第17話 ダイアモンドハーツ

ダイアモンドハーツさんは、噴水から歩いて5分程度。


それくらいの距離、田舎っ子の俺からしたら歩くに入らないくらいだ。


「ここ……?」


パンフレットではここがダイアモンドハーツなのだが……。


「ここ、明らかに大衆酒場だよな……?」


俺は年季のある建物と、扉の向こうから聞こえてくる笑い声に、そんな声を出した。


「だめなの?」


ミアちゃんが、ダイヤモンドハーツらしき店を指さして言う。


「いや、別に大丈夫だけど、ちょっとイメージと違ったんだわ。」


なんかもっと、こう、星3つにふさわしいオシャンティーなお店かと思ってた。


けど、その名前『ダイヤモンドハーツ』から連想されるような、一般向けだったとは。


そう思えば、ワンプレート1000円が高く思えてくるから驚きだよな。


でもまあ、星3つは変わらないと思うし、行ってみるか。


「ご、ごめんください」


控えめに声を出して、扉を開く。


するとその瞬間、


『いらっしゃいま~~せーーっ!!!』


という店員のお姉さんおばちゃんの掛け声がし、続いて、


『ガハハハハハハハ』


『ギャハハハハハハ』


『ウホホホホホホホ』


そんな野太い笑い声が聞こえてきた。


そしてさらには、厨房の奥から、


『一名様ご来てーーーーーーーーーんっ!!!アリガトォゴザイマァスッ』


『『『アリガトォゴザイマァス』』』


という、家系ラーメン屋を彷彿とさせる掛け声が。


まさに、フルコンボだドン状態。


す、すげぇ、言ってる内容は薄っぺらいのに、なんかすごく感じるぜ……。


俺は若干の畏怖を感じながら、お店の端っこの席についた。


「元気だねぇ」


俺の対面に座ったミアちゃんが、そんな平和そのものな感想を述べる。


そうだね、元気だね。

でもねミアちゃん。あの人たちはあれが仕事なのよ……。


実際は、仕事が終わったら一言も喋らない幸薄系主人公かもしれないから。


…………いや、あの『アリガトウゴザイマァス』からして、それはないか。


「何にするかなー」


俺はメニューを広げてつぶやく。


海鮮と銘打ってるだけあって、メニューに並ぶのはお魚ばかり。


お寿司に刺し身に丼に、揚げ物に焼き魚に煮魚なんかもある。


よりどりみどり、なんでもござれ。


「ミアは…………これがいい!」


ミアちゃんはメニューの右端を指さして言う。


どれどれ、サーモン三色盛り。

いやぁいいね。サーモン美味しいよな。


何か知らんけど、子供ってサーモン好きだよな。

マグロとかより、サーモンサーモン言ってるイメージあるわ。


かく言う俺も、昔はサーモンだいすき人間だったしな。

なんでなんやろ。


俺はどうしようかなー。


寿司は気分的にパス、刺し身も米がほしい。

ってことで丼一択なんだけど。


マグロかイクラかブリか。


その三択だよな。


うーん悩む。どれもこれも一長一短。全部美味しそうではあるが………。


よし決めた!


「すみませーん」


俺が少し大きめの声で声をかけると、おばちゃ……お姉さんおばちゃんはすぐさま反応して、


「はーーーいっ!!!」


高速でテーブルのそばまでやってきた。


は、速すぎる……。盗塁のときの大谷○平かよ。


そもそも大谷○平をよく知らないので、盗塁が速いのかわからないけど、二刀流だし、速いんじゃね?


そんな適当論理をかましながら、俺はおばちゃ……お姉さんおばちゃんに注文を伝える。


「サーモン三色盛りとイクラ丼で。」


「かしこまりましたー。ご一緒にポテトはいかがですか?」


俺がメニューを指さして言うと、おばちゃん……あっ……はポテトを勧めてくる。


いや、ポテトって。ここはマ○ドかよ。そういえば、マ○ドというのは関西で、関東はマ○クらしいね。


俺はどちらかといえばマ○ク派かな。ハンバーガー食ったことないけど。


「え、あ、大丈夫です。」


魚にポテトはよく分からないので、丁重にお断り申した。


するとおばちゃんは、


「かしこまりましたー。ごゆっくりどうぞー。あと、おばちゃんじゃなくて、 でして!」


そう、鼻息荒くつぶやいて、去っていった。


…………だからいやだったんだよ、せっかく途中までは言いそうになるのを必死に抑えて、お姉さん呼びにしてたのに。


なぜか、あれくらいの歳のあれくらいの大きさのあれくらいの女の人って、心の中読めるんだよね。


もしポロッとおばちゃんなんて言ってしまえば、そいつは翌日日の目を見ることができないだろう。


母は強し。おばちゃんは強し。


これを心に留めて生きていこうぞ。


俺はお店の中を歩き回るお姉さんおばちゃんを見ながら、そう思った。


「ミアちゃん、サーモン好き?」


俺は食べ物が来るまで暇だし、雑談を始める。


「うん! 好き!!」 


…………今のは攻撃値高い。主語のない好きは、それもう告白だから。異論は認める。


「そうか。マグロとかは?」


「好きだけど、サーモンのほうが好き。」


「へぇー、サーモンより好きな食べ物は?」


「うーん……あっ、イチゴ!」


「イチゴね。うまいよな。」


「うん! 甘くて美味しいの。」


そんな他愛のない会話のラリーをしていると、時間は案外過ぎていくもので。


「おまたせしましたー」


いつの間にか、おばち……お姉さんが横に立って、そう言っていた。


「ごゆっくりどうぞー!」


お姉さんは、見事な手付きで俺とミアちゃんの前に料理を置くと、引き時は分かっているとすぐに帰ってゆく。


正しくプロの技。さぁすがっすね。


「うわぁすごいっ!」


ミアちゃんが、料理を見てつぶやく。


サーモン三色盛りの名前に恥じない、三色のサーモン。そして、そのお供の白米。


見た目だけでわかる新鮮さと美味しさ。やばいね。


「「いただきまーす」」


俺たちは手を合わせて、ご飯を食べ始めた。


俺はイクラ丼。赤いイクラが所狭しと丼の上に乗っている。すげぇ、強そう。


「んぅ、おいしい」


ミアちゃんも、頬を抑えて笑みをこぼす。


うおぉ、ご飯自体もそうだが、ミアちゃんと食べるなら更に美味しくなるわぁ。


俺は彼女の笑顔を見ながら、そう思った。


…………変態じゃないよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る