第7話 死ぬわけにはいかない
「この状況を何もせずにただ傍観してろだって?そんなこと……できるわけねえだろうが!!!」
レイズはエーリカに大声でそう叫び、団長のヴァンに拳を放つ。
「おらァァァァァァ!!!!!!」
しかし、そこへヴァンを守っていたもう一人の騎士が剣でレイズの拳を受け止める。
カキンッ!!
「ぐっ!!」
「あなたが私たちを攻撃するということは、我らに対し宣戦布告をしたと見なすことになりますが、よろしいのですか?」
ヴァンのそばでひたすら動向を伺っていた眼鏡の騎士が、表情を一切変えずに冷静に言い放つ。
「やめてくださいレイズさん!!」
「やめるんだ少年!!」
エーリカと傍にいた男も、レイズに向かってそう叫ぶ。
「お前らのような人をゴミとしか思ってない野郎に、この町を取られてたまるかよ!!!」
「団長、どうします?」
「むっ」
その瞬間、金色に光っていたレイズの拳がさらに光瞬く。
「ぐあああ!!!」
レイズが地面に拳を放ったと同時におびただしい威力の衝撃波がレイズの周囲から拡散される。
その衝撃波によって、レイズの拳を止めていた騎士が空中へ吹っ飛ぶ。
「ふっ……!」
「助かった、ジェフィ」
「ありがたきお言葉」
しかし、眼鏡の騎士、ジェフィが氷の防御魔法を展開したことで、ヴァンには傷ひとつつかなかった。
レイズはなおもヴァンに向けて攻撃を仕掛ける。
──だが、騎士もただでは倒されない。
最初に吹き飛ばされた騎士二人が立ち上がり、レイズの両腕をがっしりと掴む。
「くっ!」
「くくっ、てめぇの蛮行もそれまでだ」
「レイズさん!!!」
「うおォォォォォォォォォ!!!!!!」
「「なっ!?」」
レイズは二人の騎士に掴まれたまま激しく跳躍し、上空から騎士を振り落とした。
騎士たちは自由も聞かぬまま、真っすぐに落下し石畳に激突する。
「ぐあぁ!!」
「ぐっ!」
そして、レイズは地面に着地したと同時にジェフィに向けて拳を放つ──
「向かってきますか──《大気に生まれし精よ、我が魔力をもってその身を氷鎖と化せ、彼の者を拘束せよ》!!」
「なっ!?」
「
瞬間、レイズの足元を大量の氷が埋め尽くし、それがレイズの四肢を徐々に塞いでいく。
「ちっ!!」
「今ならまだ、暴漢が一人暴れていたということで事を収束させてあげましょう。なおも、攻撃を続けるつもりでしたらアヴァロニカ騎士全員でレマバーグを攻めることになりますが?」
「ふざけんじゃねえ!俺はまだ戦え……」
「あなた一人の考えではなく!この町の民の命もかかっていると思っていただきたい」
「……!」
レイズはジェフィの言葉に思わず口ごもってしまった。
ジェフィは眼鏡の奥の鋭い眼光を光らせたまま、さらに話を続ける。
「幸い、あなた一人の命のおかげで民の命すべてが助かります。我々に反するか、あなたの命で民が救われるか、選択肢は分かっていると思いますが」
レイズが死ねば、この町の民の命が助かる。
これが、眼鏡の騎士がレイズに放った取引だ。だが、レイズは──
「死なねえよ……俺は死ねねえ……!」
「そうですか、それならこの町の民は……」
「エーリカを救ってレディニア王国を取り戻すまで、俺は死なねえ!死ぬわけにはいかねえ!!!!!」
レイズはジェフィの前で高らかに言い放つ。
その瞳は、最高潮に灼熱に燃えていた。
「まだ戯言をっ!ならば、この場で死んでもらう!!」
「レイズさん!!!」
エーリカがレイズの名を叫んだと同時に、ジェフィが魔法を放つ。
その威力は先のレイズを拘束した氷魔法をはるかに凌駕した威力の、氷塊の投擲魔法。
「《大気に生まれし精よ──我が魔力をもってその身を氷塊と化せ、彼の者に裁きを》!!!!!」
「来いっ!」
レイズは瞬時に自身を拘束していた氷を破壊し、両手で受け身の態勢をとる。
その隙にも、ジェフィの魔法が放たれようと……
「フリージング・インパク……」
グサッ!!
