第20話
それから1週間。
律儀なリブは例えコルに腹が立っても、毎日畑の手伝いを行った。
3日前にリハビリと称して、コルも畑の手伝いに少しずつ参加し、今日からようやく復帰する。
やっと解放されるのか、と喜ぶ反面、あのご飯が食べられなくなるのはちょっぴり悲しかった。
「お手伝いだったら、いつでも歓迎よ」
「なんだったら冒険者を辞めて、こっちを本業にするといい!こっちの方が稼げるかもしれねえぞ!!ガハハ!!」
「うーん…大丈夫!私は私でちゃんと働くから!」
最終日はコルの両親達から熱烈なお別れのお言葉を頂いた。
でも、リブは一人前の有名冒険者になって父を楽にさせたい、という願いがある。強い冒険者になれば、依頼が向こうから訪れるし、今よりも収入は上がる。
門は狭いが、その道に進むには依頼をこなすしかない。農家では出来ないことだ。
「行くか…」
明日を生きるために稼がねば、とリブは一人でギルドに向かう。
「うーん、どれにしようかな…」
ギルドの依頼掲示板の前でリブはどの依頼をこなそうか迷っていた。
薬草収集系はいつも通りあるものの、短時間で稼ぎやすい討伐系が異様に少なかった。しかも、どれもあまりお金にならない依頼ばかり。
高収入!と金額に目が眩むものもあったが、自分のランクとは全く見合わず肩をがっくりと落としているところに…
「最近、依頼がすくねーよなー」
「知らねえのか?例の蛇使いだよ。あいつが独占してんだよ。強い討伐依頼はどんどん持ってけって感じなんだけどよ…金額が高い依頼ばっかり引き受けやがって…」
「は?あの人殺しが、か?俺らの出番ねーじゃん。まあ、いっか。俺らは楽して安全に稼ごうぜ〜。めんどいのはあいつに全部押し付けて、さ」
「マジそれ〜」
聞きたくもない会話に耳を塞ぐことができない。
ギルドに行けば少年の話で持ちきりだ。
どこもかしこも彼の話題。
『蛇使い』『ズル』『イかれ野郎』『人殺し』…名前を知らないのをいい事に、みんな好き勝手呼んでいた。
「人殺しって…」
農家の手伝いで何がどうなってそうなったか知らないが、いつの間にか人殺しとまで呼ばれるようになったのだ。
本当のところは分からないが、話が膨れ上がりすぎている。
『これじゃあ、いよいよあいつの居場所がなくなっちゃうな…』
と、リブは少年の顔を思い出す。が…
「あいつのことなんか…知らないし!!」
あいつのことを考えてしまった自分に腹が立った。腹の底がムカムカする。
リブは取りかけていた収集系依頼を手放し、普段だったら絶対選ばないDランクの中では高難易度のアイアンリザードの討伐依頼を手にした。
これは対抗心だ。
あんなやつになんか仕事を取られてたまるか、とキレ気味で受付嬢に依頼用紙を押し付けた。
「これ!お願いします!!」
「アイアンリザードの討伐、ですね。ギルドではパーティーでの討伐を推奨していますが、ソロで大丈夫でしょうか?」
「問題ありません!!」
「かしこまりました。今、手続きを開始しますね…」
アイアンリザード。
一般的なトカゲ系の魔物とは違い、剣で挑んでも負けるほど硬い鉄の皮膚を持つ。
その分、動きは遅いが、ずっしりとした体に攻撃を受ければ、骨が砕けること間違いなし。
どんなに屈強なアイアンリザードでも、体の一部に必ず急所がある。
その隙間に剣を刺すことができれば、勝利の栄光を受け取ることができる。
「手続きが完了しました。アドバイスとしましては…」
「知ってますよ!普通だったらパーティーで組んで、一人が囮になっている間にもう一人が弱点を探すんですよね!大丈夫です!!ちゃんと慎重に行くんで!」
「承知しました………えっと…では、よろしくお願いします…」
受付嬢は少し引き気味だが、そんなの関係あるか。
少年なんかに負けるかとリブは対抗心を燃やした。
それからというもの、リブは毎日、毎日、傷だらけで家に帰ってくるようになった。
無我夢中で依頼をこなし、そこそこの金額を家に落とした。
けれど、こなしてもこなしても一向に心は満たされない。
「今日はどこを怪我したんだ?」
「腕…」
「どれどれ…」
ユウゴは明日の商品用にと作った薬を開けて、リブの怪我した腕に優しく塗る。
「…気持ちは、晴れたか?」
「なんのことー?」
「隠さなくてもいいだろう。否定するつもりはないし、やりたいなら止めはしない」
薬は不思議とひんやりしていて、肌にこもった熱を一気に吸収してくれる。
少し冷静になった方がいいと、言っているようにも思えた。
「………正直いうとね、ずっともやもやしてる」
ユウゴは手を止めることなく、今度はリブの腕に綺麗な布で傷を塞ぐ。
「戦っても戦っても、全然嬉しくない。前は強い魔物を倒せたー!って自分を誇らしく思えてた。でも、最近は何も満たされないし、達成感もない…。楽しくないの………」
布に巻かれた腕をじっと見つめる。
怪我はこれだけではない。指の先にも小さな傷はたくさんあるし、青あざの数も目立つ。
「…もう、なにも考えたくない………」
なにもできない。
なにも変えられない。
自分は無力だ、と悟る。
「一度…立ち止まって考えてみるといいかもしれない。そのもやもやの正体について」
ユウゴは大きな手のひらをリブの頭にポンと置いた。
「リブのお陰でしばらくの間だったら食っていくのには困らない。俺の薬の売り上げもなかなかだしな。寒くなる冬の間は毎日必死になって依頼をこなさなくてもいいくらいの稼ぎはある。だから、明日はギルドに行かずちょっと休むといい」
「………わかった………」
「よし!じゃあ夕飯の準備をしよう。今日は少しだけだが安く豚の腸詰を買えたんだ。それを使って豪勢にいくとしようじゃないか!」
「…!!」
肉が食卓に出ることは年に数回。
リブは瞳をキラキラさせて、「やったー!」と喜んだ。
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