第12話
パーティーを組むと微弱でも相手の魔力が流れ込む。
するとどうだろう。
普段見ることのできない、相手の情報が目に写すことができるのだ。
「あんた、これ…名前…?なに、これ?何かのバグ??文字が全然読めないんだけど」
「僕も読めない。でも、なくても不便しない。僕にとってはどうでもいい情報だし」
「なんで?不便じゃん」
「名前ってさ、呼ぶ人がいるから意味があるんでしょ。僕には…」
「呼ぶよ。あんたのこと」
キョトンとする少年を横目に、リブはトレントの討伐と共に受ける自分に見合うランクの依頼を探す。
「だから、早く思い出してよねー」
目に入った3枚の依頼をパパッと手に取り、少年に見せる。
「ねえ、これくらいの3件でいい?」
「………」
「まただんまり?」
毒消し草の収集依頼を1枚。
毒消し草は湖の辺りに多く生息している。
初心者でもすぐに見つかるのが特徴だ。
多めに取ってくれば、父・ユウゴの助けになるだろう。
もう2枚は討伐系の依頼。
その毒消し草の近くに現れるというポイズンスライム。
一般的なスライムより知能が高く、体内で毒を生成し、人に攻撃することができる。隙を見て中心にあるコアを砕けば倒すのは簡単だ。
あとは森の幹にしがみつくアンシェントワーム。
古代から生息している生命力の高い虫の魔物だ。
暴飲暴食で必要以上に森の葉を食べて大きくなるため、生態系を荒らす厄介者だ。
「すいません。この3件でお願いします」
「承知しました。お預かりいたします」
ギルド嬢はリブが差し出した依頼3枚に受理スタンプを押し、控えを渡す。
「よし!手続き完了。さあ、いこっか!」
「まじで…?俺も…?」
「決まってんじゃん。さっさと行かないと日が暮れるよー」
「うぇええぇ…」
「………」
嫌そうな顔をするコルと無言になってしまった少年を引き連れて、3人は街の門を潜る。
街の外は中からは想像もできないほど空気が変わる。
からっとした乾いた空気が西から吹き付け、砂埃が目に入る。
かと思えば、風は東から木々の腐った香りを乗せてくる。
「森は東側ね」
そう。
この街は森と砂漠の真ん中に位置しているのだ。
増えすぎた魔物たちのせいで、自然破壊が発生し、昔は緑だった西側もすっからかんの砂漠状態になってしまったのだ。
一説によると、件のアンシェントワームに全て食い尽くされたとのこと。
緑の生えない土地になってしまった地域で木々を生やすことは不可能に近い。
今ある大事な資源を有効活用するために、そして、魔物を増やさまいと数十年前にギルドが建てられた。
「先に湖の方に行くよ。ここから3kmくらいの場所にあるの」
「ポイズンスライムもいるのか…?」
「決まってんじゃん。あいつらは倒すだけで証明もいらないから楽よねー」
「け、けど…毒になっちまったら…」
「平気でしょ。こっちにはナナシがいんだから。回復魔法ぐらい使えるよね?」
「………」
3人は東に向かって歩き始める。
「あれ…?そういやあんた…杖はどうしたの?あんたが持ってた黄色の魔石が入ったやつ」
「………なくした…」
「なくした?!ちょっと…どこで?」
「………わかんない…」
「しっかりしてよねー。じゃあ、回復はできないってこと?」
「…使えるかどうか…知らないし」
「けど、ほら…体は覚えてる、とかあるじゃん。手に力を込めたら炎が出る、みたいな」
「リブ。お前、魔術をなめすぎだぜ。そんなんで出るなら苦労しねーよ。魔術には知識が必要なんだよ。ナナシの場合、その知識を忘れちまったんなら、基礎も原理もわかりっこねーよ」
「ふーん…。めちゃくちゃ不便じゃん。じゃあさ、戦いながら思いだそうよ!もしかしたら、戦闘中のちょっとしたことで思い出すかも!」
「うっわ。考えが脳筋」
「うるさいわね。へし折るわよ」
「………」
「あ、あんた。まーた放っとけみたいな顔したでしょ?」
「………分かってるなら、そうしてよ……余計なお世話」
「いいじゃん。余計なお世話。悪くないじゃん。100に10プラスした気分になれる」
「は?…意味わかんない」
なんて会話をしていると、3人はお目当ての湖にたどり着く。
湖の周りには半透明の丸い紫色をした物体がヌメヌメと歩いていた。
これがポイズンスライム。
コアから毒を吐き出し、人間に攻撃する。
体に攻撃が命中すると、命中した箇所は火傷をしたように熱くなり、正しい処置をしなければ2~3日の間に息を引き取る。
「実際見るとこえぇ…」
「怖気付くことないし。あいつら一般のスライムと比べると知能は高いけど、視力がほぼない。あいつらは振動を頼りに敵を見つけるんの。だから、音を立てずに静かに近いづいて…」
「お前、いつもこんなん相手してんの?」
「逆にあんたは何を相手してんのよ」
「植物系」
「農家かよ」
「農家だよ!」
「声がでかいわよ。静かにして…」
「お前のせいじゃん…」
「見てて。手本を見せるから」
リブは単体で動くポイズンスライムに近づき、小刀でするりとスライムのコアまで到達する。
そして、慣れた手つきで小刀でサクッとコアを真っ二つに割った。
するとどうだ。
コアを破壊されたスライムは、力が抜けて紫色の水になって蒸発した。
「おお…」
鮮やかな手捌きに感嘆の声を上げるコル。
リブは、少し離れたところで待機していた二人の元に軽い身のこなしで戻ってくる。
「どう?簡単でしょ?」
「見た目は…」
「注意する点は音を立てないこと。出来るだけ単体に挑むこと。毒は効き目が早いから気をつけてね。あと、蒸発した後でも毒は残るから、不用意に近づかないこと」
「えーっと、リブ先生〜。スライムに気づかれた場合…どうしたらいいんすか?」
「そんくらい自分で対処しなさいよ」
「手厳しぃ〜」
「ソロ…なら、ね。でも、今回はパーティーだから、危なかったら私もサポートする」
「ありがて〜!」
「じゃあ、はじめましょい!」
リブの掛け声と共に2人は動き出す。
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