第27話
ある日のことだ。
ユウゴは一つ気になることがあり、外に向かう準備を始める。
「お父さん、どこ行くの?」
「ちょっと出かけてくる。気になることがあってな」
「薬、持ってくの?ヴルさんのところ行くなら、手伝おうか?」
「これくらいなら一人で十分だ。風邪を引いてる娘を酷使するほど悪い父親じゃないからな。ゆっくり休め」
結局、体を温めても、寒さには敵わなかった。
リブは案の定、体を壊して熱を出してしまったのだ。
毛布に包まりながらユウゴを見送ろうと顔を出す。
「ごほっ、ごほっ…」
「俺の心配じゃなく、自分の心配をしろ。すぐ戻ってくる予定だが…腹が減ってるなら、暖炉の上の粥を食べるといい。コルの母親が持ってきてくれたものだ」
「ごほっ…分かった…」
「あとで礼を言っておけよ。コルも心配していた」
「はーい…」
熱を出したのはリブだけで、同じく雨に降られたコルは次の日もケロッとしていた。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
体が辛くなってきたのか、リブは大人しく部屋の中に戻っていった。
今日の納品は多くない。
薬のほとんどをリブに使ってしまったからだ。
だが、それを伝えればばリブは恐縮してしまう。あえて何も言わずに彼女には薬だけを渡した。
「おお、おやっさん。久しゅう!今日は娘ちゃんやないのなー」
「最近、娘は依頼ばかりで忙しそうにしているからな。邪魔をするわけにはいかないよ」
「おーおー、優しいなあ。ほんまもんの娘みたいに可愛がっとるやないか」
「本当の娘だが、なにか?」
「おおっと。いらんこと言ったな。熱、出したんやって?」
「どこから得た情報か知らんが…そうだな。今、寝込んでいる」
商人・ヴルは薄い口でよく話す男だ。
正直なところユウゴはこの男を信用していない。
腕は確かだが、この男は肝心なことだけ隠し、人の個人情報をぐいぐい聞きたがる。
「今日もおおきに〜。これで銅貨20枚でえぇか?いやー、おっちゃんの薬はよく効くし、すぐ治るって評判があってなー。治癒魔法使える医者の治療費は高いねん。信じられるんは、やっぱお薬やなぁー、なんて主婦層で大人気やで。これからもご贔屓にな〜」
「そうか、私の薬に需要があって何よりだ」
本日はこの信用ならない男に、確認したいことがあり、わざわざ出向いた。
ユウゴはとある商品を見つめながら、話し始める。
「そういえば、君は商人として色々売っているそうじゃないか」
「せやで!わいに取り扱えない商品はないでぇ。なんか買いたいもんでも出来たか?仕入れたろか?」
「そうだな。私が欲しいのは、目に見える物ではないんだ」
「おぉ?」
「情報だ」
「あー…わいの副業、しっとったか」
「君の商品に関しては、ある程度知識がある。だから、ちょっと話してくれるか?」
「なんの情報が欲しいんや?」
「少年について、だ」
「少年…誰のことやろか?わいでもそんな曖昧な情報じゃあ、分からへんなー…あ!そろそろ店を閉めんといけへんな!」
ヴルの額に汗が滲み出したのをユウゴは見逃さなかった。
隠したいことでもあるのだろうか。
ヴルは口早にユウゴの背中を押して店の外に出そうとしてくる。
「…そういえば、あの店頭に置いてある杖はどこで手に入れたんだ?どこかで見覚えのあるような…年かな。最近、物忘れが酷くってね」
ユウゴがさっきから気になっている物…店頭に置かれている杖。
黄色の魔石が輝く、変わった見た目の杖だ。
「そないなことあらへんでー。気になるんなら、タダでやるで!!じゃあ、わいはこれで…」
「ああ、思い出した。最近、うちに来たとある少年が持っていた杖だ。ふーん、なぜこんなところにあるんだろうな?」
「そ、そかぁー…えー、えっとー、さ、さあ?えーっと、あれやろ。似たもんちゃう?」
回答がしどろもどろになっていくヴル。
「魔術師でもない君がなぜこんな代物を持っているのか…」
「わいは商人やからなんでも買うねん。ほら、これ、やるから!!さっさと出てってーな!明日の準備があんねん!」
「裏闘技場」
ユウゴの言葉にヴルの薄っぺらい口はぴたりと止まる。
「は?」
「聞こえなかったか?もう一度言うことだってできるさ」
聞こえていないはずがない。
ヴルは口角を片方だけ上げながら、顔を引き攣らせる。
「あの杖のことに関してもどういった経緯で入手したのかも知りたいしな。詳しく教えてもらおうじゃないか」
「あはっは〜…」
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