第10話 ご褒美
「ったく、ひどい奴らだぜ……」
そんな悪態をつきながら、俺は自分
目指すはユーリの家だけど、あいつの家は俺の家のすぐそこだから、実質帰宅と同じなのだ。
「夜中だと暗いなぁ」
俺はたどり着いた自分の家の前で、そんなことを言う。
いつもはもう少し明るくて大きく見えるけど、闇の中だと暗く小さく見える。
自分の家ながら、ちょっと怖い。
まぁそれはどこの家も一緒だろうけどな。
俺は自分家から本当に数十秒のところにある、ユーリの家に立ち、ドアを3度ノックした。
このノックにも色々マナーがあって、2回だと便所になるからだめで、国際的には4回が正しいらしい。けど、日本の場合は就活とかでも3回が推奨されてるとこが多いよな。
俺はこっちでは使えない、『記憶の混ざり』による豆知識を披露する。
なにげに、国民的髭親父兄弟ゲームとか受け入れて、スパースターの音楽についても語ってるけど、どっちも俺が知らないはずの情報なんよなぁ。
他の世界の知らない国の『知識』『常識』や『当たり前』。それはこっちからすれば『未知』で『非常識』で『画期的』なものばかりだ。
「はーい」
俺が異国の知識に思いを馳せていると、家の中からそんな声が聞こえてきた。
これは、ユーリのお母さんだな。
伊達に近くに住んでないから、家族構成とだいたいの感じならわかる。
「すみません、今お父さんはでかけて……て……ッ!!!」
玄関を開けた彼女は、俺のことを確認したあと口に手を当てて声にならないような感嘆符を並べた。
娘がいなくなったんだとの、両親としては気が気でないよな。
今いないお父ちゃんも、たぶん探しに行ってるんだろう。
お母様。こちらお届けに参りましたよ。
「み…………ミアっ!!」
俺は上ずった声を出すお母様へと、背中を向けてミアちゃんを渡す。
「み、ミアは!!?」
「寝てるだけですから、ちょっとすればちゃんと起きますよ。」
寝ているミアを見つめて言うお母様に、俺は安心の事実を教えた。
俺はできる男。ここで変に居座ったりせず、親子の感動的再開を演出できちゃうのだよ。
俺は『ふぇ……おかあたん?』とまだ状況がわかってないミアちゃんと、涙を流したお母さんとの感動の再開を見て、そっとドアをしめ………
『お兄ちゃんっ!!!!』
…………ようとした
お母様との抱擁を早めに終えたミアちゃんは、そこからトテトテと走り出して、こちらへ走ってくる。
あれ? なんだろう、俺の目には天使が向かってくるように見えるよ。
あぁ、なんて素晴らしい光景。
俺は笑ってるよ。
君も笑ってるよ。
なんて、なんて素晴らしい
俺は手を広げ向かってくるミアたんを拒むなんて無粋なことはせず、スッと手を広げて彼女を待ち構える準備を整えた。
マジ、こんな最高な時間が来るとは思わなかった。
頑張ったかいあったわぁ。
マジでハグする五秒前。
5,4,3,2,1
ぼふっ
そんな効果音でさえも可愛らしいロリっ子ことミアちゃんが、俺の胸へと飛び込んできた。
瞬時に伝わってくる幼さゆえの高い体温。
そして、思ってたよりもずっと小さい体。
柔らかい肌に、いい匂いのする髪の毛。
その全てが同時に俺の脳へと飛び込んでくる。
ヤベェ。俺の頭ショートする。
マジ、バッチバチのビッキビキ。
何なのこの生物。反則的にかわいいじゃん。
もう俺の全力で抱き返したい所存なのだけど、今ここで親御さんも見守る中そんな事をしてしまえば、ロリコンのレッテルを貼られお巡りさんに連行されること間違いなしだから、抑える。
ただその代わり、慎重に。この柔らかく小さな命を壊さないように。最大限の注意を払って、彼女の背中へと腕を回した。
こ、これくらいならセーフでしょ!?
もしこれがダメだと言われるならば、俺は一生ロリコンでいい!!!
