前を殺すとばかりに吼える魔物を見て、俺は今もなり続ける無敵BGMが、はじめて弱く感じた。
む、無敵とは言っても、さすがにこれは無理があるのでは……。
「ギャァァオオオオオ!!!!!」
もう10メートル以内に近づいた魔物が、さらばとばかりに咆哮する。
ヤバイッ!!!
俺は死の恐怖から目を閉じて、体をそらした。
訪れるのは痛みか。それとも、浮遊感か。
俺はどちらにせよまだまだ生きたいと思うが…………。
テレッテ、レレッレレー
聞こえてきたのは肉がえぐれる音でも、骨が切り裂かれる音でも、内臓が飛び出る音でもなく。
聞き慣れてもはや耳障りになり始めた、敵を倒したときの効果音だった。
「へ?」
俺は戸惑いながらも、目を開けて……呆然とする。
「ま、マジかよ……」
あんなに強そうだったドラゴンもどきが、されるがままに吹っ飛んで、倒れているじゃないか。
む、無敵すげぇ……!!
任〇堂さんありがとう!!
疑ってごめんなさい!!
やっぱり、世界の任〇堂だよ!!
最高だ!!!!
これからは、任〇堂さんではなく、任〇堂の兄貴と呼ぶ。いや、呼ばせていただきます!!!
俺は任〇堂さんに感謝を述べつつ、勢いづいて魔物に触れまくっていく。
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー…………
魔物の集まりが弱くなってきたな……。
最初は断食一週間で目の前にステーキを置かれた人みたいなスピードでやってきたのに、今は街中のストリートピアノを見るくらいのスピードになってしまっている。
てか、集まってこないやつも増えてきている。
「もっとアイテム追加しろぉい!!」
俺は騎士団の方々に向けて叫ぶ。
「いてっ……」
アイテムが飛来して、魔物の集まる速度が回復するのはいいのだが……。
なんか定期的に俺の頭に当たるんですけど?
いや、一回二回なら、間違って当てちゃったってのもわかるけどさ。流石に何度も続くと疑わざるを得ない。
てか、狙ってる?
もしかして、俺狙われてる?
何、実は犯人は味方にいた的展開?
やめてよ。ホラーじゃん。
さ、流石にそれはない…………と思いたい。
まあ騎士団の方からは様々な恨みを買っているから、これくらい甘んじて受け入れろってことかもしれない。
「いてっ……いてえっ!!」
普通に痛いんだけど……。
これに耐え続けるとか、結構な苦痛なんですけど。
まあ、仕方ないか。
俺はアイテムを投げてもらわなきゃ何も始まらないので、渋々我慢することにする。
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー…………
これもさ、どうにかならないのかな?
最初は『今俺敵倒してる!! スゲエッ!!』感があってよかったけど、長時間使うとなんか気が狂いそうになって、頭痛くなってくる。
どうにかなりません?
俺は正体不明の無機質声の主に尋ねるが……。
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー…………
あっ、改善する気はないみたいですね。ありがとうございました。
相変わらず良い感じに頭に刺さる音量で、電子音が鳴り続ける。
「はぁ、早く終わんねぇかな」
俺座ってるだけだし、やることねぇんだよな。
倒れていく光景見るのも飽きてきたし。
残りあとどれくらいかな?
俺は魔物たちが吹っ飛んでいくのを横目に、奥を見る。
ざっと、あと半分くらい。
今で1時間弱だから、これとあともう1時間……。
あの、交代制にとかできませんかね?
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー
テレッテ、レレッレレー…………
できませんかぁ。そうですよねぇ。すみません。
でも逆に、地面を覆い尽くすほどの魔物が、2時間で退治できると思えば、安いもんだろ。
『スキルの効果がもう少しで切れます。残り415ポイントを使って延長しますか?』
俺が思ったとほぼ当時に、タイミングよく、1時間が終わったお知らせが来る。
『あと1時間お願いします。』
俺は無機質なはずの声に、どこか懐かしさを感じながら言う。
もはや慣れたものだ。
『了解しました。』
『あ、あと話し相手になってくれませんか?』
俺は何気にちゃんと誰かを会話に誘うのは初めてだと、少しドキドキしながら反応を待つ。
『…………』
…………悲しいです
クラル。初めての会話の誘いを、拒否ではなく無視という形で終えました。
せめて『嫌です』の一言が欲しかったです。
もういいです。大人しく地面に絵でも描いています。一人で鼻笛で作曲でもしておきます。一人じゃんけんしときます。
俺はいじけて、地面をそこら変に落ちていた木の枝で、いじりだした。
「あっ、ダンゴムシ」
土の中にいい感じのダンゴムシを見つけて言う。
なんか、俺の知ってるダンゴムシより大きい気もするけど、多分気の所為だ。
テレッテ、レレッレレー
あぁ、ダンゴムシ。死んでしまうとは情けない。
これ、ダンゴムシにまで効くのね。じゃあ人はどうなのかな?
いやでも、前にミアちゃん触ったときには別になんともなかったよな。
なんだろ、俺の警戒心とかそういう問題?
だとしたら、ダンゴムシはオッケーだろ……。
わからん。けど、それでいい!
そんなこと考えたって意味ないし分からないから、分からんものは素直に分からなくしておけばいいのさ!
あと一時間何しようかなー
俺は鳴り続ける無敵BGMと倒した効果音を聞きながら、考えだした。
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