第3話 所見、そして、再診。

 私の心の中にはウホッ、と歓声が浮かんではいる。そう、フカシハナシと言えば、個人的には2020年代イチオシのほのぼの系ロープレゲーム「OUKIN」のアレである。


 原作は女子中高生世代の都合7名がわっほわっほと活躍する名作ラノベ。大人の事情で若干残念なことになってしまったというアニメ版とは異なり、ゲーム化にあたっては、原作の世界設定を活かしつつも開発予算の多くを対戦ビジュアルに回したことが功を奏し、当初展開したスマフォゲームはいきなりの当月最多ダウンロード数を記録していた。当時、研修医を終えたばかりだった私は、少し長めの通勤電車の中で日々楽しんだものである。対古竜戦などの格闘戦もさることながら、原作ラノベの先生が直々に監修されたというフカシハナシの数々も、また、ゲームの醍醐味。...それはそうと、御炬噺おこたばなしという設定を聞いてフカシハナシを思い浮かべないとは、私もゲーム症の専門医としてまだまだである。


 「OUKIN」は、2030年代に入る頃には、香港のネットワークゲームプラットホームGameShowへと移植され、今なお、定番ゲームの一つである。日々の診療に忙しく、もとい、日々の新作ゲームプレイに忙しい私は、最近の 「OUKIN」にどんなフカシハナシが展開されているのかの委細を知らなかったが、SS公認を名言ささている先生の監修の元、他の作品とのコラボとして、6名の戦闘メイドなどが登場することもありえそうではある。


 かくして、私はいったんは専門医へと立ち返り、カルテに、「患者プシケにはOUKIN(SS公認)の影響が見受けられる」と、ドイツ語で記した。

 

 その後、フカシハナシの方の中身を聞いた私は、ゲーム依存症の疑いが強いとした診断書を書いた。併せて、翌々週から始まる学校の冬休みの時期にコウを専門の治療機器のある二女医病院の精神科病棟に短期入院させることを学校医に勧めた。


 翌週早くに、学校医よりコウの家族より入院の了承が取れた旨の連絡を受けた私は、看護師さんに治療機器の手配をお願いしておいた。

 


 当日、2名の成人同伴者に連れられ、コウは、現れた。

 コウに入院の緊張は見受けられないことは何よりであったが、それよりも私の目は2名の成人同伴者に釘付けとなり、思わず呟いてしまった。

 「まんまですやん」

 

 そう、2名の成人同伴者は、アンデッドに仕える執事とスライム出自の戦闘メイドが一人、そのまんまの格好なのであった。


 コスプレと呼ぶにはそのまんますぎる2名を従えた、コウ。その治療は容易ではないかもしれない。ゲーム症専門医である私の直感は、そう告げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る