第17話
リブたちが帰路についたのは、月が出始めた頃。
なんやかんやあってこんなに遅くなってしまった。
父たちも心配していることだろう。
ひょこひょこと歩くコルにリブは肩を貸した。
戻ってきて早々、ボロボロの二人を見たギルドの連中の視線が痛かった。
明日明後日には噂が広まっていることだろう…。
「あーーー!!もう!!あいつマジで許せないーーー!!」
「へへっ…まあ、いいじゃん。俺ら、生きてる」
「生きてても…いくない。結局、何一つ変えられなかった。っていうか、後退した…。依頼も失敗。コルも大怪我。それにナナシも…連れ戻せなかった。おまけに嫌がらせなのか知らんけど、大量の金貨を残してって!今頃、鼻で笑ってんだろうなー!ムカつく!」
少年が残していった金貨の入った小袋を片手に、帰路につく。
「まあまあ、その金があって普段なら受けられない治癒魔法を受けられたんだし、いいじゃん?」
なんやかんやの中身は治療だった。
治癒魔法にかかっていて遅くなったのだ。
重傷患者だったコルだが、少年が残していった金貨で治癒魔法を受け、完璧にとはいかないが歩けるほどに回復していた。
「良い商売してるわ。あれは儲かるわよ。治癒魔法一回に金貨一枚とかふざけてる!それだけで1週間は豪遊できるっつーの」
「金額聞いてマジでビビった…。金貨一枚で歩けるくらいしか治せねーし。完治には金貨10枚とか…流石に手が出ねーわ」
「ほんっと!!あんなに待たせておいて、治療は一瞬…なんか納得いかないし!!ギルド提携だから冒険者用に安くなってるとはいえ、Dランク冒険者にはきつすぎ!」
「どっかに治癒魔法使いが落ちてりゃ楽なんだけどなー。タダで診てもらえるし」
「貴重な魔法使いが私たちみたいな下っ端と仲間になってくれるわけないでしょ?それだったら、あんたが治癒魔法を覚えてくれた方が何百倍も楽よ」
「は?!無理!!俺は攻撃魔法を覚えたい系剣士だから!」
「オールマイティーに覚えなさいよ」
「ゲームじゃねーんだから。1、2の3…で覚えられたら苦労しねーよ」
「そうよねー…」
なんてことを言いながら、リブは深いため息をつく。
家が近くなってきたのだ。
「あーあ、お父さんになんて言おう…。それだけで気が重くなる…」
「お前の父ちゃんはそこまで怖かねーだろ。ナナシのことでそこまで気に病むことねーよ。…生きてたら、また会えるだろ?その時、また話せばいいじゃん」
「違う。もうナナシのことで気に病むことが嫌になったの…。正直、私はもう面倒見れない。あんなやつとお近づきにもなりたかない。…だから、お父さんになんて説明しようかなって思って…」
「珍しく弱気だな」
「お父さんはあれで意外と面倒くさい性格なのよ。きっと私が途中であいつのことを放棄することを嫌がるはず…」
「そうか?優しそうだけどな」
「あんたはお父さんのさわり程度しか知らんでしょ!家と外じゃ顔が違うのよ」
「俺には裏表あるように見えんが…まあ、リブの言ってることを信じるよ」
「今のところはそうしておいて!もー…今回の冒険で嫌というほどわかった。あいつは私らがなんと言おうと絶対、絶対、変わらない。意気地なしの癖に強がって、人を平気で攻撃する。あんなのガキよ!ガキ!いつまでもガキのお守りはしてらんない…私だって暇じゃないし」
「そう言うなって。悲しいやつだな。お前の父ちゃんが悲しむぞ」
「すぐにお父さんを盾にしないでよ!私だって思春期の一つや二つあるわ。当事者である私と部外者であるあんたじゃ問題の見方が違うのよ。根本的に。あんたは気楽に外面だけ心配すれば良いだけ。だから、あんたは気軽に発言できる」
「…随分と攻撃的な発言すんな…」
「ごめん…」
言いすぎたとリブはヒートアップしすぎた感情にストップをかける。
「けど……心の広いあんたと私じゃ感じ方が全然違うのよ。あいつ…ナナシは私らのこと置いてったんだよ?助けもしないで遠くで見ちゃってさ…少しは怒りとかないの?」
「………俺はなー、自分の怪我は自業自得だと思ってるよ。だから、あいつに怒るっていうより、自分の不甲斐なさに幻滅してる」
「あんたマジで良い人すぎん?」
「いつか肩並べて戦えるようになれるといいな!」
「ポジディブすぎー!」
リブには理解できない感情だった。
本当にコルは人が良い。良すぎる。植物と共に育つと根が真っ直ぐになるんだろうか。彼の花が咲かす時はどんな色だろう、とリブは思う。
「…あんたがもう少し強かったらいいのにな〜。お姫様になってみたーい」
「柄じゃねーだろ。っつか、俺は最初っから依頼なんてしたかなかったよ!…この怪我だからな、しばらくは大人しく農家の息子でもやってるよ」
「……あ……ごめん…」
「俺が怪我した分、手伝ってくれたら、チャラにする」
「………分かった……」
コルの家の手伝いは何回かしたことがある。
種まきから収穫まで把握済みだ。
その期間、少しばかり収入が減るだろうけれど、無理矢理連れて行ってしまったのだ。申し訳ない。…怪我が治るまで、つきっきりで世話をしようとリブは決意する。
「俺の怪我が治ったら、また冒険しようぜ。…ただし、ちゃんとランクに見合うやつ…でな!」
「……うん……」
コルが優しいやつだと言うのは知っている。
だから、逆に彼の優しさが身に沁みる。と、同時にこの優しさがぎゅうっと心臓を抉るのだ。
「ここまででいいや」
「え、家まで肩を貸すよ?」
「いや、いい。あとは自分で歩く。親に余計な心配はかけたくないからな」
「それぐらい良いじゃん…」
「ダメだよ。歩けるっつーのに、リブの肩なんか借りて帰ってみろ。家中大騒ぎで町内会の噂の的になっちまう。っつっても、ギルドの噂話が耳まで届くのも時間の問題だろうけどなー…。まあ、その時はその時。あとの祭りを楽しむことにするわ。男なんてな、平気なふりして、ちょっとヤンチャしたくらいが丁度いいんだよ」
「…わかった」
「気をつけて帰れよー。じゃあな」
コルはするりとリブの肩から腕を離した。
「じゃあ、また明日…」
「おう、またな」
リブは頑なにリブのサポートを断ったコルの背中を最後まで見送る。
家の中に入ると、すぐにコルのお母さんのどよめきが外まで聞こえてきた。だが、しばらくすると、すぐに笑い声に変わる。
「良かった…」
これならコルが心配していた大事にはならないだろう。
リブは腰にぶら下がる剣の帯を結び直し、父が待つ我が家に向かって歩き出した。
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