第18話 事件かっ!!?
箸が進み、そろそろ楽しい食事も終盤に差し掛かろうかというところ。
なんか遠くから言い争う声が聞こえるけど、そんなことよりもイクラ丼に夢中だ。
いやこれさ、最初も超うまいんだけど、食べ進めるうちにより美味しくより味わえるようになってくるの。
ほんとずるいよね、そんなん箸が止まらねぇよ。
俺がとうとう最後だと、お皿に残ったイクラをかき集めて、イクラ100%の豪華な一口を頂こうとした瞬間。
外の言い争いの声が大きくなった後に、
ガッシャーーーーン
そんなアニメのような効果音とともに、ガラスが割れた。
「ッ!!!」
俺は瞬時にイクラを放り投げて、ミアちゃんの方へ飛び出す。
俺達のいるところは窓際。このままだと割れたガラスが降ってきて危ないし――――
――――なにより、ガラスを割った原因である鎧姿の男が、ミアちゃんにめがけて吹っ飛んできてるのだ。
と、とどけっ!!
俺はなんで街中でご飯を食べていたら、男が突っ込んできてガラスが割れて、命の危機になるのかと。
これまた神様の仕業かなと、疑いながら、ミアちゃんへ手伸ばした。
「っ!!」
とどいたっ!!
ミアちゃんの身体に届くと確信した瞬間、俺は彼女の背中に手を回した。
まるで抱きしめるかのように体ごと飛びついて、体が落ちる前に自分を下にする。という、謎の高度テクニックを駆使して、ミアちゃんをなるべく危険から守る。
もちろん、その代わり俺が危なくなるのだが。
いざとなったら、スーパー〇ター状態になって頑張るさ。
俺はそう思いながら、もう少しで来るはずの男の襲来を待ち構えた。
俺がミアちゃんを抱いてから、1秒も立たぬうちに、自分の横を何かが通り過ぎる感覚がする
良かった、なんとか当たらずに済んだみたイィィィィィチイチアイイイイイイイ!!!!!?
俺は声にならない絶叫をあげる。
俺らに当たらずに横を通り過ぎたはずなのに、なぜか俺の背中には激痛が走っていた。
いってぇ! なんだよこれ!
誰だよ俺の背中痛くしたやつ!!?
なんか背骨だけめっちゃ痛いんですけど!?
きしんでるんですけど、これ大丈夫なやつ!!?
俺は痛みで悶ながらも、通り過ぎたであろう男の方を見る。
男はこっちの苦しみを知らず、なんかすました顔で着地した。
そして、地面を蹴ったかと思えば、自分が作ったガラスの穴を通り抜けて、外へと走っていった。
…………まさかの謝罪なし?
いや、俺初めてよ。
こんなにガラス割って、こんなに周り危険にして、そしてこんなに人の背骨痛くして。
それでもなお謝らない人。
そこはさ、大人なんだから素直に謝ろうや。
自分の非ぐらい認めようや。
「おっ、お客様大丈夫ですかっ!!? お怪我はございませんか!!?」
少し経って、状況を理解したおばちゃ……お姉さんが走ってやってきて叫ぶ。
これで大丈夫か…………。
俺はテキパキと指示を出して、ガラスからお客さんたちを守ったり助け出したりしていくおばちゃんを見ながら、そう思った。
店員さんたちの非常時の対応はものすごくて。
ほんの数分で、ガラスのかけらは撤去され、きれいになっていた。
でも、割れたところ自体は直すことができず、ガラスにはポッカリと穴が空いたまま。
これ、あの男の人弁償してくれるのかな……。
だとしたら、あの人の財布が心配だなぁと、いらない心配していたその時。
俺は気づいた。
「俺の………イクラが……イクラがァァァァああああ!!?」
俺の楽しみ。純度100%イクラマックス盛りは、どこかに消え去っていた!!!
そういえば、ミアちゃんを助けようと飛び出したとき、スプーンぶん投げてたよな。
あれか、あれが原因か!!?
俺の楽しみ、イクラ丼の醍醐味と言っていいあれを邪魔した挙げく、食べれなくするとか……。
あんの男ぉ!!!! お店に弁償しに来たら、絶対文句言ってやらァ!!!
もう俺、キレそうだ。
俺は消えていったイクラたちを思いながら、密かに決意した。
さっきから、お前の話は長いんだ。
そんなの興味ないから、ミアちゃんを出せという方々。
分かっております。姫様の安否が心配で心配で、夜しか眠れないんですよね。わかります。
結論から言うと、ミアちゃんは元気です!!
