第18話 諸君、エスに敬礼だっ!!

 大事なことだから繰り返そう。メイド・イン・シンセンなのだが魂はゲルマン。

 このリアリテス・エンジンのAIはゲルマン魂の結晶なのだ。


 余談だが、私は戦争系のゲームをやるときはゲルマン魂への愛を持って行う。第一次世界対戦の塹壕ざんごうの中で由緒正しいドイツ軍の制服をほこりで汚した美男子たちが敵兵からの銃撃に怯えつつ抱き合って口づけしたり、ナチスの制服を来た美男子たちが占領先の国の男子高にて検問を行い、軍の車で美男子高校生をむち打ちしたり、そんな愛だ。


 戦争系のゲームといっても、私がプレイするのは主に腐女子せんもんか向けのものだから、軍服のビジュアルは重視されるが戦車や戦闘機や潜水艦のビジュアルはごく普通のもの。しかし、若干チャチなU2潜水艦の中でも、そこに美男子がいればゲルマン魂な801は成立する。物理的な意味で圧力が高い深海でのプレイを薄い本の方で読んだ女子高生の私は、8+1で、キューっとなったもののだ。AIも愛もゲルマン製は実に良いのだ。

 

 いったん、医学的な話に戻そう。


 VR装置の仮想現実支援機器リアリティ・クリエイターであるリアリテスにおいて、どのようなAIが使われているのか。それは、リアリテスという開発コードをRealit-Esと分解してみると良い。Reality(リアリティ・現実)とドイツ語のEs(エス・アレ)。Esの方は、現代的精神療法の始祖であるフロイト先生が定義なされた自我の基底にある深層心理としての《エス》である。


 戦後の日本に、主にアメリカからフロイト先生の療法が持ちこまれたこともあり、英語圏での呼び方の《イド》で呼ぶの方が一般的だが、ともあれ、Es=Idは、精神分析を行う際の基本枠組フレームワークが一つである。余談だが、近年の日本でフロイト先生の療法がイマイチ人気がないのは、心理学の授業でイドという用語による教育が行われているのも一因と、私は考えている。

 なんか、井戸っぽいではないか。明治・大正の頃の主婦たちが井戸端会議うわさばなしを繰り広げるための井戸。そんな井戸が深層心理なんてそのまんますぎる。そう、自我の基底はゲルマン魂がこもったエスと呼ぶべきなのだ。


 諸君、エスに敬礼だっ!!


 ユダヤ人だったフロイト先生は、ナチスドイツの元だったらナチスの党員に粛清されちゃいそうだけどね。ものづくりだって、下町ロケットのおじさんたちや深センの働き者たちもいいもの作るんだけど、ゲルマン製のプロダクトはやっぱなんかそこはかとなく、グッと来る男の色気ってものがあるではないか。

 

 ということで、リアリテス・エンジンは、個々人に見せる映像と深層心理のエスに相当する部分の脳内領域の血流変化とを機械学習することで、映像に対する個々人なりの現実感リアリティを高めてくれる。そして、すごいことに、目を瞑ったままでもリアリテスは脳内の現実感リアリティを高めていってくれるのだ。


 その仕組みとしては、ナノセコンドオーダーの精密な制御で網膜に照射される医療用レーザーの働きによる。ちなみに、レーザー照射装置の方も、ゲルマン製だ。ゲルマン製のレーザーにやさしく網膜を刺激していただき、ゲルマン製の機械学習エンジンにフィードフィワードしていただき、ひたすらに現実感リアリティを高めていく……らしいのだっ。

 

 ゲルマン魂に鼻血ブーブー、ではない。それは医療的介入の対象だ。ゲルマン魂に脳内麻薬ドバドバすげぇすげぇ、なのが、リアリテスなのである。

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