三限目 告白

『12月10日

   初めての彼女ができた!ダメ元で告白したら何とOK!

   これからは自分の身だしなみとかにもより一層気を使う!

   明日は彼女と一緒に帰ることにする!』

彼女なんていたのか。知らなかったな。

少し飛ばして12月のクリスマスの日を見てみる。

『12月25日

   昨日と今日は幸せの絶調だった。他愛たあいのない話、二人だけの沈黙ちんもく

   けどまだ手しか繋げていないことに、焦りを感じている。

   焦らなくていい、彼女はいつもその言葉を言う。

   明日は冬休み!家族とゆっくり過ごします。』

そのまま2月すえまで毎日飽きもせず誰かは分からない彼女とのやり取りを日記につづられていた。その後12日も空いていきなり始まる。

『3月12日

   久しぶりの日記。いつも明日やることが思いついていたのに

   最近は何も出なかった。この日記は名前の通り明日あすやりたいこと

   を書かないと始まらない。

   けど今日は、明日やりたいことができた。

   彼女、いやと別れようと思う、最近よく思う。

   俺本人がありのままの自分で幸せになっていいのか。』

言葉が出なかった。まさか、、、中田 愛歌が俺の彼女だったなんて。

中田はどんな心境で俺と話していたんだろうか。

こみ上げてくる自己嫌悪じこけんお、知らなかったでは済まされない態度をとってしまった。

『3月13日

   3年生の卒業式。俺たちにはまだ早いが、それでも今の気持ちは

   3年生と似ていると思う。彼女には悪いと思っている。

   好きなんだ、大好きだ。でも、、俺が享受きょうじゅしていいはずのない幸せだ

   った。彼女は別れを告げたとき、笑っていた。

   それを強がりか分かるほど俺と愛歌の距離は近くではなかった。

   それ以上彼女にかける言葉が見つからない。

   明日はとある場所に行こう。愛歌ならいい人に

   会えるだろう。結局、最後まで泣き顔を見せなかったな。

   俺の初恋相手は強い人だった。』

高校生の初めからつづられてきた日記を見るのに夢中で朝の目覚ましが鳴って、やっと徹夜したことを理解した。

その日は見張りをすることなく、足早あしばやに家路についた。

「ただいま」帰ると、すぐに軽食を持ち部屋に上がった。

俺は知りたかった。ただ俺を。二ノ宮 一という人物を。

一冊全てを読み終わった。読み終わった頃にはもう12時をまわり、朝日が出てもおかしくない時間だった。

「明日」という日記。その最後の日付は3月22日になっている。

俺が『俺』の記憶があるのは23日、ここからだ。

『3月22日

   最近、春音はのんの夢をよく見る。 

   明日は、、、、来てほしくない』

何か俺と関係があるのは間違いなさそうだ。

少し寝ようと思い睡眠薬が入った容器を開けると、中身がなかった。

「今日も寝れない、か」

それなら仕方ない、薬局に買いに行くことを決意する。

昨日から着替えてもいないから制服で家を出ようとしたとき。

「あ…」

目が回る。地面が動き出す、体が軽くなる感覚におちいった。

ーーーー

「二ノ宮くんおっそいなぁ」

授業が始まって4限目、休み時間ごとに電話しても、返信が帰ってきていなかった。

「よし!次昼休みだし、家に行ってみよ」

場所はさり気なく、本人から聞いていたから分かる。

チャイムが鳴って、走り出す。

「大丈夫かなぁ。昨日も僕が喋りかけてもうわそらって感じだったし」

10分程、走っただろう。

二ノ宮と表札に書かれた家を見つけた。

インターホンを押してみる。応答がない。もう一度、、相変あいかわらず応答は帰ってこない。

悪いと思いながらドアの前まで進む。

「いないのかなぁ?」

一度ドアノブを引いてみた。すると鍵が掛けられていなかった。

「え?二ノ宮く〜ん。お邪魔するよ!」

ドアを開けた。

「二ノ宮くん!?大丈夫!?どうしたの!?」

玄関に倒れた二ノ宮がいた。

ーーーー

「え!かいてよ!」

目の前には少女が立っていた。

「また〜?」少女が喋りかけている男の子をふと見ると、スケッチブックと鉛筆えんぴつを持っている。

「うん!あれかいてよ!」

少女の指差す方向には灯台があった。

「いいよ。あれだね」

男の子は体育座りで器用に灯台を描き出した。

その横にくっつく様に座る少女。

「はい!できた」

灯台の絵はとてもきれいに表現されており、少女はすごく喜んでいた。

「ありがと!お兄!」

「お〜い二人共!そろそろ行こうか〜!」

「あ!お父さんが呼んでる!行こ、お兄」

二人は手をつなぎ、父のもとへ駆け寄る。

声はここから何も聞こえないが何かを会話している。

3人の笑顔を見ると、とても幸せなことがわかる。

二人は頭をでてもらっていた。

急に視界が白くなり場面が変わった。

「ねぇ描いてよ!描いてよ!」

