第7話

「ただいま〜」


「おかえり。リブ…一人か?コルはどうした?」


リブが帰ってきたのは暗くなる少し前。

帰ってくると、父・ユウゴは夕飯に使うジャガイモの選別をしていた。


「コルとはさっき別れた。…お手伝い終わったしね。あ、これ、今日の報酬ね」


リブはヴルから得たほんの少しの売り上げを机の上に置いた。


「ん…あとで確認する。…で、あともう一人いただろ」


「え?」


「少年はどこだ?」


「………知らなーい。っつか、あんなやつマジで知らんし。一人でどっか行っちゃったし。そのうち帰ってくるんじゃない?」


「心配だな」


「なんで?」


「最近、行方不明者が多いらしいんだ。一人で出かけて帰って来ない子供もいるらしい」


「あー、井戸端会議で話題に上がってるんだってね。でも、噂でしょ?大丈夫だって。それに、あいつは子供じゃないんだし、魔術師なわけで、魔法が使える。何かあっても自分で対処できるっしょ。お父さんは過保護すぎ」


「しかし、あの子は記憶がないだろう。この場合、自衛は意味をなさない可能性がある。それに、来たばっかりのあの子は地理も把握してないだろう。全く知らない道に行っては帰って来れないかもしれん」


「…知らんし…。だ、第一、帰ってくる気ないっしょ…あいつ…。私らのこと、迷惑がってたし。人の善意より手前勝手を優先したのよ。そんなやつに、私らがすることなんてあるの?」


「あるさ。少しはある。善意っていうのは、見返りを求めない…金銭の絡まない押し売り販売みたいなもんだ。一方通行なんだよ。俺は個人的には、彼のような人間にこそ他人からの善意が必要だと思う」


「あいつが善を必要の間違いじゃなくって?」


「ははっ。手厳しいな。彼はちゃんと善意を受け止めることのできる人間だ。そして、彼自身にも善意はある」


「どうだか…」


リブは逃げるように去っていった少年が気に食わなかった。

憎たらしい言葉を吐いて、去っていった。

あんなやつ知るか、とリブは眉間にしわを寄せる。

おまけに周りの人間は口を揃えて、少年のことを心配していると言う始末。

構ってちゃんにさく時間はどこにもないというのに。

放っておけと言うのだったら、素直に従えばいい。

リブは周りの反応が理解できず苦しむ。


「…俺は彼のことをちょっと探しに行ってくる」


「えー!夕飯は?」


「1時間で戻ってくる」


ああ、父さえも彼のことを気にするのか、と落胆のため息をつく。

しかし、ユウゴの取る行動はいつだって正しい。

今回だってきっと正しいに違いない。

ユウゴはリブにとっての人生の見本だ。


「じゃあ…私が作っておく…けど、なんで?」


正しいとする見本が正しい行いをするのだから、自分はその方針に従おうと拳に力を込める。


「なにかあってからでは遅いんだ。万が一の時…その万が一が起きた時、彼は戦い方を覚えているのか、知ってるか?」


「そんなん……知らないし…聞いてないし、興味もないし…」


「だろうな。俺も詳しくは知らん。だからこそ、心配のしすぎは大事なんだよ」


「でも、あいつ!」


「少年のことを悪く言い過ぎるのも良くない、と俺は思うよ。もう少し相手のことを知ってからでも、遅くない」


「分かった。……考えとく…」


「杞憂に終われば良いが…」


ユウゴはそんな独り言を呟いてから、帽子をかぶって外に出て行ってしまった。

一人家に取り残されたリブは、深い深いため息をつく。


「あーあ…」


そして、ユウゴが途中で放棄したジャガイモの選別に着手する。

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