かすり傷一つない、健康そのものです!!
やっぱ、俺のおかげかな。
俺が、助けてあげたからぁ、みたいたところはあると思うんだよねぇ。マジ俺イケメン。
…………ごめんじゃん、ちょっと調子に乗っただけじゃん、それくらい許してや。
ミアちゃんはかすり傷一つなく、俺は背中が痛いだけで、ガラスとかによる被害はほぼなかった。
いや良かった良かった。人が怪我しないのが一番大切だからね、他のお客さんも怪我してる人はいなさそうで、そっちも一安心だ。
というか、あの男の人はなんで飛び込んできたの?
言い争いしてた声は聞こえてたけど、そんな吹っ飛ぶようなことある?
あれか、口論がエスカレートして手が出てしまって、それが大きくなった結果……ってこと。
でも、それにしては被害デカくね?
ガラスってそんな簡単にわれないと思うし、俺の背中もかなりの痛みだし。
本当に謎だわ。まぁ、相手がどうであれ、イクラの責任は負ってもらうがな。
「ミアちゃん、大丈夫そ?」
俺はあの男にたかることを決定し、横にいるミアちゃんに話しかける。
ガラスで怪我とかはしてないと思うけど、ほら、俺が抱きしめてその力で背骨折れちゃった☆、的な展開が待ち受けてるかもしれないから。念の為。
「うん。びっくりしたけど、怪我とかはしてないよ。」
ミアちゃんは服の裾を持ってその場でひらりと一回転し、ほらと笑う。
「良かったぁ。」
いや本当に良かった。
怪我がなくてよかったし、元気そうで何より。
このお嬢様に傷を負わせたとなれば、もう死刑確定グッバイ現世だから。
あと、『何こいついきなり抱きしめてきてキモっ』とか。『助けるのにあんな密着する必要なくね? てめ、ただのロリコンだろ。』とか思われなくてよかった。
たしかに普段の行動には多少の邪な気持ちがあるかもしれない。けど、今回ばかりは真面目そのもの。マジで、彼女が心配で助けた。
「お兄ちゃん、」
俺が謎の釈明をしていると、ミアちゃんが傍までやってきて俺を見上げる。
「ん?」
どうしたんだい?
お兄ちゃんに何でも言ってみな。
お金がかからないことだったら何でも叶えてあげるよ。
俺が何を尋ねられるかとワクワクしていると、彼女は俺の顔を見つめて、
「ありがと」
そう、にへらという溶けるような笑顔とともにつぶやいた。
「こちらこそありがとうございます」
はっ、俺今、反射神経で感謝してしまった
けど仕方ない。
みあちゃんはそれくらい。いや、それ以上の輝きを放っているのだから。
クソぉ、可愛すぎてもはや見えねぇぜ!!
俺は壁に穴が空いたレストランで、ミアちゃんとしばしの休息を楽しんだ。
話の盛り上がりも過ぎ、落ち着いたかというところ。
俺がそろそろ男を待つのをやめて、普通にお店を出ようかとも思い始めた頃。
「…………。」
無言で、あたかも当然といったように平然に、男が入ってきた。
っておま!
良くも戻ってきやがったな!!
俺の、俺の楽しみにしてたイクラ丼を奪った張本人め!
許さんぞぉ。
そもそもね、料理屋さんに飛び込むってどうかと思うの。というかそれ以前に、お店のガラスをあんな豪快に弾き飛ばすってどうやったの。
さっき軽く触ってみたけど、ちゃんとしたガラスで、そんな簡単に割れるとは思えなかった。
俺が男を見つめていると、やつは店員さんを呼んで何やらやり取りをすると、手に持ったカバンを開けた。
なんだあれは?
俺は興味津々の翁で、そのカバンを中身を少し離れた自席から覗いた。
あれは………!!!
お、お金っ!!!!
しかもただのお金じゃない。ちゃんとガラスくらい余裕で直せるくらいの大金。
俺が驚愕している間に、お兄さんと男はなにか言葉をかわして、カバンの押し問答を始めた。
自分の非だから、受け取って欲しい男と、そんな大金は受け取れませんスタンスのお店。
そこがぶつかった結果、お金の譲り合いという不思議な状態に陥ったと。
…………それ、俺にくれたりしない?
しないかぁ。そうか、まあそうだよな。お金大事だもんな。
ほんと、金貨一枚くらい貰いてぇわ。
ってんなことはどうでもいい、俺のイクラ丼。あの赤き宝石たちを散らしてしまった罪は重い!
俺はなんか文句言ってやろうと、できるならお金もらおうかと男に近づいていった。
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