二章 英雄の独奏

第11話 ひげもじゃ白髪神様

前回までのあらすじ


スキルをもらえる一生に一度の大事な儀式で見事にクソスキル『草』を手に入れた俺。

落ち込んで幼なじみたちに当たってしまう俺だったが、なんとか立ち直り畑仕事に勤しむことに。


でもそんなある日、山に凶暴な魔物『大熊』が出たと知らせを受ける。

怖がり逃げる俺だったが、幼なじみの妹が行方不明と聞き改心し、彼女を助けるため山へとゆく。


怖がりながら山を進む俺の前に現れたのは、今まさに幼なじみの妹ミアちゃんに襲いかかろうとしている熊だった。


葛藤の末飛び出した俺は、『草スキル』の隠された力『スーパースター』を使い、見事に熊から逃げることに成功!!

さらには助けたん幼なじみの妹からは労りの『ほっぺにチュー』まで頂くことに!


さあこれから俺の人生はどうなっていくのか!!


次回、魔王との死闘!!

来週もぜってぇ見てくれよな!!!



とまぁ、そんな感じで過ぎていった俺の日々であったが、大熊を倒したからって俺の人生が劇的に変化することは…………なかった。


そう、全く無かった。

至って平凡な人生。


朝起きて眠い目をこすりながら畑仕事に勤しみ、昼休憩でおにぎり片手に草に寝っ転がって、午後からまた働く。


変わったことといえば、父ちゃんに田植えを教わったことくらい。

これが簡単だと思っていたけど、なかなかに技術がいって、今修行中である。


あとは、『草ポイント』が貯まる仕組みも少しだけ分かってきた。


俺にとって『草ポイント』は、人生においての超重要武器だから、これの仕組みがわかったことはデカイ。


この『草ポイント』。名前の通り『草』に関係することをすると増えていくらしい。


例えば草むらに寝っ転がってしばらくしていたら貯まる。あとは、野菜を食べると貯まる。他には、草抜きとかでも貯まる。


とにかく『草』に関係することなら貯まるみたいだ。


でもその基準がよくわからなく、めっちゃ野菜食べたのに1ポイントしか貯まらないときもあれば、1切れで2ポイント貯まることもある。


それこそ神様の気分次第って感じに、貯まる感覚も量もバラバラ。


ただ、一共通するのは『草』が関係しているかしていないかだけ。


俺にとって『草ポイント』は何より大事なので、積極的に貯めるようにはしている。


家で寝るときに草藁を敷いてみたり、ご飯に野菜を増やしてみたり。


どれも少し変えるだけで貯まるので、効率がいいっちゃ良い。


けど現在何ポイント貯まってるか確認できないのが、少し不便。


それと、『スーパースター』しか使えないのかも分からないし。


まぁとにかく俺は、『草ポイント』を貯めながら普通の日々を送っていた。


大熊なんて化け物がよく来ても困るし、平和なのは何よりだ。


今も畑を耕しているところ。


ニートだった……というか家の手伝いをしてこなかった俺でも少しやれば慣れてきて、もはや畑を耕すのは父ちゃんと同じくらい上手くなっている。


「そろそろ終わりにするぞ!!」


遠くから汚れた服で父ちゃんが叫んでいる。


「はいよ!!」


俺も叫び返して、帰宅の準備を始めた。














「るんるんるるん るるんがるん」


家への道をそんな鼻歌を歌いながら歩いていると、


「おい!! ぼうず!!」


そう後ろから呼び止められた。


「おぉおっちゃんどしたん?」


振り返ると、大熊のときに剣を貸してくれたおっちゃんが立っていた。


あの剣結局あんま使わなかったけど、やっぱ武器あるだけで心強かったし、快く貸してくれてよかったよ。うん、力ずくで奪い取ったりなんてしてないもんね。


「これ」


おっちゃんはその二文字だけ言って、懐から一枚の紙を取り出して俺に渡す。


「あ、ありがと?」


なんか怪しげな契約を結ばれるのかと一瞬ビビったけど、触ってみても普通の紙だ。

マジで普通に売ってるようなサラサラの紙。


俺にこれを渡してどうしろと?


何、魔法少女になって世界救わせちゃうの?

月に代わってお仕置きとかしちゃう?

キラリンビーム胸から発射しちゃう?


