第13話 ニートじゃねぇし!

ミアちゃんと隣町に行くのは一週間後。


俺はその日を待ち望みにして、労働に精を出していた。


朝早くから働き、夜も遅くまで働く。


そこまでは、それ以前と同じだ。


ただ、今の俺はさらに一味違う。


働いてる時間以外に時間を捻出し、しっかりと剣をとって鍛錬を続けているのだ。


『草スキル』があるとは言え、あれは強さも継続時間もまだまだ未知数だし、何より不確かだから。


弱いままかもしれないけど、少しでも、強くなりたかった。


役に立つかも分からない努力だけど、けど、夢に近づいているのは確かだ。


「ふぁあ」


そして迎えた、お出かけ当日。


俺は昨日張り切りまくって、早く寝すぎたのでまだ日が昇らない頃から目が覚めてしまった。


「ぶふぁぁ……」


御下品なあくびとともに、寝間着のままリビングへ行く。


「おはよ。早いね。」


「おはようさん。」


母ちゃんと父ちゃんはもっと早く起きていたみたいで、飲み物片手に団欒していた。


「おはよ。」


俺も適当に挨拶を返して、朝ごはんを食べる。


適当にパンに薄いハム挟んで、あとは牛乳。

それだけで朝は十分だ。


「じゃあ行ってくるわ。あんた、今日出かけるんだっけ?」


俺がモソモソとご飯を食べている間に、畑仕事の用意を済ませた母ちゃんが、外へと出ようとしていた。


「おう。」


俺は母ちゃんに片手を上げて返事をする。


「気をつけろよ。じゃあな。」


少し遅れて用意を済ませた父ちゃんが、俺の頭に一瞬触れてから、そうつぶやいて出ていった。


「あぁ、わぁってる。」


俺は二人のいなくなった家で、一人そんな強い肯定の言葉を投げた。












さっきも言ったとおり、昨日の俺はすごく張り切っていた。


どれくらいかといえば、修学旅行前日の中学生くらい。荷物のチェックを7回し、アラームセットを9回するくらいの張り切りっぷり。


おかげで、今日やることは事前に準備してあるわけで。


つまるところ、やることがない。暇すぎる。


だって、まだ日がようやく昇ったくらいだし、服装の何も決めてあるし、なんなら持っていくバックのポケットにハンカチを詰めることまで終えているし。マジやることない。


仕方ないので、適当に腹筋背筋腕立て伏せスクワットなどの室内でできるトレーニング4種盛り合わせをやってみるけど、それも30分もしないうちに飽きてしまう。


待ち合わせまであと軽く2時間はある。

どうしたものか。


とりま、鍛錬でもするか。


そう思った俺は、一度着た勝負服を脱いで、適当な服に着替えて、外へと出た。


「うぅ、まぶしぃなぁ」


今は完全ニートだった昔と違い、半ニートで畑仕事を手伝っているので慣れてきたけど、やっぱ最初の太陽とのエンカウントは目に来るね。


俺は目をしばしばしながら、家の横の空き地へと出る。


視線を奥にやれば、母ちゃんと父ちゃんが仲睦まじく畑仕事に勤しんでいた。


「よいしょっと。」


俺は念の為建物と畑とか距離を取って、剣を持つ。


「ふっ……はっ……」


大げさ目に掛け声を叫びながら、俺は鍛錬を始めた。


ここで、とても申し訳ないことを言うと。

剣を振るシーンなんて、書くことがないのでここは全編カットらしいです。


ちなみに最低でも一時間はやっていた。


てなわけで、おとな作家の事情で時間の割に短い鍛錬パートを終えて、俺はもう一度一張羅の勝負服を着直した。


ミアちゃんと、隣町に行く。


そのシュチュエーションを考えに考えた結果、俺の中で最適と出た格好。それは…………


「やっぱこれよな」


…………いつもの、青っぽい黒のズボンに、よく分からないけど淡い感じのシャツ。


今の時期、これでバッチリだ。


カジュアルでもあるが、誰か追手に追われたとしても、走れるような格好。


マジ、俺天才では?


昨日通りすがった母ちゃんに、白い目で見られたような気もするが、まあ気のせいだろう。

それか、俺の圧倒的センスに恐れおののいてしまったのかも。


俺は鼻歌を口ずさむという、一文で矛盾することをしながら、最終確認を済ませていく。


「服よし! 髪よし! 顔……仕方ない! バッグよし! 持ち物よし! 性格……どうにもならん!」


そうやって己に現実を突きつけ、朝っぱらから泣きたくなったところで、ようやく家を出る。


「ふんふふんふふん」


大してうまくもない鼻歌だけど、今の俺にしたらそれでも心が軽くなる。


なぜかって?


だって、ミアちゃんに会いにいくんだよ?