俺が抱き返すと、ミアちゃんは嬉しそうにその頭を俺の腹にぐりぐりと押し当てて、
「うぅん」
そんな、舌っ足らずな声を漏らした。
…………マジ、これ犯罪だろ。犯罪級の可愛さだろ。なんでこんなに可愛い生物が野放しになっているのか甚だ疑問だよ。
そういえば、天使ミア様の容姿をちゃんと紹介してなかった。
まず、顔は勿論かわいい。
整ってるのはそうなのだが、系統で行くとかわいい系。お姉さんタイプのスッとした綺麗さではなく、まんまるでかわいいって感じの美人さん。
まぁロリっ子だな。
髪の色は青っぽい銀色。基本は透き通って白っぽい銀なんだけど、光が当たったりすると水色が交じる時がある。
まぁ銀髪っ子だな。
瞳はまんまるパッチリの水色。しかもただの水色ではなく、少し緑っぽい感じのターコイズとかエメラルドとか言われるやつ。
まぁ碧眼っ子だな。
服装は今日一日しか会ってないからわかんないけど、多分白とか黒とかが基本で、アクセントに瞳の色を使うかんじかな。あと、黄色も好きっぽい。こればっかは、ミアちゃんの嗜好だけではなく、お母さんのもちょっと混じってると思うけど。
まぁ清楚っ子だな。
今までの統合して言うと、ミアちゃんは、銀髪碧眼清楚ロリっ子ってこと。
マジ恐ろしいよな。
だってあれだぞ、『銀髪碧眼清楚ロリっ子』って、俺の性癖ドストライクド真ん中だぞ。
真面目に、彼女は俺のために生まれてきたのではないかと思うくらい、俺のタイプなんだよな。
まぁ、俺は15歳、彼女はまだ10歳。
大人になれば5歳差の結婚なんて当たり前にいるけど、この幼少期の15歳はでかい。
せめて、後5年経って、俺が20。
ミアちゃんが15になれば、彼女も成人するしギリギリいける…………と思う。
ま、それもこれも、俺が彼女に好いてもらえないといけないんだけどね!!!
彼女は完璧美人。結婚したい男子なんてゴロゴロいるような美少女でしょう。
それに比べて、俺はただの平凡な農家の息子。
『草スキル』という強いんだけど強くないスキルを持っているだけの、ただの一般人。
長所、平凡な所。
特技、平均点を取ること。
趣味、部屋の角っこの掃除。
そんな超一般人な俺に、彼女なんか釣り合わない。
どれくらい釣り合わないかと言うと、『草スキル』で『大熊』を倒しちゃうことぐらい釣り合わない。
俺がさすがにわかり易すぎる例えだなと、自画自賛していると、ずっと俺に抱きついて頭をぐりぐりしていたミアちゃんが、突然頭を上げる。
「あのね、」
ミアちゃんは俺を見つめて、そう話し始めた。
俺はこの天使様の仰られることを一語一句聞き逃すまいと、俺は全神経を集中させる。
話を聞いてもらえると分かったからか、嬉しそうに微笑んだ彼女は、その小さな口を目一杯動かして、
「ありあと! 大好き!!!」
そう、舌っ足らずな声で囁いた。
オォマイガッ
『拝啓、僕の両親へ。
僕はもう逝きます。いや、逝かせて下さい。
敬具、ロリコンですみません。』
それは俺が反射的に辞世の手紙をしたためてしまうくらいには、破壊力を秘めていた。
はぁ、マジ、生きててよかった。
この時点でもう、大熊討伐の分の辛さの対価を払ってもお釣りが来るくらいには幸せだ。
なのにミアちゃんは、この程度では止まらない。
「頭下げてぇ」
そう、ミアちゃん様は俺にご命令為さった。
もちろん、ミアちゃん絶対服従この美しさ犯すべからずがモットーな俺は、すぐさま頭を彼女の目線まで下げる。
「うんしょ」
そんな可愛らしい声を漏らした彼女は、もう抱きつける程度には狭い俺との距離をぐっと縮めて、
「ちゅっ」
その桜色の唇を、俺のほっぺへとつけた。
俗に言う、『ほっぺにチュー』というやつだ。
おぅぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!
おうおうおうおうおじsのいんくぉいんおいqwんぃおqbをいxqうぃjcvゅq!!!??
その事実を俺の脳が受け取った瞬間。思考回路が完全に落ちた。
「あ、いうあいうあいうあいうあいうあいうぅ」
自分がしたことの重大さやその意味もよくわかっていない純粋無垢マジ天使なミアちゃんと、そのお母様が見たのは、ただ『あいう』を繰り返す、廃人とかした俺だったとか。
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