第3話「恋人のケータイを覗くとまずロクなことはない」

 やっとの思いで携帯電話のロックを解除したが、しかし不思議なことに電波は圏外になっており、俺と入れ替わっているであろうサキとは連絡が取れなかった。

 バカなことに自分の携帯電話の番号なんて覚えちゃいなかったので、公衆電話から掛けるなんてこともできない。


 取り敢えずサキは今日大学に行く予定だったはずだから…。えっと、俺はどうすればいいんだ?え、俺が行けばいいのか?


 現在時刻は午前8時。大学が何時から始まるかも知らないので、サキの携帯電話でスケジュール帳のアプリを開く。


 今日は10時40分から1限目の講義らしい。そして19時からサークルの飲み会か。これは昨日聞いていた予定だ。

 彼女がマメな性格で助かった。いや、この状況で助かっているのはサキ自身か…。入れ替わりが原因で欠席扱いされるんなんて、彼女からすればフザけた話だ。


 そこで、俺は悪い考えが頭を過る。


 〝恋人のケータイを覗くとまずロクなことはない〟とは、このご時世よく聞く話だけれども、俺は昨日の喧嘩から尾を引く不信感と不安に駆られ、彼女のSNSアプリをタップしてしまった。


 傷つくのが怖いと言いながら、傷つく方向に向かっている自分がいる。


 しかしそこで見るのはまたしても、俺の脳髄の中で歪んでいくサキではなかった。


 サキは俺以外とは、必要最低限の事務連絡程度しか連絡を取り合っておらず、しかも。


 「俺のことお気に入り登録とかしてたのかよ…」


 俺は大きな安堵と罪悪感に包まれた。


 恋人のケータイを覗くとまずロクなことはない。

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