2章

2-1 ???番目の夢②

 ああ、またここからか。

 目が覚めると、見覚えのある空間にいた。

 どこからか聞こえてくる少女の声。周囲を取り囲むように漂う白い靄。もう何度見た景色か数えたくはなかった。

 何度繰り返しただろうか。もう三〇〇は超えているに違いない。途中から数えることをやめたので正確な回数は分からないまま。

 未だ倦怠感を抱えたままの体を起こし、誰に言われるでもなく義務感のように首を回して辺りの景色を眺める。

 いつもと同じ風景だと思っていたが、ある違和感に気づく。

 靄が濃くなっている。

 最初の頃は白かったはずの靄が今では僅かにではあるが灰色を帯び始めていた。

 濃くなりつつある靄を見て、嫌な考えが浮かぶ。

 どれだけ心が疲弊しても、摩耗しても、やがて折れてしまっても歩き続けていれば声の主を見つけ出せると思っていた。ゴールは存在しても、終わりはないと思っていた。

 その考えは間違いだった?

 このまま回数だけを重ね続けていけば靄の濃さは増していき、やがて黒に包まれる。そうなれば一巻の終わりだ。

 倦怠感は消え去り、代わりに焦燥感が一気に押し寄せてくる。

 声がまだ聞こえているうちに動き出さないとまた失敗してまう。使命感が危機感に変わりつつあった。

 すがるように走り出すが、どこに行けばいいか分からない。残響する声が方向感覚を狂わせる。少女との唯一の繋がりとも言える声が、今は憎らしい。

 おぼつかない足取りで無我夢中に走り続けるが、声の主は見つからない。息を切らし、膝に手をついていると途端に少女の声が途切れた。

 まずい。

 声が聞こえなくなると同時に地面がまた波打ち始めた。この地面の波打ちが終わりを告げる合図だ。

 小さく舌打ちをして息も整わないまま再び走り出す。何百回も経験した足場。最初に比べれば多少は走り慣れた。

 しかし、元々切れかけていた体力で走れる距離などたかが知れている。すぐに足元を掬われて派手に転んだ。

 靄が濃くなるだけでなく、波打ちが強くなるペースも早くなっている。いつもより早い段階で地面が泥化し始め、少しずつ体を飲み込んでいった。

 もう藻掻く体力すら残っていない。

 薄れゆく意識の中で最後に見たものは、靄に浮かぶ嘲笑うかのような表情だった。

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