第4話「なんだこの女…」
サキのアパートに泊まりに来た際に何度か地下鉄は利用していたので、東京の蟻の巣のような地下鉄網も何なく乗りこなし、10時25分。俺はサキの通う人文学科の大学に到着した。
身だしなみについては、化粧も出来ないし髪も上手く結べなかったので、なんかよく分からない化粧水を塗るだけのほぼすっぴん状態で、ちょっとした二本のお下げを作って、ごめんなと心の中でサキに詫びながら外出した。幸いにもサキは化粧をほとんどしない女性だったので、我ながらそんなに違和感は無かった。
初めて入る大学は綺麗に整備されており、同世代くらいの若者がチラホラと見受けられる。正直この状況で外に出るのはどうかと思ったが、主の居ない部屋にずっといるのもなんだか憚られるし、サキの世界に、少し興味もあった。
しかしそう言えば、時間には間に合ったものの、講義が行われる教室が何処なのかまでは分からない。そこそこ広い大学の施設内を勘を頼りに徘徊していてもキリがないだろう。
どうしたものか。
「ちょっとサキ!!」
ボーッと思案していると、元気な女の声と共に後ろから頭を引っぱたかれた。
サキの頭に何しやがる。
「あんた、ミヤノ先輩に私の住所勝手に教えたでしょ!」
なんだろう、誰だろうこの女は。というか、サキは勝手に女子の住所を人に教えたのかオイ。
それはさておき、どうやら目の前の彼女はサキの友人らしい。会話の中でボロが出るとまずいので、なんとか流れでこの女の名前を聞き出さなくては。
「おかげでめっちゃ怖い思いしたんだからもぉ~…、いや、怖い思いしたというか、怖い思いさせたというか…。とにかく私の青春がさよならバイバイで…でも人命が最優先で…。ああ、ダメだ疲れてる」
「………………………」
な、なんだこの女…。頭ん中ぶっ壊れてんのか?
「…あれ、どうしたのサキ。何か言ってよ」
「い、いや…凄いなと思って…。あ、えっと。住所はごめん。なんか、えーっと、流れでポロっと言っちゃってさ。ごめん、ホント」
内心ドン引きしつつ、一応恋人の名誉がある程度守られる形に取り繕っておいた。すると目の前の彼女は「まあ、そんな事だろうと思ったし、もう家に来ることは二度とないだろうからいいんだけどね…ハハハ、ハハ…」と、虚しい笑みを浮かべていた。
「なあ、ところでさ、次の俺の講義の場所って、どこ?」
「え、どうしたのサキ、急にそんな男みたいな」
「あ、違う。間違えた、ちゃった、わ」
迂闊!
サキの喋り言葉じゃなきゃダメなのか!!
俺気持ち悪っ!!
「何それ。まあいいや。次、瀬間教授のイタリア語でしょ?一緒に行こ」
俺は彼女にそう言われて、サキの友人らしき女子と一緒に歩いた。
結局、隣の彼女が何者なのかは、分からないままだった。
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