「じゃあな。畑頑張れよ!」


俺はおっちゃんに聞こうと思ったが、彼はすでに来た方へと歩き出していた。


まだ声をかければ届くけど、わざわざ止めるのも申し訳ないので、


「おう!! そっちも頑張ってな!!」


そんな挨拶をかけるだけにしておく。


「これなんなんだ?」


二つ折りにされてるから中になにか書いてあるんだろうけど……。


正直気になる。めっちゃ気になる。けど、俺の経験上こういうのはこんな道のど真ん中で開けるようなものではない。


なので、俺は見たい気持ちを抑えつつ、家路を辿った。









「さて、ようやくこの時が来たな」


飯食って風呂入って歯磨いて、その他諸々のことを済ませた俺は自室の机の前でつぶやいた。


ちゃんと今の今まで紙の中身をみていない。

知らなすぎて、もはや白髪が生えてきそうな勢い。


「いざ、オープン!!」


俺は両手で紙の端を持って一気に引っ張った。


「ッ!!!!」


風の音しかしない部屋で、俺は一人息を呑んだ。


こ、これは…………俺の愛しの天使様からではないかっ!!!!!!


うううう嘘だろ、こんな俺にまだ齢10ちゃいの銀髪ロリっ子から手紙がくるなんて!!!


俺は嬉し杉田玄白で、家の中にも関わらず発狂して飛び跳ねまわった。


イェーイ!! ロリっ子からお手紙だぁ!!

イェーイ!! 俺を好きに違いなぁい!!

イェーイ!! 結婚の申込みに違いなぁい!!


そんな掛け声が脳に響き渡ったとき



『本当に、そうでしょうか?』 



そう疑問を投げかける奴がいた。

そ、その声は!!!


『借金の返済、ローンには過払い金がはっせ……』


ちげえっ!!!!!!!


お前じゃない!!!!

俺借金なぁい!!!!!

法律事務所求めてなぁいっ!!!!


俺が求めてたのは、


『もしかして気持ち悪いからもう二度と近づかないでって手紙かもよ』


うっ嘘だ!!!


的な展開なの!!!

そんな過払い金がどうこうって話は求めてナッシングピーポー!!


「ふぅ、よ、読むか……」


俺はナッシングピーポーとかどんな人々なのかと考えながら、肝心の手紙の内容に集中する。


『お兄ちゃんへ

たいへんなのにたすけてくれてありがとう

わあしわたしはとてもこわかったけど、お兄ちゃんがきてくれてとてもうれしかったです。お兄ちゃんもとてもこわかったとおもうので、ありがとうのきもちをこめて、またあいたいな。

                 ミアより』


…………嘘だろ……マジじゃん…………マジでミアちゃんが俺を求めてるじゃん……!!!!


この手紙は全部ひらがなだったから分かりにくいかもしれないが、要するに『助けてくれてサンガツ。感謝伝えたいから今度会わないンゴ?』って話だった。


いや、こんなの行かないわけ無いじゃん。もしその日俺が交通事故にあって全身骨折でも行くよ。

世界が壊れると言われたとしても行くね。


はぁ、ミアちゃんが俺を待ち望んでいる世界線。そんなものがマジで存在するなんて……俺、この世界に生まれてきてよかった。


本当にミアたんと同じ時代に生まれて、同じ時間を生きて同じ空気を吸って同じ景色を見れるだけで幸せなのに、こんな幸福があっていいものなのか。


当局に新種の薬物として規制されないか、俺は心配だよ。


「この手紙、ミアちゃんが書いたんだろうなぁ。あのちっちゃい手に鉛筆持ってひらがなだけだけど頑張って書いて、時にはお母さんに教えてもらいながら親子睦まじく、俺への手紙の内容を考えていたんだ。」


あぁ、そう考えるだけで死ねてくる。


真面目にロリっ子は文化財だよ。世界で保護した方がいいよ。


「ありがとうございます」


俺は手紙を二つ折りに戻して、そっと神棚の上に置いた。


本当に神様には『草』の件とか色々言いたいけど、ミアちゃんに関してはマジで頭を垂れて信仰するのも頷ける程度には感謝してる。


アイ ラブ ゴッツ


俺は頭の中でひげもじゃ白髪神様を思い浮かべながら、サムズアップをした。


「はぁ、いい夢が見れそ」


この高揚した気持ちでは寝付けないかもしれないが、これ以上起きていると明日起きれないし、何より自分で自分を抑えられなくなりそうだから、俺は大人しくベッドへダイブした。


「ぐふっ………ぐへへへ……へへへ……」


その日、俺の部屋からはそんな薄気味悪い笑い声が絶えず聞こえて来たとか、来なかったとか。


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