第6話「百聞は一見にしかず」

 大学の講義が全て終わり、俺は先程声を掛けてきたサキの友人らしき女にスマホの充電が切れたと嘘を吐いて電話を借りた。しかし不思議な事に、会社に電話は繋がらず、会社に出勤していなければ恐らく上司の前原さんあたりが心配して実家に連絡するのではないかと実家の電話番号を入力するも、こちらもコール音が延々と鳴るだけで繋がる事は無かった。

 サキが今どうなってしまっているのか、不安は払拭出来ないままだった。


 「サキ、あんた今日凄い疲れた顔してるね。どうしたの?彼氏と喧嘩でもした?」

 明らかにお前の方が疲れた顔をしているぞと言いたいところではあるがグッと堪え、「ちょっとね」と、曖昧に返事をしておいた。会話は最小限に切り上げてさっさと退散するに越したことは無い。


 「っていうか今日サークルの飲み会でしょう?やめておいたら?3年の向坂むこうざか先輩、絶対あんたの事狙ってるよ。危ないって」


 と思ったが聞き捨てならない発言を耳にしてしまったのでここは食いついておく。

 サキが浮気をしているとは思いたくないが、しれっと探りを入れてみよう。

 「そうなの?そんな素振りあったっけ…?」

 「うーん、あくまであたしの直感だけど、怪しいところだよ。なんか距離近いし。でもさ、向坂先輩イケメンだし、サキ的にはどうなの?あんたって基本他人に素っ気ないけど」

 「私は彼氏いるからさ、今のところは、ね。」

 思わせぶりな発言をすれば、日頃サキが周囲に俺の事を何て言っているのか分かるかと思い、遠回しな会話を繰り返してたが、

 「やめなよちょっと…、ホントどうしたの?あんた、ついこの間一緒に結婚の話とかしたばっかじゃん。そんな深刻な喧嘩したの?」

 と、かなり予想外な返事をされてしまい、面食らってしまった。っていうか結婚の話なんて俺と一度もしたこと無いぞ!何話してたんだよオイ…!気になる、気になるぞ…!!


 更に追求しようとしたところで、件の友人は「やっば、そろそろササダさんが…!ご、ごめん!じゃあ今日、向坂先輩気をつけてね!あと彼氏とさっさと仲直りしなよ!じゃね!」

 と、何かに怯えるようにそそくさと走り去って行った。


 そういえば結局名前、聞いてなかった。

 そんなことを考えながら立ち尽くしていたが、ふと腕時計を見ると時刻は午後6時38分。


 サークルの飲み会は午後7時からだったな。


 百聞は一見にしかず。


 こちらに気があるらしいイケメン向坂先輩の顔を、拝みに行くとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る