第14話 馬車移動

隣町まではかなりの距離がある。


どのくらいかというと、馬車で2,3時間くらい。

だからキロ換算で、2,30キロかな。


歩いていくのは論外。

馬車でもお尻が痛くなって、あまり快適ではない旅路である。


旅人の使う竜車とか、あとは空を飛ぶ動物を手なづけたりしないと、快適に速くはいけない。


俺らにそんなものを使うお金があるわけもなく。


俺とミアちゃんは、お手々を繋いで街の乗り合い馬車へと向かう。


「晴れてるね。」


ミアちゃんが、空を見上げて言う。


「そうだね。太陽が眩しい。」


俺も、空を見上げて返事をする。


…………え、待って。俺、こんな小さい子にもコミュ症発動するの?


いや、違う。早まるな俺。


話したくないわけじゃない。

話したいけど、今まで話してこなかった分、何を話せばいいのかわからないだけだ!


…………そっちのが虚しいんですけど。


「あのね、私お姉ちゃんにお手紙書いたんだ。」


俺が謎の虚無感を感じていると、ミアちゃんが天真爛漫な笑顔でそう自慢げに言う。


「そうなんだー。何書いたの?」


あぁ、なんで素晴らしいんだミアちゃん。

こんな可愛くて、おまけにコミュ力もあって空気も読める。

しかも、お姉ちゃんに手紙を書く家族思いっぷり。


ほんと、完璧だわ。


「離れちゃって寂しいけど、お姉ちゃん頑張ってって。あとは、お母さんが何か書いてた。」


俺の問いに、ミアちゃんは嬉しそうに答えてくれる。


「そうなんだ。やっぱ寂しいか。」


こんなしっかり者に見えるミアちゃんでも、まだ幼いからやっぱりお姉ちゃんとの急な別れは悲しいよな。


ユーリと、仲が良かったみたいだし。

兄弟がいない分一人の寂しさはよくわかる。


「うん。けど、お母さんにお父さん。あとは、クラルがいるから平気!」


うんうんと頷く俺に、ミアちゃんが晴れやかな笑みを見せた。


おいおいおい。いきなりの名前呼び、からのご家族と同等の扱いはズルいって。


マジ、結婚したくなっちゃうからやめてほしいわ。


「そうか。強いね。」


俺はミアちゃんと繋いだ手を、前後に振りながら、彼女に微笑んだ。


本当に強い子だ。


この年になっても線引がうまくできない俺とは、大違いだ。


「お歌歌おう!」


「おう! いいぜ!!」


俺たちの隣町への旅は、まだ始まったばかり。




…………てか、まだ街を出ていないです。














てなわけで、乗り合い馬車の停留所まで来た。


馬車は1日一回限りしか来ない。


来るのは朝の時間帯。

せめて、夜にもう一本は欲しいと思うけど、それをするとお金が足りなくなってしまうらしい。


田舎は辛いね。


俺ら以外にここの停留所で待ってる人はいなかった。

だから、赤字なんだよ。


「手遊びしよ!」


そう言われて、俺はミアちゃんと手遊びを始める。


手遊びとはなにか。

それはとても簡単で、その名の通り手を使った遊びだ。


なんか適当に、手を使って遊べばいい。

つまんないと思われるかもしれないが、汎用性が高く様々な遊びができる。


影絵や、じゃんけんは序の口。


カミング一万尺という、日本で言うアルプス一万尺のようなものや、拍手合戦。

手の大きさ比べに、ずいずいずっころばし。


こうやってあげただけでも、軽く数十分はつぶせる。


馬車は遅れるときはとことん遅れるが、普段はほぼ正確に来るので、そんなこんなしていたら普通に道の先に馬車の影が見えてくる、


「馬車来たよ。」


俺が茶色の馬を指さして言えば、


「うん! ドキドキだね!!」


ミアちゃんも楽しげね笑みを浮かべて、馬車の到着を今か今かと待つ。


この馬車も最新型の訳がなく、2頭の痩せ気味馬が頑張って引いている。


タイヤとかそういったところとシンプルかつ、少し時代おくれ。


