第33話

昔、昔、あるところに、巨大な力を持つ花の女王がいました。

女王様の命令は絶対。

女王様は自分のポッカリ空いた穴を埋めたくて、たくさんたくさん命令しました。

けれど、女王様が命令すればするほど、魔物も人間も離れていき、最後は彼女一人だけになってしまいました。

可哀想に思った一人の少年が、女王様に話しかけます。


「大丈夫、大丈夫。痛くしないよ。僕が守るから。だから、君もみんなを傷つけないで。そしたらみんなも君のことが好きになるから」


女王様は少年の言葉を信じて、みんなを傷つけないことに決めました。

女王様は力を分散させて、一つ一つの小さな花の姿に変わりました。

とっても小さな可愛い花です。

人間も魔物も傷つけないため、女王様は変わったのです。

それ以降、その花はマンドラゴラと呼ばれ、今もこの地に根付いています。


ー…


「今日の分の薬はこれでいい?」


リブはユウゴの部屋をノックする。

今日分の薬をヴルのところに売りにいくのだ。


「ヴルのところに行くのか?俺も行くよ」


「うん、ギルドに売りにいく分はコルがさっき持って行っちゃったから、これはヴルさんのところに持っていく予定の薬。でも、全然一人で持てる量だから気にしないで」


「病み上がりのお前に酷なことはさせないよ。それにヴルに用事があるんだ」


「へー…めずらし」


と、リブがよいしょと薬の入った箱を持ち上げようとすると、突然、ズン!という鈍い地響きで家が揺れる。


「「!!??」」


少し倒れかかったものの、リブが抱えていた薬は無事だった。

危うく今の稼ぎがなくなるところだった…。


「大丈夫か?」


「うん、平気。お父さんは?」


「問題ない…少し本が崩れただけだな」


地震の衝撃で、家の天井から木の破片がパラパラと落ちてくる。


「前から思ってたんだけど…ちょっとは整理整頓したら?最近、真面目に地震多すぎ問題発生中だし。次に大きな地震があったら、潰されちゃうよ」


「洒落にならないな…」


「ただでさえボロい家なのに、また穴とか開いたらどうしよ」


「そうだな。この時期に野宿は生死に関わる」


「冗談キツすぎ」


まだゆらゆらと横に揺れている。

随分と長い。


「火事だ!!北の森が燃えてるぞ!!」


ようやく揺れがおさまった頃だった。

外から大人たちが「北の森が燃えている」と騒ぎ始めた。


「うそ…!!」


リブとユウゴもその話の内容が気になり、家の外に飛び出る。


「!!」


「ごほっ…なに、これ…すっごい煙…」


木々が燃える臭いは街まで届いていた。

外に出ると同時に猛烈に咳き込みたくなる。

辺りは灰色の煙だらけで、風に乗ってきた灰が雪のように吹雪いていた。


北の森は確かに燃えていた。

煙は真っ直ぐと上へ上へと伸びている。

そして、夕日のように真っ赤に燃える空。


「炎魔法が使われたの?」


「それにしてもすごい量だ…人体にも影響が及びかねん。これは意図的ではない…な」


「リブー!おやっさん!!」


「コル!!」


ちょうどギルドに薬品を売りに行ったコルが走って戻ってきた。

息を切らし、肩を上下に動かし、緊急事態を知らせにきてくれたのだ。


「怪我とかしてない?」


「だ、いじょ…ぶ…はぁ、はぁ…お前も、怪我とか…してねーか?」


「うん、大丈夫だよ。ちょうどヴルさんのところに行こうとしてただけだから。家もちゃんと無事だし」


「良かった…はー…」


コルは大きく息を吸い込んだ。


「なにが起きてるの?」


「急にマンドラゴラが燃えたらしい。全部…自然消滅…。各地のギルド嬢たちが連絡してたのが、聞こえてきたけど、同じ現象が起きたらしいんだ。原因は不明…」


「甘い香り…確かに消えてる…」


「そんでもって…ちょうど森に出てった冒険者4名中3名と連絡が取れなくなったって。一人だけ門番が戻ってきたやつに話を聞こうとしたらしいけど、そいつは首を横に振るだけで何も答えちゃくれなかったって…」


「ねえ、それって、もしかして」


「灰色の髪の少年だったらしい」


「………ナナシ………」


「真相は闇の中だな」


「お父さん!私、あいつのこと探してくる!!」


飛び出そうとするリブの腕をコルは掴む。


「リブ!やめろって。今は街も混乱してる。こんな時に探しに行くのは得策じゃない!」


「コルの言う通りだ。森から戻ってきたということは無事だったということだろう。だったら次に会った時に聞けばいい」


「でも!それがナナシって証拠はないじゃん。あいつの顔見るまでは安心できないよ!!」


「あー…もう!!分かった。俺がナナシを探してくるから、お前は家で大人しく待ってろ!お前が入るとあいつの顔見るなり、絶対喧嘩してややこしくなる!ただし!!見つかんなくても文句言うなよ!」


がしがしと頭をかいた後、コルは少年の探索を渋々了承する。

リブのことを家の中に押し戻し、ドアを閉める。

そして、彼女が出られないようにユウゴという番人で閉じ込めた。


「おやっさん、リブのこと頼んだからな!」


「分かった」


と言った後、コルは勢いよく出て行ったが…


1時間後、コルは首を横に振りながら、肩を落とした。

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