第8話

明かりが灯らない場所に行きたい。

暗くて静かな場所がいい。


「人がうざい…」


少年は一人になれる場所を、ふらふらと歩きながら探していた。


「誰にも会わない場所にいたい、な」


どの路地に入っても人の目がある。

この街は人が溢れすぎている。

少年が心落ち着ける場所は一体どこになるのか。

広すぎる街の隅の隅。一番端に近い場所を求めて、少年は西に進んでいた。


「てめえ、どこ見て歩いてんだよ!いってーな」


「………」


次はここの角を曲がろうか、と前を見ずに歩いた結果、目の前の男に気づかず、体当たりすることとなる。

面倒くさいことは避けたい。

少年は見なかったことにして、何も言わずに立ち去ろうとする。


「お前のことを言ってんだよ!ガキ!!」


「………っ…!!」


が、そう簡単に逃してくれる相手でもなかった。

少年は男に肩を掴まれると、後ろの壁に思いっきり投げ飛ばされた。背中に激痛が走る。


「ったく、しょうがねえ馬鹿だな」


男はボキリ、ボキリと拳をならす。自分は強者だと、屈強な肉体からは自信が漲っていた。


「ゲホッ……前を確認、しなかった…あんたも…悪い」


杖で体を起こしながら、少年は本音を口にする。


「あぁ?!」


「っ…!!」


そして、後悔する。

相手を逆撫でる言葉を口にしなければ良かった。

黙ってやり過ごせば良かった。

抵抗は意味をなさないという事実を、認識しておけば良かった。

男の動きがスローモーションに見える。

右手で拳を作り、それを下から上に…突き上げるように、自分の顔面に向かってくる。

次に衝撃。

衝撃は脳に震盪を起こす。

次に痛み。

痛みは少年の頬を燃やす。


最後に暗転。


衝撃と痛みに耐えきれず、少年の思考は停止する。


「あーあ…気絶してもうたやないか。強く殴りすぎや。持ってくのに苦労するで」


これらは少年の最後の記憶。

脳の最低限の可動域で、辛うじて捉えた記憶だ。


「まあ、ええやろ、ええやろ。…ん?こいつどっかで見たな?まあ、ええか。商品に陳列するで。この変わった見た目の杖は売れるなぁー。わいの店に出すか…」


「けど、ヴルさん。こいつは男だぜ?売れもしねーよ。このまま置いていった方が良くないですか?」


「ちゃうちゃう。男は別の売り方があんねん。…こいつは運がえぇなあ。今日は月に一度のお楽しみの日やで。運んだってーな!」


「どこに連れてくんで?」


「地下闘技場、や」

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