第3話「女子的な見解を聞きたいんだけれど」

 午後一時。俺は堀宮と二人で科学準備室にいた。

 5時限目の準備、ということで、俺たちは解剖に使うハサミやゴム手袋を各机に置いていく。科学担任の星野先生は、生徒会の仕事があるとかなんとかで、俺達に指示だけ出していなくなってしまった。


 暫く二人で黙って準備をしていたが、堀宮がふと声を出した。

 「希崎くんってさ、兄弟いるんだっけ」

 「ん、ああ、いるよ。弟と妹」

 「いいなあ、私も妹はいるけど、長女だからお兄ちゃんって羨ましいよ。仲は良いの?」

 「んー、弟はよく一緒にゲームとかするけど、最近少し生意気かな。妹はよくわかんねえ。最近様子が変で困ってんだ。そうだ堀宮、女子的な見解を聞きたいんだけれど」

 「な、なにかな」

 少し不安そうな顔で堀宮は応える。堀宮はなんだか俺と話すとき、いつも不安そうな顔をしている。さっき星野先生が苦手だと言っていたけれど、見ている限りそんな様子はなかった。

 上手く隠して話せるのなら、俺に対しても少し気を使ってくれていいだろうに。むしろ、これは信頼しているからこそ顔に出しているんだろうか。羽沢じゃないけれど、やっぱり女子のそういうのはよくわからない。


 「妹がさ、まだ小学三年生なんだけれど、じいちゃんを凄く嫌っていて。最近はじいちゃんがいるからって朝ごはんも食べないんだ。どうしたもんかなぁって」

 「そ、そうなんだ…。うーん、うちは家族みんな仲良しだから、いいアドバイスって思い浮かばないな…。失礼なことを聞いちゃうけれど、その、あんまりいいおじいさんじゃないの?」

 〝いいおじいさん〟というものに果たして正解があるのかは別として、俺は思ったままのことを答えた。

 「いいじいちゃんだよ。優しいし、死んだばあちゃんとも仲良かったし」

 「そうなんだ…。じゃあ、普通に反抗期、とかなのかな」

 「だったら別に放っておくんだけどなぁ」

 「ん?何か心当たり、あるの?」

 「あーいや、なんもないさ」

 少し喋りすぎてしまった。家庭のことなんてそうそう話すもんじゃないし、堀宮だって深く介入したい話ではないだろう。


 「困ったら気兼ねなく言ってね。話聞くだけなら、私にもできるから」

 〝多分…きっと…〟と、だんだんと小さくなっていく声でそう続けた彼女がなんだかおかしくて、俺は笑いながら「ありがとな」と返した。

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