第3話「ヒステリックかよ」
穂里神社の神、せり姫様に「今日は夜も更けている故、詳しい話はまた明日、学校が終わってからここに来るがよい」と言われ、御利益200%の笑顔を文字通り拝見した後、不思議なことに俺は意識を失ったようで、またこれも不思議なことに、気が付くと、自室のベッドに横たわっていた。
時刻は午前6時丁度。今朝の天気は晴れ。
学校に遅刻する心配のない時間に目覚めたからいいものの、こっちとしては時空間移動でもした気分になる。改めて恐るべし、神様パワー。
いつもの数倍ノロノロと支度をし、結局いつもと同じ遅刻ギリギリの時間に登校をする。こうして日常に戻って歩いていると、昨日の出来事が夢だったようにも思える。
…いや、夢だったんじゃないか?
学校を出る前に急いで尻ポケットに突っ込んだ財布は空っぽなんじゃないかと思うほど軽かったけれども、もし昨日の出来事が夢だったのだとしたら、いつ寝たのかも分からないくらいだ、きっと無意識にバイト代7万円を何処かにしまったのかもしれない。
流石、賢いね。俺。
7万円を失ったことを認めたくない一心でそんなことを考え、いや、正確には、真に考えなければいけないことを放棄してそんなことを考え、俺は普通に授業を受けた。昨日のことを誰かに相談する気にもならなかった。
そして午後4時。
部活動を引退した俺は放課後の学校になど何の用もなく、早々に帰ろうと自転車に跨った。
そして、家に帰ってさて今日は何の科目の勉強をしようか、と考えていたそのとき。
〝サアアアァァァァァァァァァ…!〟
急に雨が降ってきた。
ちなみに今日の天気予報は終日晴天。ついさっきまでお日様の光が初秋の空気を能天気に照らしていた。
なんとも運が悪い。昨日の神社参りは何だったんだ。
…ん?神社参り?
そう言えば昨日、学校が終わってからまた神社に来るようにとか言われていたような。
〝サアァァ…………………………〟
晴れた。
いやでも、あんな夢かどうかも分からない、いや、夢にしてはかなり鮮明だけれども、なんなら受験勉強のストレスで俺がおかしくなって神様の幻覚でも見たのかもしれないし、馬鹿真面目に受験生が家庭学習の時間を割いてまで神社参りなんて…。
〝ザアアアァァァァァァァァァ!ザザザザザアァァ!!ザザアァ!!ザザザザアアァァァ!!〟
豪雨が降ってきた。
ヒステリックかよ。
「やっぱ夢じゃねぇのな…」
俺は声に出して観念した。するとまた雨がピタッと止んで、能天気なお日様がアスファルトを乾かす。
「……ほほぅ?」
少し遊びたくなってきた。
「あーあ!!でも今日はなんかしんどいし!やっぱりこの雨も偶然だろうし!昨日の神様なんてただの夢だったんだろうなぁ!よし!帰ってお賽銭返して貰うよう管理人に電話すっか!!」
わざとらしく声に出して空に叫んでみた。
〝…………………………………………〟
…あれ、何も起こらない。
またショック受けちまったかな?とか、我ながらそんな素直な罪悪感を抱いていたそのとき。
〝………ッドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!〟
とんでもない量の水が空から降ってきた。
「もうこれ雨じゃねーよ!!滝だよ!!!わかったごめんって!嘘だから!!行くから!!」
そう空に叫ぶと、また能天気なお日様が顔を見せる。本当にもう、文字通り能天気だった。
プライドとかないのか、お日様よ。
まあ、素直に水を引っ込めるところを見るに、どうやら向こうも間に受けたわけではないらしく、俺と同じように、ちょっとした遊び心のようだった。遊びのレベルが違い過ぎただけだった。
流石に身の危険を感じた俺は、おとなしく自宅と逆方向、穂里神社へと向かって、自転車のペダルを漕いだ。
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