第15話 いろいろあるけど、ボン・キュッ・ボンである。


 ……遠藤女史のリードのもと、カンファの方は着々と進んでいく。

 昨日入院したばかりのコウの症状説明がメインとはいえ、私が主治医を勤めるAさん、B君、Cさん、そして、私が支援に回る予定のDさん、Eさん、Fさんの病室での様子を歴戦の看護師たちが淡々と説明してくれている。


 今となっては少し珍しい妄想型の統合失調症を発症なさっているFさんは、相変わらず、かゆいところはお空なのね。まぁ、かゆいところが固定されたということは症状が安定したと見ていいのかしらね。ともあれ、サリヴァン先生の同性的愛を持って医療的介入に奉公するとの志を受け継ぎ21世紀の半ば近くに至る我々は、ゲーム依存症女子中高生たちに治療的介入することを旨とするチームである。

 すなわち歴戦の女性陣が女子力をもって女子中高生たちを愛を持って支援するのである。ァ、女性陣の中で白一点の後藤看護師。君は既に心は女子だし、ここにいていいんだからね。21世紀は男女共同参画社会の時代なのだし

 そう、私は、異世界に転生した、かのような悪いほうではないスライムのように、自分は前に出すぎずにスタッフの皆さんに活躍していただいて成長していってもらうことを旨にしているのだよ。ぶっちゃけ医師免許なるものを持っているだけにお給料は私が一番いただかせていただいているのだが、患者さんのご様子に対する気づきは間違いなく、看護師さんたちの方が鋭いしね。

 後藤君ももっと頑張れ、私のために。

 

 臨床心理士のミカちゃんのターンを前に、遠藤女史がテレカンの手配を始めてくれた。そう、今日は先端医療研の坂口先生とのテレカンを入れているのだ。昨日はじめてコウを診たミカちゃんに、コウの印象を簡潔に報告してもらった後に坂口先生に応援をお願いするというのが今朝のカンファの後半部なのだ。

 

 ☆

 「どうも、坂口先生、お久しぶりです。はじめに、レジュメ通り、うちのミカの方から、患者プシケの鴨志田コウさんについて、ご報告させていただきますね」

 本日のカンファで私のはじめての発言を受け、ミカが話し始める。看護師とまぎらわしいから、心理士の先生はと略すことにしているのだが、ひとりだけ呼称どこかアキバっぽい気がするな。ごめんね、ミカちゃん。

 私立の文学部心理学科を卒業した後、リクルーティングやらマーケティングやらをやる会社で上司やオーナー社長からいろいろとお身体まで揉まれまくった後に、母校の大学院に戻って臨床心理士を取得しなおしたミカちゃん。


 私よりたしか3歳年下だが、苦労人らしく社会人基礎力は私の3倍くらいある。症例報告スタディを書く時も、彼女に下書きしてもらうと、安定のクオリティになるんだよね。社会人基礎力と日本語力、これ大切。はい、今日も簡潔な、患者プシケさんのご報告をありがとう。

 

 「坂口先生、おおよそは、ミカが説明した通りです。私としては、急性期症状が見られない患者プシケさんゆえ、薬物は奏功そうこうしないと考えております」

 「サイトウ先生、すると、プレジニアスのリアリテス・エンジンの治験に、その子に参加してもらう、という方向性で良いのですかね」

 「はい。ご手配をよろしくお願いいたします」

 若干、社会人基礎力を高めた声色で私は応えた。

 

 ☆

 

 今日の入院患者さんとの面談は、共にゲーム依存症のAさんとB君である。

 幼少の頃に岩手県の沿岸地で東日本大震災の被災者となってしまい、PTSD(いわゆるトラウマ)と共にゲーム依存症を発症してしまった古参の患者さんであるAさん。彼女は薬物トランキライザーが効くタイプなのだが、お子さんが中学生になり手がかからなくなるにつれ、ゲーム依存症が再発し、外出が困難となり、派遣のお仕事も辞めてしまっていた。あれこれとジャンルをまたがんでのゲームプレイを辞められない罪悪感からのリストカットがあり、旦那さんの車で当院まで運ばれ、傷の治療の後、当院に入院となった次第。あんなに楽しいゲームをしてるんだから、そんなに罪悪感もたなくていいんだけどな。東北地方の出らしく、ふだんはいい人丸出しで看護師さんたちにも気をつかってくれるAさん、チュッとほっぺたにキスしたくなるほどに愛らしい。


 B君は今年高校1年生である。陸上部で新人戦の選手に選ばれなかったことをキッカケに夜な夜なゲームにのめり込み、不登校となる。酔った父親に家庭内暴力を再三振るわれた後、母に付き添われ、入院。ホントは父親の方を入院させるべきなのだろうが、現時点では入院費を出しているのが父の方なので、代わりにB君が年の瀬を病院で過ごすことになった次第。(あのね、B君。おねえさんは夜になると、酔った勢いでゲームしまくってコタツで雑魚寝ざこねしたりしてるんだよ。おねえさんの方が2倍くらい悪いんだから、そんなに罪悪感抱かなくていいんだよ。)と思う私。


 他の嗜癖しへきの患者さんと同じく、大多数のゲーム依存症の患者さんは、基本、罪悪感をお持ちである。ゲーム症の入院患者さんたちにして医者ができることは、薬物おくすりのわずかばかりの力を借りて、罪悪感との距離のとり方を付き合い方を一緒に考えることである。罪悪感に押し潰さそうになると、例えば、B君のように、他のことを全部投げ捨てて禁欲的にゲームにのめり込むようになってしま。そう、(ほんとにB君。おねえさんが夜は一緒にプレイしてあげるからさ。ゲームが罪だって思うんだったら、おねえさんのオッパイの方を左手でさすりながら、あなたについてる方のジョイスティックをさすってもいいんだよ。)とか言って性的な意味で癒やしたいほどに、B君はシューティングゲームに一途すぎるのである。プロゲーマーの道はまだまた先らしいけれど。


 ちなみに、私だが、高級なブラジャーを身に着けていることもあって、ハッキリ言ってスタイルが良い。ボン・キュッ・ボン、である。白衣を脱いだら、まぁまぁ、すごいのだ。夜に飲酒する時におつまみは少々だけなのが糖質制限的な意味で功を奏している。内科医の先生からは、肝臓の数値が悪化してるよ、とは指摘されてるけれども。

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