【現代軸】時の気まぐれでも世界は動いてる

吉枡ニンジン

第1話 導入

 はいはーい、今日は人通りの多いにやって参りました。見て見て、この人混み!とっても多いんですよ!信号待ちだけで密ですね、笑う。

 人気でもなんでもない底辺の動画配信者の井上瑞穂は今日も街に繰り出し訳の分からないことを喋りながら街を闊歩する。

 脳みそが2つ3つぶっ飛んだ感じの明るい彼女は動画配信時は常にこのテンションであり、このテンションの可笑しさが逆に面白いとして人が集まっている場合もある。

 今日も今日とて突撃お店訪問をして人の迷惑を買って歩こうというのが彼女の趣旨だ。はっちゃけ具合で関わる他人を苛立たせ、呆れさせる捨て身の戦法は彼女の異常さを際立たせた。顔出ししている彼女は何人かの元同級生にこの現状を知られている。だいぶ様変わりしたと。

 そんな彼女が小声で話し出す。

 ここだけの話、今回は飛び込んじゃおうかなって…なんちゃってね、そんなことしないけどね〜

 アハハッと笑いながら天仰ぎ、自撮り棒を持って両手を広げながらクルクルと回って移動する瑞穂は次第に横断歩道へと近づいて行った。そして横断歩道と歩行車道の境目の斜面に足がかかったその瞬間、彼女はバランスを崩した。気づいて立て直そうとする身体はもう車道側に倒れ向かっていた。そんな彼女を不運にもトラックがはねる。吹き飛ぶ身体は羽が生えたように軽く吹き飛んだ。べしゃりと、嫌な音を立てて落ちた体は痙攣しドクドクと血が流れ出る。体が曲がってはいけない方向に酷く折れ、頭からぶつかったため凹み、割れ、見るも無残な状態となった。

 悲鳴とシャッター音、色んな歪な音が彼女の周りから響く。助けようと駆け寄る誰かの呼び声は無意味な音でただ不協和音でしかなかった。

 脳裏にあるのは消えゆく底の無いはずの痛みと自分が助からないという事実。そして今までの出来事が走馬灯のように流れて止まらなくなる。

 死ぬというのはこういうことなのかと。

 終焉を迎え、死にゆく彼女は血に隠れた瞳の隙間から目の前で倒れたにも関わらず、動くことのないバイク乗りを見た。

 それが彼女の最後だった。

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【現代軸】時の気まぐれでも世界は動いてる 吉枡ニンジン @nisigaki257

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