二限目 身辺調査

ざわつく廊下、調査を初め、5日が経過。変わったことを挙げるなら、

文化祭準備が始まった。

文化祭当日は一週間後、依頼主への報告日を考えるとタイムリミットは

残り5日。

「そろそろ何かアクションを取らないと。北」

「そうだね。なら僕が」

そう言うと彼女は斎藤のいる方へと駆けていく。

何をしようとしてんだ?北。

「ねぇねえ?てる〜」

「ん、どした?冷夏れいか

ここからが腕の見せ所だ。どうする?北!

「好きな人って今いる?」

ドゴォン!俺は近くのダンボールが積まれた場所に倒れる。

「全然!大丈夫です!ほんと何やってんだか。はは…」

誰も見ていなかった。

「ははっ、、はぁ」

はっ!こんなことしてる場合か!北は、

「なにしてんの?帰るよ」

「あれ?お前こそ何……って聞かなくても分かるかw」

スパコン!

スリッパで頭を叩かれた。痛ってぇ。痛いよ北さん。


次の日。うちのクラスの出し物、屋台の本格的な準備に入りだした。

北はクラスの手伝い。俺は自分のクラスを手伝いもせずに相も変わらず、

今日も今日とて斎藤を見張っている。

このままでいいのか。そんな思いがよぎる。今日は帰ろう、北もクラスにはいるし俺が見張る意味がない。

「待って」

これからどうしようか……新しいプランを練らないと。

「待ってってば!二ノ宮!」

「うぉ!びっくりしたぁ…」

「さっきから何度も呼んでるでしょ。気づきなさい」

声の主、中田 愛歌あいか、先程まで文化祭の準備をしていたはずだけど。

俺に何か用があるんだろう。

その声は怒り。とうよりも、あきれ、悲しみが目立っていた。

彼女は俺をどう思っているかは分からない。が、これはチャンスだった。

「こんな所じゃなんだ。場所を変えること、できるか?」

これは他人(斎藤)に見られたくないという配慮はいりょ

「分かったわ。少し待ってて」

正門せいもんで待っとくよ」

正門に着いて、中田を待つ間。

スマホを取り出し近場のファミレスを探した。

中田がかばんを持って駆け足でやって来る。

「ごめんなさい、時間を取らせちゃって」

「問題ない」

ファミレスに行く道中は文化祭の話などで思いがけず盛り上がり、気を使う必要がなく到着した。

店に入ると空席が目立っており、店員には

「お好きなところにお掛けください」と言われたので一番奥の角のテーブルに腰を掛けた。

ドリンクバーをお互い注文してから一口、注いできたドリンクを飲んだ。

「あなた、風紀委員に入ったのね」

「らしいなぁ」

「あなたって人は…」

「今回の件だけ、それが条件だけどな」

「今回の件?あなたもう他の依頼を受けてるの?」

「ああ、受けているが依頼に関することは何も言えない事になっているから聞いても何も言わないから」

「分かったわ、なら他の質問をしてもいい?」

首を縦に振る。

「一つの依頼を受注じゅちゅうしている際に他の依頼をすることは

可能なの?」

そのことに関しては北は何も言ってなかったからいいはずだろう。

「可能だとは思うが、もう一件もっているからやっぱり作業効率は落ちると思うし、依頼内容によっては断るかもしれない」

「そう…なら私の依頼を聞いてもらってもいい?」

「聞くだけなら」

俺はドリンクを飲み干し、彼女の話に集中する。

「実は…昨日、あなたが教室に入ったとき、私ともう一人、斎藤 輝がいたのを覚えている」

「もちろん、頭の悪そうなあいつだろ?」

「そんなことを思っていたの、、、まぁいいわ

あの時、私は彼に呼び止められていたのよ」

「それで?」

「ここからが依頼内容に深く関係があるの。

結局呼び止めれてた理由は告白。だったのよ」

「え?…それの、、」

「話は最後まで聞いて。私、二年生になってから彼にこれまで何度も告白をされているの」

「あぁ、ということは斎藤に諦めさせること。それが依頼内容か」

まさか、、思わない所から新情報を得ることができるとは。

それに2つの依頼には関連もあることだし。

「OK、その依頼受けるよ。依頼費は400円、ともう一つ。依頼への全面協力だ」

「もちろん協力するわ。二ノ宮くん」

「ありがとう。よし!なら予定が決まり次第しだい連絡をする。

それと本当にいいんだな?斎藤を振っても。」

「ええ、だからあなたに依頼しているの」

彼女はドリンクを飲もうと片方の手で髪の毛を耳の後ろに流しながら器用に飲んでいた。

「だから…その…連絡先を……教えてくれ」

中田のまゆが、目が、少しずつ強張っていく。

「あなた、私の連絡先を持っているわよ。以前から」

「え?そうか。持ってたのか俺」

俺は覚えていない、ならか。

「やっぱり覚えていないのね。あなたはっ」

彼女は少し苛立いらだちを隠せない様子で席を立ち上がった。

先程、、思い返すと昨日から時折ときおり見せていた俺に対しての負の感情が…

「あなたは…っ!」

何度言われたら俺は許される、認められるんだろう。

でも確実に分かることは今ではない。それだけは分かる。

彼女は俺に言葉を浴びせるか迷っている。

依頼をしているという理由も含んでいそうだ。

「私との思い出もやっぱり忘れているのね。」

悲しく笑い、彼女は今にも泣きそうであった。

「ごめんな、でも俺は中田とは昨日始めて話した。

それしかお前に対しての記憶はない」

《はじめ》……!」

別れの言葉も告げることなく、彼女は店を出ていった。

俺はひじをついてゆっくりと残っていたドリンクを飲んだ。

皆、俺を見てはいない、皆が望む二ノ宮 一。記憶を無くす前の俺を、

今は幻想の…あいつを見ている。誰もこの中身に興味もない。


「ただいま」

家に帰ってきた。玄関で靴を脱いでスリッパに履き替える。

返事は帰ってこない。

両親は共働きでいつも家に帰ってくるのは遅いし帰ってきても顔を合わせることはない。

特段やることもなく、風呂に入って、冷蔵庫に冷やされていた夕食を取り出し温めて食べる。

自分の部屋に上がり日記をつけて、寝ようと部屋の電気を消した。

あ、飲むの忘れた。

俺は睡眠薬を飲まないと寝ることができない。

いつもの薬を置いている所を暗闇の中探す。

目が暗闇に慣れてきた所で気づく。薬は棚と壁の隙間にあった。

手を目一杯伸ばして何かをつかみ引き抜く。

薬と一冊の本が取れた。タイトルは…明日。手書きであった。

何ページかめくると日記だと分かる。

これは、、はじめが書いたものか?

『12月10日

      、、、、、、、』







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