「あっ!?」
「なっ!?」
だが、その魔法はレイズに届くことはなかった。否、発動されなかったのだ。
魔法を放つ直前、突如二人の目の前に落ちた、数本の小剣によって──
「あのーここ通れないんで、そろそろどいていただけませんか?」
直後、ジェフィの後方から聞こえてきた声に二声に二人、いや、ヴァンや、レイズの攻撃を受け倒れていた騎士までもが、その声の主を一瞥する。
そこにいたのは、絹のように透き通ったアッシュブロンドの髪を肩まで伸ばした、どこか気だるげな表情をした少女の姿。
「き、貴様っ!今がどんな状況か分かっているのですか!?」
「いや、別に決闘するのは構わないんですけど、そこどいてくれないと私の馬車が通れないんですよ」
そう言って少女は、横に待機させておいた馬車馬を優しく撫でる。
その行動に周りにいた騎士や住民すらも、さっきまでの緊張感がなかったかのように脱力させてしまう。
「ひょ、拍子抜けですね。大体あなたは、我らのことを知らずに物を言っているおつもりで?」
その中で唯一、ギリギリながらも冷静さを保っていたジェフィが少女に追求する。
「知ってますよ。アヴァロニカ帝国の騎士様ですよね」
「なら尚更……」
「もういいだろ」
ジェフィが何かを言う前に、レイズの攻撃を受けながらも復活した赤髪の騎士がそれを制し、少女に近づく。
「てめえレマバーグの奴か?それとも外の奴か?どちらにせよ、俺たちの使命を邪魔したことに変わりはねえ」
「ルイズ、まさかあなたはその少女を!?」
「止めるなジェフィ。こいつはアヴァロニカの敵だ。敵は構わず殺せ。お前も騎士見習い時代に習ったアヴァロニカ騎士の掟だ」
「っ!」
ルイズと呼ばれた赤髪の騎士は、長剣を持ちながらゆっくりと少女に近づいていく。
「関係ない一般人を!!くっ……!」
レイズがそれを止めようとするも、再び現れた氷に身を封じ込まれてしまう。
「邪魔はさせません」
「絶対……殺させねえ!!!」
「なっ!?」
レイズは一瞬のうちに身を包んでいた氷を破壊し、ルイズと呼ばれた赤髪の騎士に突っ込んでいく。
「てめえが悪いんだぞぉ。俺たちの制圧行為に首突っ込まないで迂回でもしてりゃ、死ぬことなんてなかっただろうに」
「はぁ、アヴァロニカ騎士の気に入らない相手はすぐに殺すというもはや習性とも呼べる慣習、まだ残ってたんですか。その前時代的な発想、三百年前の戦乱の世を思い起こさせますね。正直、時代遅れ感半端ないですよ」
少女は目の前の大柄なルイズの姿などをもろともせず、平然と言葉を返す。
「こちとら、レディニアのような武器も持たずに呑気に暇してる奴らが信じられねえ。いつの時代も戦は在り続けるんだ。今更戦いを臨まねえ奴らなど俺たちから見れば滑稽よ」
「そうやって、アヴァロニカだけの価値観を押し付けるスタイル。こちらから見ても滑稽ですよ」
「お前面白いな!ガキのくせに俺相手にそんなに言い続けられる女はお前が初めてだぜ!」
「それはどうも」
「褒美だ。一つだけ聞いてやるよ。てめえの名は?」
ルイズの問いかけに、アッシュブロンドの髪の少女は光のない紫色の瞳を瞬かせながら応えた。
「私はカルテット商会商会長、ヴィカトリア・カルテットです」
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