第15話 都会ってすぎょい
そんなこんな、紆余曲折、閑話休題、人間万事塞翁が馬。
ミアちゃんは可愛い寝息を立て、俺はボーッと外を見つめている間に馬車は隣町へとついた。
隣の街は、一言で言えば中核都市。
俺らの町みたいな田舎ではない、ちゃんとした町。
たしか、この地域一帯の取りまとめ的な役割も担ってた気がする。
時折国王も訪れるくらいの大きさの都市である。
「うわぁ、すっげぇ、やっべぇ、でっけぇ」
俺は見事なまでの『〜っけぇ』三段活用をかまし、街の様子を言葉にした。
適当な感想だと思うかもしれないが、実際そんな感じなのだ。
一時間散歩して会えるのはかかしだけ。みたいな田舎と違って、至るところに人がいて、息が苦しくなりそうなほど。
店がたくさんあり露店なんかも出て、賑わいもマックス、オリ○クス。
おまけに、通ゆく女の人はみな若くておキレイときた。
すっげぇし、やっべぇし、でっけぇだろ。
「ミアちゃん、もう少しで着くよ。」
馬車が街の中心部へ迫りかかったところで、俺は膝にのるミアちゃんをチョンチョンとつついた。
「ん……ふぇぇ……?」
数秒の間、目をパチパチとさせて微睡んでいたミアちゃんが徐々に覚醒していく。
「ここはぁ?」
お目々をこすりながら、ミアちゃんが尋ねた。
「お隣の街、ナリィタだよ。」
「ナリィタ……着いたんだぁ」
俺が答えると、ミアちゃんはそうにへりとした笑みを浮かべた。
…………かわゆすオブ・ザ・イヤー。
記憶の混じりで見た、あの『カメラ』とかいう不思議な箱を、今猛烈にほしいと思ったわ。
てかさ、記憶の混じり君、特別な割にしょぼいよね。
異世界の記憶渡されても何しろってんだよ、せめて実物が数量限定でも手に入るとかならまだ使えたのにさ。
ダイナマイトとかこっちで作ったら神じゃんとか思ったけど、まず知識も材料もワケワカメだからできるはずがないんだよな。
マジ使えないわ。暇なときアニメと漫画見て読むくらいにしか使えないわ。
そんな、多方面に喧嘩を売りそうなことを考えていると、とうとう馬車が止まった。
『ナリィタ、ナリィタ。ナリィタに到着です。』
おじちゃんがよく通る声で言う。
「はいこれ。」
俺は馬車から降りて、おじちゃんに金を払う。
後払いだからって払わなきゃだめよ。
ただでさえ赤字なのにこれがないと隣町まで大変だからって、善意でやってくれてるものなんだから、感謝しないと。
おじちゃん、ありがとな!
俺は心のなかでサムズアップして、おじちゃんに笑いかけた。
「ねぇねぇ、郵便局どこなのぉ?」
オレの服の袖をくいくいとして、ミアちゃんがつぶやく。
彼女ははじめての都会に、若干ビビってるみたいでこころなしか俺との距離が近かった。
「あっちだよ。離れちゃだめだから、手つなごうね」
俺がそう言って、左手を差し出してやると、
「うん!」
ミアちゃんの顔がぱあっと明るくなって、まるで餌に飛びつく魚のように俺の手を素早く握った。
うんうん。離れると危ないからね。
都会になった分ヤバい人も怖い人もたくさんるから、自己防衛大切。
…………決して、俺がただミアちゃんの柔らかいお手々をニギニギしたいというわけではない。決してない。
…………す、少しはあったかもしれないから、悪魔の呪いで俺を殺そうとするのはやめろな。俺死ぬから。俺死んだら、この話終わるから。打ち切りだから。
まだ二章なのよ。始まってすぐなの。流石にこれでは終われないっすから。まだ少し生きさせてな。
俺はそう言い訳にならない言い訳を並べて、ミアちゃんと手をつなぎながら街の中心の広場に向かった。
郵便局の位置を正確に覚えていないけど、なんとなく真ん中らへんにありそうだし、そっちにあるって聞いたことがあるから。
いや、本当に道が広いですね。
これが都会ですか。田んぼと田んぼの間のあぜ道何個分なんだって話よ。
「すごいねぇ」
ミアちゃんも、都会に少しずつなれてきたみたいで、建物や行き交う人々を見て感嘆の声を上げた。
「王都とか行ったらもっとスゴイんだろうな。」