そりゃ心は弾むよ。超弾むよ。ゴムボールもびっくりの跳ね様だよ。


本当は1時間前くらいから、乗り込んで簡易的な椅子とか持って待ってたかったけど、流石にお家集合でそれは迷惑甚だしいので。


ちゃんと、10分前くらいにしておいた。

俺、偉い。


…………この程度のことで、自画自賛するとか、俺疲れてんのかな。


今日は早めに寝よ。


思わぬところで、見たくない現実を突きつけられたあたりで、ミアちゃんのお家がもうすぐそこに見えてきた。


ユーリは…………何してんのかな。


もう、違う道を行ったし俺のせいでギクシャクした関係だけど、同郷の身として、頑張ってほしいな。


俺は空を見上げながら、そんなことを思い、ミアちゃんの家のドアを軽くノックする。


ちゃんと3回ね。2回だとおトイレだから。


「はーい!」


元気な返事がしたあと、ドタバタという音がして。


「クラル君、おはよう! ちょっと待っててね。」


お母さんがひょいと顔を出して、それだけいうとまた戻って行った。


まだちょっと早かったかな。


にしても、ミアちゃんのお母さんと、うちの母ちゃんが同じくらいの歳なんて信じらんねぇよな。


詳しいことを言うと、母ちゃんにボコられて最悪二度と息ができなくなるので、言わないけど。


明らか、見た目の面は同じようには見えない。


まあ、元気さで言えば、同じぐらい。もしくは、母ちゃんのが上だけどな。


俺が、ミカッと中年女性らしい笑みを浮かべる母ちゃんを思い浮かべて苦笑いしていると、またドタバタと音がして。


「おはぉー!!」


今度は、ピチピチ一桁のロリっ子ミアちゃんが飛び出してきた。


「ごふっ!」


いつ喰らっても、なかなかなタックルだぜ……。


ミアちゃん、体重は心配になるくらい軽いのに、勢いが強いから、受けるのも大変だ。


まあ、嬉しいんだけどね! ね!! ね!!!


大事なのでもう一度言います。


嬉しいんだけどね! ね!! ね!!!


「もうちょっと待ってね!」


「うん。」


ミアちゃんは、軽く抱きついたあとにそう微笑むと、またお家の中に戻っていった。


あれかな、新手の焦らしプレイかな。


俺はむしろそっちのが……なんて変態的思考を加速させながら、ミアちゃん宅が落ち着くのを待った。









「おまたせしました。」


数分後、お母さんが微笑みとともに玄関から顔を出した。


「いや、俺も早く来ちゃったみたいで、すみません。」


申し訳無さそうにしているので、そう軽めにフォローを入れる。


たあ、単に事実でもあるけどね。


「またせ!」


微小を浮かべるお母さんの後ろから、ミアちゃんが顔を出す。


「どぅ?」


時間をかけただけあって、普段とは違った格好をしたミアちゃんが、スカートの裾を持って尋ねる。


…………神です。


ここに神があらせられます。

こんな事を言うと教会の奴らに抹消されそうだが、神としか言いようがないのだ。


女神、天使、お姫様。

ほんと、そんな概念上の美しさを、余裕で突破してくる、ミアちゃんのかわいさ。これ、チートだよね。


いやね、俺がロリコンで、ミアちゃんの顔がいいからって思うでしょ。


たしかにその部分もある。けど、違うの。本質はそこじゃないの。


前にも言ったとおり、ミアちゃんは『ロリ』と言う概念の、その向こう側にいるの。

歳とか関係なく、『ロリ』であり、『ロリ』ではないんだ。


おめかしした、淡い水色のスカートに、彼女の髪色にあった白銀のワイシャツのようでいてワイシャツではなさそうなひらひらのついたシャツ。


俺の少なすぎる語彙で表しきれないが、そんな感じの服をメインにいろんな小物とかで彩っている。


彼女のひょいとスカートを持ち上げる仕草、慣れないけど背伸びをしてやって見た貴族式の礼、綺麗なものを着て嬉しいのと、なんて思われるか不安なのが混じった表情。


そのすべてが、ミアちゃんという存在を昇華し、作り上げ、神にしていく。


まあつまり、ぐうかわってこと。


俺は、ミアちゃんにそんな熱烈答弁をしようと思うが、親御さんの前だし何より本人が困ってしまうだろうから、ぐっと堪えて。


言葉を選びに選び選考に選考を重ねて、一言。


「超可愛いです。けっこ……結構そのスカートひらひらで、そういうところいいね。」


…………おい、やらかしとるやんけ


何が選考に選考を重ねただよ。

一時予選落ちのやつが、普通に闊歩して、なんなら出場して優勝かっさらってるやんけ。


『けっこ……』って、絶対結婚申し込もうとしただろ。

しかも、そのごまかし方が『結構そのスカートひらひら』って、意味分かんないんですけど。


ほんと、コイツなんなの?


「でしょ!」


そんな、俺のやらかしを気にせず、ミアちゃんは嬉しそうにスカートをひらひらさせる。


てぇてぇ……


もう、ミアちゃんって最高だよね。

この子がいれば、戦争なんて起こんないような気がするよ。


「じゃあ、一日よろしくおねがいします。」


「ょろしく!」


ミアちゃんを暖かな笑みで見つめるお母さんが、ゆっくり頭を下げた。


それに続き、ミアちゃんもお辞儀をする。


「こちらこそ、娘さんをお…………お預けいただいたので、全力で守っていきます。」


…………おい俺、またやったやん


完全に結婚の挨拶のテンションだったじゃん。

なんでお前、彼女もいないくせに結婚ばかりしたがるの。バカなの。


まぁ、結果的に言いたいことに繋がったから、よしとするけどさ。


「いこ」


自分の過ちを振り返る俺の袖を、くいくいと引いたミアちゃんが、そう二文字で圧倒的破壊力を持つことを言う。


「行こう!」


俺も彼女にそう笑いかけ、俺らは二人で隣町へ向けて出発した。

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