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翌日またバーに行き、イツキはマスターから詳細を聞いた。
「ゲームは明後日の午後十時から」
ゲームまでの期間が短い。イツキにとっては、都合がいい。
「そしてこれが、ゲームの詳細ルールになる」
イツキはマスターから書面を渡された。
ペラ刷り二枚。それは頼りなく見えたが、絶対的な物にも感ぜられた。
―――――――
“ルーレット”
同志No.22からNO.169へ
五月二十三日午後十時より開始
賭け金は5000万円を天井、支払い上限とする
革命者をプレイヤー、権力者をディーラーとし、ゲームの進行はそれに準拠する
権力者の用意したヨーロピアンスタイルのルーレット盤を使用
場代は無し
賭け金はチップ化、ミニマムベットは200万円、マックスベットは規定無し
インサイドベットは一~六点賭け、但し五点賭けは存在しない
アウトサイドベットは
のみ
配当は最も一般的なルーレットのルールに準拠
但し、配当に関わらず、敗者の持つ賭け金以上の負け分の支払いはなし
ベット時間は、プレイヤー先手の場合ディーラーがベット開始を宣言してから60秒以内
プレイヤー後手の場合ディーラーがボールを投げ入れてから20秒以内
それ以降のベットの変更は禁止
なお、同志はルーレット盤の回転中、ルーレット盤に触れてはならない
また、ルーレット盤内に異物を入れる行為も禁止
その他、ルーレット盤の回転に影響を与える行為の一切を禁止する
賭け金全てを失った同志の敗北、残った同志の勝利
―――――――
読み終えて、イツキは、
「これを書くのが、あんたの仕事なのか」
マスターにそう訊いた。
書面の一枚目には上記の文面、二枚目はゲームで実際に使うルーレット盤と、賭け金を置くレイアウトの画像が載っている。見た目は普通のルーレット。0はあるが00の無いヨーロピアンスタイル。
「書いたのはその同志だよ。君が戦う相手。私は、少しアドバイスをしただけだ。ゲームに穴が無いように」
「規約にはゲームは“双方に均等に勝利の可能性”と書かれていた。ルーレットはディーラー有利だと思うが、いいのか?」
「いいや、“均等”だよ。その意味を、よく考える事だ」
(……ゲームではなく、か……)
訊きながらも、イツキは理解していた。“均等”とは確率論的な均等ではない。
規約の第五条に、「不正行為」という形でイカサマについての言及がある
ペレストロイカ同志規約5-①
・不正行為は、その対戦相手がモデレーターに宣告した時点で発覚とする。また、それには立証を必要とする。
ペレストロイカ同志規約5-②
・不正を宣告され、モデレーターにより不正行為を行ったと判断された同志はその時点で敗北とする。
(ミハイルにとってこのルーレットのルールは、どうとでも捻じ曲げようのある“公平”なゲームなんだろう……)
それは、カードの勝負の為に手首を切り落とすような覚悟さえあるならば。簡単な事なのだろう。
外は斑な雲。少し、肌寒かった。
ミハイルとの勝負を思い出していた。イツキはあの時、ルールを書面では見ていない。
それ自体に腹が立つ訳でないが、殺意は燻る。
まだあの地下を本当の意味で理解していない。経験豊富な同志を相手に、それでも全てを賭けるしかない。
死にながらでも前に進むしかなかった。
頭を失くした鶏の様に。
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