第16話 お手紙っ!

俺たちが隣町ナリィタまで訪れた理由は、ミアちゃんがユーリに手紙を出したいから。


で、その目標はさっきポストに投函することでクリアしたと。


となれば、もう帰っても良いわけですけど。


先程も述べたとおり、どがつくほどの田舎である私達の町への馬車は、朝にしかありません。


朝、私達の街からナリィタへ数時間かけていき、ナリィタで少し止まった後、そのまま戻るという運行状況。


つまるところ、本日中に帰ることは不可能なわけです。


ミアちゃんと俺。男と女が二人で見知らぬ街で泊まるわけです。事件が起きないはずも…………ないんですねぇこれが。


だって、ミアちゃんのお母様は俺だから、ミアちゃんを安心して送り出せたわけだし。


なにより、まだミアちゃん幼いし。

それに、俺手を出せるほど度胸ないし。チキンだし。ケンタ○キーにされちゃう感じだし。


てなことで、夜の宿のチェックインまで時間が空いている。


時間はもう昼時。

そろそろお腹が空いてくるお時間ですね。


「なんか食べたいものある?」


俺は街の中心噴水前のベンチに腰掛けて、ミアちゃんに尋ねる。


なんかの噂で、デートに行ったとき『何食べたい』『何したい』『何がいい』と女の人に聞きまくるのはダメらしいな。


その逆もしかり。相談もせずに決めすぎてもダメ。

ほんと、難儀なものよ。


まぁ、そんな知識があろうとも、俺は何が食べたいのか聞くけどね!


「うーん、お魚!!」


少し考えこんだミアちゃんが、顔を上げて言う。


「お魚かぁ。何かあっかな。」


ナリィタは海に近いとも遠いとも言い難い内陸都市だが、流通の拠点になってるので大抵のものは揃う。だから、新鮮ピチピチな魚もあるはずである。


そう、あるはずなのだ。

ただ、俺は根っからの田舎っ子だから、ナリィタに何があるか正直わからない。


そんなときに使えるのがこちら。


「パンフレット〜」


俺は某猫型ロボット風に、ナリィタのパンフレットを取り出す。


実はさっき郵便局のところでちゃっかりと拝借していたのだ。ちゃんと、無料のやつね。


「えっと、ご飯ご飯……」


縦長に折りたたまれていて、横に広げられるタイプのパンフレットを開き、食べ物の欄を探していく。


「あれなくね?」


「ここ!」


俺が全体を見渡してもないなと首を傾げていると、横からミアちゃんが指を指した。


その先には、大きな文字で『お食事』の文字。


…………あざす。


べ、べつに老眼なんかじゃ、な、ないんだからね!


ただ、頭が足りなかっただけだ。うん、そっちのが悲しいな。


俺はミアちゃんに感謝しながら、ご飯の欄から海鮮を見つける。


これは、スムーズに行ったな。まあ、選択肢がもとから一桁以下だから当たり前っちゃ当たり前だけど。


「どんなのがいいかな〜」


リズミカルにつぶやいて、俺は適当に指をパンフレットに振り下ろした。


「ここだっ!」


指されたところを見ると、そこには『寿司屋 ダイヤモンドハーツ』の文字が。


なんか名前は胡散臭い昭和のスナックみたいだけど、星を見れば堂々の星3つ。


美味しさは確かだ。あとは、お値段の問題。


俺の母ちゃんからも、ミアちゃんのお母さんからもお金を貰ってるとはいえ、それを足したって大した額ではない。


星3つのお店にドヤ顔で入れるほどはないのだ。


俺は安くあってくれと、軽く願いながら『ダイヤモンドハーツ』のページを見る。


そこには…………


堂々とふと文字で、


『1皿1000円』


の文字。


「うぉぉ、すげぇ……」


俺はその強気具合に、感嘆の声を漏らす。


星3つでしかも写真から見るにオシャレな感じなのに、ワンプレート1000円なんて、それは強いな。


逆に安くて不安になってくるまである。

けど、星3つついてるし、信じたほうがいいと思う。


「ここどう?」


俺は、ミアちゃんにパンフレットを見せて、ダイヤモンドハーツを指差す。


ミアちゃんはじっくりくっきりはっきりパンフレットを見て、


「いいと思う!」


パアッという輝かしい笑みをこぼした。


「オッケ!」


俺もサムズアップを返し立ち上がる。


いざゆかん、『ダイヤモンドハーツ』!!

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