東新宿の夜は艶女医

第12話 OUKINを艶女医

 東新宿の自宅マンション一階のスーパーでは、刺し身の盛り合わせとカップ酒を買った。30代も半ばに至り御一人様おひとりさまをぜっさん艶女医えんじょい中な私は、10年後もお一人様な気がしており、料理とかの家事労働はどんど省いてしまっている。そんなわたくしが今晩は久しぶりに乙女ゲームをプレイなさるのだ。オホホホ……


 (乙女ゲーいや美少女ゲーといえば、女体盛り。)

 と、悪魔が美少女の裸体にトロサーモンやイカソーメンやアワビなどなど何かとうねうねにょろにょろしている魚類貝類を盛り立てる様を想像する。


 「サイトウ、最低だな」

 という、今は二児の母である腐女子仲間のスルガのツッコミが聞こえた気がした私は、

 (けっして私の患者ちゃんたちの中高生ではなく、あくまで二次元少女の方を思い浮かべつつ、だがな。)

 と、心の中で、白衣姿でポーズを決めた。


……とりあえず、逃げておいてね。全国の美少女たちよ。


 そう専門医としてのアドバイスを美少女たちに送り……ともあれ、大都会東京は御三家校の腐女子中学生時代からゲーム依存症を専門とするわたくしは思う。

 精神科医としてのキャリアを積み上げし今に至るまで、男性のものであれ、女性のものであれ、あらゆる表層心理・深層心理に、わたくしは好奇心ランランなのだった。そんな私が美少女ゲームをやるからには、いかにも(げへへ)という下卑だ声を出しそうな御宅男子おたくだんしに成り切ってみるのに限るのである。……あれ、どこいった乙女ゲーム。

 

 

 スーパーでは高まる期待に下卑た笑みを浮かべていた私だったが、家に帰ってセレクトしたのは、先日のカルテにも書いた香港のGameShowプラットホームの残念系美少女ゲーム『OUKIN』だった。


 コウの治療に役立つかもしれないとか、今日のコウに共通する要素を探すとかではない。おそらくはネトゲーの『OUKIN』の方にはほとんど登場してこないであろう、栗原美里ミサト(...漢字違うかも)のことが私はなんとなく好きだったのだ。『OUKIN』の世界に転生し主人公として生きる一方で、元の世界でも彼女がもし生きていたとすれば、どんな風に生きて、大学に行って就職して、私のような年のオバサンになっていくのだろうか。

 

 そんなミサトがもし、『OUKIN』をプレイしたとすれば思うであろうこと。今宵こよいのテーマをそう定めた私は、女体盛りは、大晦日あたりに取っておくことにしてお刺し身盛り合わせを冷凍庫に突っ込んでしまった。代わりに、私は冷蔵庫に大量に突っ込まれているドイツやオランダの黒ビールたちから、デュンケルとポーターをセレクトしてゲーミングチェアに腰を落ち着けた。


 GameShowプラットホームにログインし、『OUKIN』のアカウントを取得した。なるほど、GameShow版ではバトルでホログラフィも選べるというわけね。『OUKIN』の懐かしいキャラクターの中から長身の剣士おねえさまを選択した私は、まずは空飛ぶ竜種の一種に実家の秘伝を使っての緒戦を挑みはじめた。


 ……いや、殲滅してやる、一匹残らず。竜種とやらを。


  黒光りする瓶の黒ビールディンケルを煽りつつ、わたしはそう思った。

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