第28話
「なるほど。蛇の魔物が突然現れて、人を襲った、と。そこには例の少年がいて、その蛇は少年を守るようにして消えていった…」
「せや。一部始終見たわいの目が真実や。あんたのところで世話してた少年やって知ってたら、巻き込まんやったわ」
ヴルはもう店じまいしたい気持ちが先走り、店の外に顔を出し周囲を確認する。
この会話は誰にも聞かれてはいけない。
ここだけに留めておきたい。
誰もいないと分かると、ヴルは店じまいだとドアを閉めた。
「巻き込む巻き込まないの話じゃないだろ。そもそも子供を使っての賭博なんて犯罪だ」
「…っ……なんや、わいのことをギルドに売るか?」
「いや、売る気はない」
「目的はなんや?」
話の先が見えない。
ヴルは奇妙な会話を始めるユウゴの意図が分からなかった。
「俺は常々、信用なる人間から上質な情報を提供して欲しいと思っている」
「あ?」
「あんたにそれをやって欲しい。軽口なのが難点だが、情報の質は高い…と俺は思っているよ」
「お褒めいただき光栄ですわぁ〜。それくらいならお安い御用やで」
「ああ。俺の言う通りの情報を流し、俺の欲しい情報をもらいたい。簡単な仕事だな」
ヴルはユウゴがそもそもどこから自分の情報を手に入れたのか、聞きたかった。
そいつと交渉しろ、と追い払おうかとも考えた…が、交渉決裂させた時点で自分は捕まる。
悪手だ。
「………そ、れは…。わいはもう逃れられへんちゅーことか?」
「そういうことだ。牢獄で一生涯を過ごすよりマシだろ?」
「あんたはそれでええんか?一父親として犯罪者を見過ごしてえぇんか?心痛まんのか?」
「お前ほどではないが、俺も昔はやんちゃしていた」
「え…わいほどでもないって…極悪人やん」
あんなに秘密裏に行っていた裏賭博のこともバレた。
相当優れた後ろ盾がいる…だが、それを聞く余裕はなかった。
要はそいつに聞くよりコマのように扱える人間が欲しいということなのだろう。
「やるのか?やらないのか?」
「やっても地獄。やらなくても地獄やん」
「自業自得だな。身から出た錆、とも言う」
「はいはい、分かりましたよ。やります、やります。やらせていただきます〜」
「交渉成立だな。よろしく頼むよ」
よろしくなんて心から思っているのか謎だ。
いつもリブの前では温厚な性格で接しているユウゴを知っている分、裏の顔とのギャップが激しい。
ユウゴの意外な一面を見たヴルは少したじろいだ。
「この事は口外するなよ。初めての依頼だ」
「当たり前やん。言った時点でわいもあんたもおしまいやで。わいは投獄されて、あんたは父親としての信用を失うんや」
「道連れだな。けど、それがチャラになるくらいお前には大事なことを頼むつもりだ」
「は?」
ユウゴは頭をぼりぼりとかいた。
「気づいているか?世界が不安定になっていることを…。内陸での大地震、砂漠地帯での雨。ここ数日間で大きな変化が起きている。…あの少年が来てからだ」
「例の少年の有無関係なく、起きるもんは起きんねん。あんたの考えすぎちゃう?」
「そうであって欲しい、と俺も思う…が、あの少年には不思議なことが多々ある。この街周辺でとれるはずのない黄色の宝玉。…この杖のことだ。俺も調べてみたが、黄色の魔石というものは存在しなかった」
店先に置いてあった杖。
あれは裏闘技場に少年を出す際に拾ったものだ。売れるだろうと思って高額な値段表示にしたが、皆、気味悪がって買おうともしなかった。
そもそも黄色などあり得ないのだ。
炎の魔石は赤。冷の魔石は青。癒の魔石は緑。
と、いった感じで魔力の色は決まっている。
あの黄色の魔石から一体なんの魔力が集まると言うのか。
「どこからともなく現れた蛇の魔物」
裏闘技場で初めて見た魔物。
とてつもなく大きく、一瞬で闘技場にいた人間を硬直させた。
静かになった後にこっそりと触れてみたが、皆、冷たくなり呼吸一つもしていなかった。
あれは多分死んでいる。
「記憶喪失」
リブが言っていた気がした。
名前もなにも覚えていないのだとか。
「名前のエラー表示。そして、ギルドも誰も彼のことを知らない、ということ」
これは知らない話だった。
ユウゴが言うには、名前を調べようとしても文字が崩れて読めないのだとか。
「彼の出処がないんだ。情報自体も見当たらない。…そして、彼の現在の居場所を知る者もいない」
正体不明の少年は、神出鬼没だ。
ふらっと現れることもあれば、数日間姿を見かけなくなる。
そして、誰も彼の居場所を知らない。
「少年のことを調べれば調べるほど、おかしな点はたくさん出てくる。だから俺は昨今の異変は彼になんらかの関係があると思っている。今は知っている情報が点々としているだけだ」
「じゃあ、その点と点を繋げれば全容が見えてくるんか?」
「そうだ。イレギュラーな出来事でも起因を辿っていけば、きっと辿り着くはずだ」
「まるで星座やな」
「………」
急に舞い込んできた憶測を順応性高く、純粋に飲み込めるほど子供ではないヴル。
表面上は「やる(強制)」が、心の奥底では「イカれ変人」と罵った。
そんなヴルの思考を読み取ったのか、ユウゴはふっと笑った。
「まあ、そういうことだから、よろしく頼む」
「選択肢ないんやから、まあぼちぼち調べるわ。『少年』、『異変』、『事件・事故』…そこらを調べれば何かしら分かるんやろ?」
「ああ、そういうもんだ。俺も何か分かったら連絡する」
扉の方に向かっていくユウゴを見て、ヴルはようやく出ていってくれるのか、と安堵する。
こいつのことだ。
手を抜けばあっさり見抜かれる。
どうしたものか、と頭を悩ます。
「で…」
扉のノブに手をかけた瞬間、ユウゴはぴたりと足を止めた。
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