第7話 神という奴は

――――逃げてだと? はぁ意味わかんねぇんだけど。なに決意してくれちゃってんの。お前まだ若いだろ。姉ちゃんはすんごいスキル手に入れて王都に夢と希望とともに飛び立ったばっかだろ。ふざけんなよ。なに簡単に命諦めようとしてくれちゃってるわけ。お前が死んだら皆んなどう思うか分かってんの? 俺は勿論生き残ったとしても死んだほうがマシだって思うだろうな。だってそうだろ、この後の人生俺のせいでお前が死んだ。俺のせいで若い少女を殺してしまった。自分は何も出来なかった。自分のカッスい命をなまら大事にしてバカみたいに脚震わせて目の前で人が死ぬの見てるしかありませんでしたって。そんなことを思いながら、周りに責めてすら貰えなくて、一生自分で自分を嫌って殺して傷つけ続けて生きてくんだぞ。ふざけんなよ。そんなのただの生地獄じゃなぇかよ。何俺を貶めようとしちゃってるわけ。それにお前の家族だよ。おまえんち教会のおえらいさんだろ。めっちゃ権力持ってんのにめっちゃ家族思いじゃねぇかよ。父ちゃんは髪の毛フッサフサのイケメンだし、母ちゃんは胸も尻もでっけぇべっぴんさんじゃねぇかよ。ふざけんなよ羨ましいだろ。しかも姉はあのユーリだろ。アイツお前のことなんて言ってるか知ってんのかおい。宝物って、自分の宝物って言って回ってんだぞ。ざけんなよ、あれはガチなんだぞ。真面目に自分の命と交換でお前を生き返らせられるなら喜んで自殺するぞ。どんな拷問だって屈辱だって侮辱だって、それこそ生地獄だってたえるんだぞ。あいつはそういう女なんだよ。ふざけんなよ。何そんなこの世の幸せの権化みたいな家庭に生まれておいて早く死のうとしてんの。なに死を受け入れてんの。そんなもう悔いはないみたいな表情して。ばっかじゃねぇの。俺なんて悔いしかねぇよ。こんなクソみたいな人間庇って死んでんじゃねぇよ。マジそんなの世界最悪の死因だよ。嘲笑われもんだよ。ざけんな死ねよ。何死のうとしてんだよ。生きろよ。死ねよ。死ぬんじゃねぇよ。死ねよ。マジでさ、死ねよ。命舐めんなよ。簡単にすてんなよ。マジころすぞ。死ねよ。ざけんな。死ね。マジ死ね。











俺は自分の頭がこんなに早く働くのかとビックリした。


溢れんばかりの罵詈雑言。それは彼女に向けているようでいて、全て俺自身に向けたものだ。


――あの時飛び出さなかったこと、


――すくんだ脚を進めなかったこと、


――声さえ出さなかったこと、


――彼女を見ることしか出来なかったこと、


――後悔をすると決まりきっているのに動けなかったこと、


今列挙したのの何倍も、何十倍もの数。

自分自身を怒り、そして悔やんでいる。


俺は涙を流しているユーリの妹を見る。

彼女は諦めたように、わらっていた。


まるで咲き誇った花が枯れゆくように。

静かに、微笑んでいた。


『クゥゥゥぅウ』


俺は顎を力ませ、歯と歯の間から思いっきり息を吐いた。


見える光景は相変わらずスローモーションで、まだミアちゃんと大熊の間には隙間があった。


距離があるなんて言えるような距離じゃない。

本当に、この加速した思考でなければ、一秒も絶たない間に縮まってしまうような距離だ。


でも、確かにそこに隙間はあった。


もしも、この世に神がいると誰かが言ったのならば。


無宗教の俺も、今この瞬間は認めざるを得ない。





だって、明らかに――――――出来すぎている






――何で俺はこんな彼女がピンチの瞬間に狙ったように見つけることが出来たんだ


――何で周りの世界が止まったように俺の思考は加速をし続けているんだ


――何で俺の決心がついて時に丁度よく、大人一人がギリギリ入れるほどの隙間が彼女と大熊の間にあるんだ


本当に神は存在したとしないと、証明できないような謎ばかりだ。


この世界にはきっと、神が存在する。


そいつが良いものかも悪いものかもわからないけど、たしかに存在する。


正体も見た目も性別もその存在さえも定かではない。


けど、一つ俺には分かったことがある。


その神が良いやつでも悪いやつでも。男でも女でも、若かろうとも老いていようとも。こちらを見ていても見ていなくても。




神ってやつは絶対――――















――――クソ野郎だ



どうしても。己の世界の理を無視してでも、俺のことを殺したいらしい。


まぁそりゃそうだよな。


だって俺のスキル『草』だし。


聞いたこともないような雑魚スキルだし。

『草ポイント』が貯まるだけのクソスキルだし。

貯まった『草ポイント』も、何に使えば良いのかわかんねぇし。


まぁどうせ、こんな雑魚スキルで貯まる雑魚ポイントでできることなんて、精々草を一本生やすことくらいだろうな。


『くそったれがぁああああ!!!!!』


分かったよやってやるよ!!

やってやればいいんだろぉぉおおお!!


もう怒った。あぁキレちゃったよ。

喧嘩上等だごりゃあ!!

神が見てようと見ていまいと関係ねぇ!!!!


―やってやるよ


――助けてやるよっ!


―――倒してやるよッ!!!!


『草スキル』しか持たねぇ俺が、大の大人が集まっても蹴散らされるような大熊の野郎、倒してやるよ。


『ふぅんっ!!!』


俺は鼻から息を思いっきり吐き出して、気合を入れる。

もう引けない。引くことなんて出来ないし……許されない。


どっちみちこのまま行きても目の前で彼女を見放して死なせたって、一生後悔して生きるんだ。

それならば、無謀でも飛び出して死んだほうがマシだ。


しない後悔より、した後悔

生きて地獄より、死んで天国






まぁ天国いけるかわかんねぇけどな!!!






俺はおじさんから騙し取った…………お借りした長剣に手をかける準備をする。


抜くことは出来ない。だって時間が止まったわけじゃないから。ただ思考が加速して、止まっているように見えるだけ。


俺だって本当は、死にたくない。


まだまだ言いたいこともやりたいこともいっぱいあるけど。けど――――







――――それ以上に彼女救け掴みたかった。





人生が終わる『ピンチ』?




いいや、違うね。




夢が叶うかもしれない、人生最大の『チャンス』だ





誰かミアちゃん』の『』に―――――――

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