ただ、技術面ではさほどの違いは出ないらしいので、新旧どちらでもいいかな。


ただ、古い方はケツが死ぬほど痛くなるだけは気をつけろって、死んだ父ちゃんが言ってた。


ごめんうそ。俺の父ちゃんまだ生きてるわ。

普通に、今朝も畑仕事に励んでましたわ。


勝手に殺してすみません。


俺は中年フェイスを思い浮かべながら、目の前で停止した馬車へと乗り込む。


「いてっ……」


入り口が狭まっているので、頭をぶつけてしまった……。痛い。


「うわぁ、貸し切りだぁ!」


ミアちゃんが、中に入って周囲を見渡してから言う。


彼女の言うとおり、乗合馬車は空で、俺たちが初のお客さんみたいだった。


「前座ろ!」


ノソノソと動き始めた馬車の中で、ミアちゃんがそう笑う。


「あっ、待って。」


俺は最前列に腰掛けようとする、ミアちゃんを一度止める。


首を傾げてどうしたのと言いたげな彼女の前で、俺は椅子に腰掛けて。


「はいここ。お尻痛くなっちゃうから。」


そう、膝の上を軽く叩いた。


お嬢様の麗しきお尻を痛めるわけにはいかないからね。


…………単にお前が膝にのせたいだけだろとかいうツッコミは受け付けておりませんので、お帰り下さい。


「えへへ」


俺の膝にスポッと収まったミアちゃんが、頭を後ろに反らして、俺を見つめて笑う。


…………ありがとうございます。


これだけで、どんなにお尻が痛くなっても耐えられるような気がするよ。


「速いねー」


ミアちゃんが、向こうの景色を見ながらつぶやいた。


「馬だからね。けど、これでもまだ時間かかるから、寝てもいいよ。」


馬車の不規則な揺れが脳を揺さぶっていい感じに眠くなるだろうし、1,2時間手持ち無沙汰は暇だろうから寝ることをおすすめするよ。


「わかったぁ」


ミアちゃんは、そうつぶやいて目を閉じる。


「すぁ……すぅ………」


そして、その数秒後にはそんな可愛い寝息をたてていた。


「おやすみ。」


俺は彼女の頭を控えめに一撫でして、景色を眺める。


俺も眠くなってくるけど、この物騒な世の中。二人して眠ってしまっては、何をされるか分からない。


だから、俺は起きているのだよ。


俺は馬車に揺られながら、適当に自分の将来のことでも考えて、時間を過ごした。


将来のこと。


なんてまとめれば簡単だが、これが意外と難儀なものよ。


特に俺みたいな、優柔不断かつ変なところで面倒くさがり&こじらせボーイには尚更。


しかも、俺の持ってるスキル『草』だぜ?


これで、まともな将来設計描けるもんなら描いてみろってんだ。


俺的には、これと言った目標はない。


ただ、――『夢』――――ならある。


『誰か』の『英雄』になる。


そんな、子供じみた馬鹿げた夢を、俺はまだ捨てられずにいる。


ミアちゃんのやつで、英雄になれたかと言われたら、正直微妙だ。


そもそも、人によって英雄の定義が違うし、何より自分でもあまり納得がいっていないし。


たしかに、すごく怖かったし死ぬかと思ったし、なんなら半分くらいは死んでたし。半殺しだったし。


気概だけならもはや、英雄超えてるんだけど。


けど、最後はスキルに振り回されて、俺が俺でいて、俺である意味というか。なんとなく、納得のいかない終わり方だったから。


だから。やっぱり、まだ『夢』は叶ってないし、これから叶うかもわからない。


けど、望むことだけは、夢を見続けることだけはしようと思う。


そんでもって、それ以外のときは適当に農業でもやって、過ごしてりゃいいんじゃないの。


「ふぁぁぁ……」


俺はそこまで考えて、外の景色に目をやる。


少し見えた空は、青一色に染まっていた。

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