第4話「いるかいないかも分かんないし」
自宅と反対方向、穂里山の麓にある穂里神社へとルートを変更して、俺は自転車を走らせた。
穂里山方面には神社祭りくらいでしか訪れることはなかったけれど、こうして田園風景や、少し遠くで流れる
鳥居の側にある小さな駐車場に自転車を停め、鳥居を潜る。確か境内の真ん中って神様の通り道だから、人間が通るのは良くないはずだ。そう思って、俺は境内の少し端寄りを歩いた。
さて、ここまで来てしまったけれども、果たしてまた神様には逢えるものなのか。っていうか昨日は混乱してサラッと受け入れてしまったけれども、よくよく考えたらとんでもない話だ。神様なんて半信半疑で、神話や伝説なんてどうせでっち上げの昔話だろうと思っていた時期もあったくらいなのに、まさかあんな綺麗な神様に出逢ってしまうとは。
…綺麗な神様だったな。
燃えるような豪華爛漫な赤い着物を羽織って。金色の長い髪を光らせて。
偉そうなクセにコロコロと表情の変わる、なんというか、可愛らしい神様だった。
「あれ?古家、何してんの?」
「うおぉうっ!!?」
急に名前を呼ばれて、俺は間抜けな声を出してしまった。声のした方を振り向くと、そこには同級生の
「つ、津川?お前何してんだ?」
「いや、何って。掃除だよ。ここウチの神社だもん。居て当たり前じゃん」
「は?ウチの神社…?」
「知らなかったの?ほら、そこの社務所。あれ私の家。まあいいんだけどさ。私じゃなくて、あんたは何してんの?御参り?」
そう言われて社務所を見ると、確かに普通の家が併設されている。知らなかった。
しかしマズいぞ。同級生に、ましてはこの神社の関係者に対して〝神様に逢いに来た〟なんてことは、口が裂けても言えない。
「あー、まあ、そんなところかな。えーっと…。そうだ、サイクリングしてたら神社が見えたから、なんとなく御参りしとこうかなって」
しどろもどろにでっち上げの言い訳で取り繕う。
「そうなんだ。でもここの神様、別に学問の神様とかじゃないよ?治水の神様とかなんとか、そんななんだって。残念でした」
「ん?津川、詳しくないの?親って神主とかじゃないのか?」
俺は津川の他人事みたいな言い方が気になって、そう聞いた。
「いやー、お父さんは神主だし、私も一応、巫女やってるけどさ。別にって感じ。正直、そんなに思い入れないよ」
しかし津川は、至って冷たくそう答えるだけだった。
「そういうもんなのか…。あのさ」
俺は津川とはそう何度も話したこともないから、あくまで軽く、冗談っぽさを装って、
「津川は、この神社の神様に逢ったこととか、ないの?」
そう聞いてみた。
しかし。
「あるわけないよ。神様なんているかいないかも分かんないし」
彼女はどこか投げやりに、そう言葉を吐き捨てるだけだった。
あの神様が。
何処かで聞いていなければいいなと、少し思った。
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