そう。忘れてはいけないのが、ナリィタは中核都市ということ。
オーサカやサッポーロ始めとする主要都市はさらに栄えていて、王都トーキョーはこの王国で最も栄えている。
「着いた!」
そうこうしている間に、街の中心の噴水公園についた。
ミアちゃんが噴水を指さして、嬉しそうに声を上げる。
大都市かつ昔からある街だからか、道はこの噴水広場を中心に放射線状に広がっている。
よくわからんが、そっちのほうが守りやすいのかな。
「あの、赤いのかな?」
俺は噴水の向こう側に見える、黒目の赤の建物を指さして言う。
「そうじゃないかなー」
ミアちゃんは口ではそう返答しているが、目は噴水に釘付け。
噴水とか気になっちゃうお年頃ね。たしかに、プシャーってなっててきれいよな。
「ミアちゃん」
俺は彼女の後ろに立って声をかける。
「うん?」
いきなり名前を呼ばれて、ミアちゃんが不思議そうに振り返る。
「よいしょっと」
俺はそんな掛け声とともに両手を伸ばし、彼女の
「ふぇっ? ふぁぁぁ」
一瞬ビックリしたように震えたミアちゃんだったが、すぐに俺の意図がわかって笑顔になる。
「スゴイよ!スゴイ!!」
「でしょでしょ。」
俺ははしゃぐミアちゃんを持ち上げたまま、自分も噴水を見る。
俺がやったことは簡単で、彼女の小さな体を持ち上げて視線を俺より上に持っていっただけ。
ほら、噴水とかって上から見たほうがきれいじゃん。
というか、この噴水の水すんごいきれいだな。
普通に街の小川の水が通ってるはずなのに。
どれだけき元がきれいでも、やっぱり街を通れば多少は汚れるはず。なのに、この水は清流のようにすき通っていた。
「スゴかったよ!!」
しばし噴水を楽しみ、地面におろすとミアちゃんが興奮した様子で告げた。
「そりゃ良かった。」
俺も軽くほほえみ返して、郵便局の方に足を向けた。
時間はあるし楽しみも大切だけど、やっぱ目的は早めに達成したほうが心持ちがいいからね。
「手紙ってどうやって出すの?」
歩きながら、ふとミアちゃんが尋ねた。
「どうやってって……切手貼ってポストにドーン……?」
俺はそんな適当な認識だったけど、たしかによく考えれば複雑な仕組みよな。
俺らから郵便局にお金、と荷物が行き、そこからお金は国と郵便局に入り、荷物は仕分けられて長距離移動して、そっちの郵便局で仕分けられて配達員さんに配られる………。
めっちゃ簡素化するとそんな感じたけど、実際はもっともっとたくさんの人が関わってるんだろうな。
「これでいいの?」
ミアちゃんがポケットから、大切そうに一つの封筒を取り出した。
「ちょっと見せて。」
お母様も手伝ってるだろうし、大丈夫だとは思うが一応確認。
住所、郵便番号よし。切手も名前もよし。
うん、良いんじゃね?
ちょっと前に切手代金改正とかで値段が変わったような気がしなくもないけど、まあ大丈夫だろ。
「どこにだす?」
真っ赤な郵便局の前までついたが、どこに出せばいいかわからずミアちゃんが首を傾げる。
「ポストで多分大丈夫。ほら、あの赤い四角い箱に入れるんよ。」
窓口直みたいなのもできたはずだけど、面倒くさいし何より人と話したくないからね。
…………別に陰キャではない。ただ、ちょっと他人と話すのが苦手なだけだ。
「ここぉ?」
ミアちゃんが、ポストを指して尋ねる。
「そーそー。そこの穴に投函で完了。」
「わかった!」
俺があの手をはさみそうな細長い穴を指差すと、ミアちゃんは元気にそこに自分の手紙を投函する。
いや、ポストの位置高いやろ、ロリっ子に届くわけ無いやん。おま、ちゃんと設定練れよ。これだから異世界系は……。
という苦情を言いに来た皆様は、安心してお帰りください。
ナリィタは都会なので、しっかり配慮されていて、子供用の小さいポストもあるのです。
都会って凄いねー!
俺はポストの穴の蓋をカポカポして喜んでいるミアちゃんを見つめて、そんな小並感漂う感想を述べた。
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