さっきまでの笑顔とは一変、少女は男の子の服をつかみ、泣きじゃくっている。

「うるさい!いつもいつも父さんと母さんはお前ばっかり相手にして!」

「描いてよ!!描いてよ!」

少女は男の子の話は聞きもしない。

周りを見ると、どうやら公園に居るみたいだ。

投げ捨てられたスケッチブック、それは拒否を意味していた。

男の子は少女の手を振りほどき、走り去っていった。

「描いてよ!描いてよ…お兄、もどってきてよ…」

また場面が変わった。

今度も先程と同じ公園のようだ。

男の子が帰ってきた。

春音はのん!!春音!!どこだ!」

春音?もしかして日記に書いていた…

どうやら少女が見つからないようだ。

「どこいったんだ、、、」

男の子、少年は公園を出ていった。

俺も後を追う。

しばらく探すが見つからない。

交差点に差し掛かった時、横断歩道おうだんほどうを挟んで向こうの歩道に

少女がいた。

「春音!」

声に気づき少女は安心したのかを見て、

車が来ていないことを確認して横断歩道を渡り始めた。

少年も走り出した。二人の距離はどんどん近くなっていく。

するといきなり少年の目の前を車が通り過ぎる。

鈍い音が一瞬。

それを目撃していた歩行者が悲鳴を上げる。

「春…音?」

少年は横たわる少女の名を呼ぶ。

「どこ……?お兄//……行かない…で…」

ーーーー


「行かないで…」

見覚えのある天井に手を伸ばして涙が流れていた。

「二ノ宮くん?起きたの!!良かった〜!」

「北、、?」

「僕がいなかったら、きっと大変なことになってたよ。

感謝してよね!」

「ありがとう、助かったよ」

「それよりも良かったよ。目が覚めてくれて

今日は一日安静に、だよ。じゃあ僕は行くから」

かばんを肩にかけた北は部屋を出ようとした。

「待って!」

「え?二ノ宮くん?」

一人になるという不安からか思わず出てしまった。

「いや、その、、忘れてくれ。ありがとうな」

「うん」

彼女は部屋を出ていった。

横たわり天井に目を向けて閉じた。

そこには暗闇が広がっていて、心音が聞こえる。

周りの音が、無音という音が心をざわめかせる。

心音が早くなることを感じる。

「はぁ!はぁ」

思わず飛び起きた。

「やっぱり無理だな」

コンコン、ドアがノックされた。心臓が跳ね上がる。

ドアがおもむろに開いてゆく。

そこにはトレーに何かを乗せた北がいた。ほっと胸をなでおろす。

「二ノ宮くん、おかゆでもどう?」

「もらうよ」

ベッドから降り、机の前に座る。

「いただきます」

「召し上がれ〜!」

両手をおかゆに向かって振っている。

「ん!?おいしい」

「良かったよ。市販のおかゆを気に入ってもらって」

「市販かよ!」

久しぶりの感覚で笑う。

すると涙が溢れてきた。止めようと思っても止められない。

「あれ?なんで、、」

気づくと北に頭を抱えられていた。

「大丈夫だよ。今ここには僕がいるから」

思わず、思わずだ。彼女の体に寄り掛かった。

「俺、怖いんだ。寝るのが、朝俺が俺として起きること、できるのかなって」

「うん」

「だから…だから。後悔を残さないためにも、人との関わりを極力しなかったんだ…」

「そっか」

しばらく北は黙って俺の告白を聞いてくれた。


あれ?寝れた…のか。

俺はいつの間にかベッドの上にいた。

リビングに降りると、ソファで北が寝ていた。

親父も母さんも何も言わなかったのか?これ。呆れた。

放任主義もここまで行くと清々すがすがしい。

時計は朝の7時を指していた。

「北、起きろ。朝だぞ」

「う〜うるさいなぁ。誰かさんが昨日寝るまでずっと僕に抱きついてたから寝不足なんだよ〜」

「いや!?あれは成り行きと言うか!何と言うか…」

「朝ごはん作って」

微笑びしょうを浮かべながら今日初めて目が合う。

「ああ」

朝はシンプルなベーコンエッグにした。

朝ごはんを食べている最中に互いの状況を確認した。

どうやら俺は洗いざらい吐いてしまったらしい。

「それなら簡単だよ。放課後に依頼者一人ひとりを呼ぼっか」

文化祭前日の放課後。

まずは一人目 斎藤の調査を依頼してきた他クラスの女生徒。

これは単純だった。斎藤には好きな人がいること、付き合ってはいないことを報告。

あとは彼女の気持ちがどれほど本気なのか。それがこれからの行動に影響する。

二人目 斎藤の彼女本人の気持ちを諦めさせてほしいと依頼してきた。

中田 愛歌。

2日ぶりの会話。あのファミレス以来だ。

俺はここで伝えないといけない。その義務がある。

中田は気丈きじょうな雰囲気を取り戻していた。

「中田、依頼内容に関しての前に個人的な話がある」

明日あす」の日記を彼女の前に置いた。










































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