第3話 嫌いな理由。サキュバスは一目惚れする/慕う

「そもそもなんでお前たち、そんなに俺に構うわけ?」


『お前ら俺のこと好きなんだろー』なんて声に出すのも恥ずかしい。しかし、セチアは俺の部屋に勝手に入ってのんびりするし、クロユリはこちらに猛アピールしてくる。理由不明な強力な愛情というのはむしろ恐ろしく感じるのだ。

 サキュバスだから男に対してグイグイ来るのかもしれない。風俗とかキャバクラ入ったことないからわからないけど、こいつらからは執念じみたものを感じる。


「だってさぁ。アタシは陸翔がものっすごいタイプなの、堕としがいあるなって思ったの。しかめっ面しててさ、アタシみたいなサキュバスに対して堕とされるもんかって思いをビンビン感じて。不良っぽい顔しているけど髪を染めない真面目さとか、ちゃんと勉学に勤しむ様とか素敵だなって思っちゃうの。堕としたくてたまんな~い」


 セチアはそこまで言い切りながら椅子に腰かけ、コップに入っていた麦茶をぐいっと飲む。うん、それ俺のだからね。

 にしても本当に胸デカいねお前。上半身そらすと、チューブトップに包まれた胸が強調される。ねぇ高校生? 本当に高校生? 20代グラビアアイドル顔負けのプロポーションしてるよお前。


「うんなるほど。お前にとって俺は課題なわけね」


「ちがうのぉおおおおおおおお!!」


 意地悪に答えてやると、セチアはブンブンと腕を上下に振ってわめいた。でも今のような物言いは俺を玩具にしているようにしか聞こえません。恋愛クソ雑魚め。俺もだが。


「で、クロユリは?」


 俺のベッドに寝転がり、毛布に顔をうずめてスーハースーハーしていたクロユリが顔を上げる。恍惚としているのか緩んだ表情をしていた。黒い羽根がパタパタ羽ばたいて、尻尾がゆらゆら揺れているよ。可愛いね、変態っぽい行動をしなければ。


「私、人間界のこのマンションに引っ越してきて、始めて優しくしてもらったのがお兄様なんです……」


「ん、んん。それは、なんか今までの扱いが申し訳なくなるな」


「覚えてないかもしれませんが、お兄様が隣に引っ越してきた時、お兄様は私に初めておまんじゅうをくれたんです。えへへっ」


 いやそれ引っ越し挨拶の奴! 上下左右の部屋に『初めまして、よろしくお願いします』の挨拶で配る奴! それで惚れたの!? お前この人間界でどんだけ優しくされてないの!? 学校とかで無視されたりいじめられてない!? 大丈夫!?


 もじもじと恥ずかしそうにしてるけど、それくらいの優しさでコロッと落ちるやつだったのかクロユリ!


「優しければ誰でもいい感じなんだな……」


「ちがいますぅううううううう!!」


 両手両足をぼむぼむベッドに叩き付けて暴れるクロユリ。やめろ! ホコリが舞うだろ!


 そうか……勇気出して構ってくる理由を聞いてみたが、こいつらにとって俺は今言われた程度の扱いだったのか。

 ちょっとだけ泣いていい? こいつらのこのひと時の感情で、俺のささやかな幸福はぶち壊されたんだよ?


「ぐすっ、酷いよ陸翔。なんでアタシのことそんなに嫌うの」


「そうです! 私達、きっといい恋人になれると思うんです!」


「なぜ嫌うかだって? ……そりゃあねぇ? お前らが俺の幸せにとどめ刺したからだろ」


「アタシ達が!? そんな酷いことしてないよ!」


「そうです! 私がお兄様の幸せを壊すことなんてあり得ません!」


「覚えてないのか、あの時のことを……。お前ら、俺が彼女を家に呼んだ時に下着姿でギャーギャー喧嘩し合ってただろ! あれが原因で破局したんだぞ! あれほど俺の部屋に勝手に入ってくるなといったにもかかわらず!」


 そうなのだ。こいつらが原因で、俺は彼女と別れているのである。

 前々から一緒にいてつまらないと言われてたのでそのうち別れることにはなったんだろうが、関係にとどめを刺されたとなれば嫌いになる原因になるだろ。


「アッ」

「アッ」


 部屋から飛び出していったあの人は彼女さんだったのかと、2人は今更知ったようだ。青い顔をしてガクガクと震え、自分たちがしてしまったことに後悔している。


「あれ、彼女さんだったの……」


「そうじゃなきゃあんなに怒らんだろ」


「私たちのせいで、お兄様と彼女さんが別れたんですか……?」


「そうじゃなきゃお前たちを嫌ってないだろ」


「よっしゃ」

「よしっ」


「は?」


 え、なに? なんで2人とも握りこぶし作ってんの? なんで青い顔からイキイキとした顔に戻ってんの? おいおいまさか……。


「じゃあ、陸翔は今フリーってことだよね? それならアタシが堕としてかまわないってことだよねー」


「お兄様、私がその穴を埋めてあげますね? 私が心に穴を空けてしまったのなら、私が埋めないと!」


 こいつら、むしろチャンスと思っていやがる!? 自分が嫌われる原因作ったくせして!!


「反省しないお前ら嫌い」


「やだぁああああああああ!!」

「やぁあああああああああ!!」


 2人の絶叫が部屋中に響いた。ヒンヒン泣く高校生サキュバス2人に、俺は呆れ返るしかないのだった。

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