第5話

荷物は気になるが、いつの間にか入った街のことも気になる。

目立つことを気にするのか、リブはあえて人気の少ない道を歩くが、隙間から見える一本先の道路は人の流れが多いように見える。


「………」


祭りでもやっているのか。

軽快な音楽が耳に流れてくる。

向こうで騒がしくやっているというのに、自分たちはこの大荷物を持ってどこに行くのか。


「なにしにいくんだって顔してるわね。教えたげる。商人に会いにいくのよ。私が冒険者ギルドで受けた依頼をこなした帰り道とかに、ついでで薬草とかを取ってくるの。お父さんはそれを調合して、薬にしてるの。それを商人に売るの。胡散臭いけど、腕は確かだから。ちゃーんと私らの商品も買ってくれる」


台車が石畳に引っかかり、ガタンと揺れる。

ざわめき漂う街の道はずれ。

枯渇した噴水が見える広場。

行き止まり。

まるで別世界のようだった。

いるのかいらないのか分からない骨董品が雑多に並んでいた。


「………」


「胡散臭いは余計やで」


「ヴルさん!」


「全部聞こえてんで。ここ、意外と音が反響すんねん」


「え〜、ごめーん…」


真っ赤に染め上げられた建物の一階半くらいの位置から一人の男が顔を出す。

カラコロと独特な笑みを持つ男だった。


「おおきに〜、毎度あり〜」


リブたちとは入れ違いで別の客が出て行った。

こんな怪しげな見た目をした建物に人が出入りしていることが珍しい。


「いらっしゃーい。今日もぞろぞろと、相変わらずやな」


ヴルは軽妙な口調で話し始める。


「ん?なんや、見たことないのが混じっとるやんけ」


「うちで預かってるの。買いたいなら、ついでに売るけど」


「わいは人は買わへん。奴隷商人やないで」


冗談はやめや、とヴルは口元を黒い扇子で隠しながら笑っていた。


「ボーッとしてないでよ。荷物を下ろして」


「ウィ〜」


リブに急かされ、男2人で台車から荷物をおろす。意外と量がある。

これをユウゴが一人で作っているというのだから、大したものだ。


「はい、今週の分の薬の納品ね。傷薬30個、頭痛薬20個、風邪薬15個、腹痛薬5個…と、あとは湿布薬とか胃もたれとか虫刺されとかその他諸々。最近人気が出てきたっていうから、美容系の塗り薬も用意してみたって言ってた。需要あったら教えてね」


「今週もお疲れさん。こりゃ売りがいがあるわ〜」


ヴルは勘定にリブの持ってきた商品を足しながら、ひぃふぅみぃと数え、書き上げた票をピッと切り離した。


「ほい、じゃあいつもの金額な。んでもって、おまけもつけとくわ」


数え終えたヴルは小さな袋に入った金銭と不思議な赤を放つ石をリブに渡した。リブはそれをもらうと嬉しそうに目を輝かせる。


「…え!?これ…いいの?!」


「お湯がでぇへんって困ってたやろ?小物だけどな。炎魔法が宿った魔石や。ちゃんとした魔石が買えるまでの繋ぎにしちゃ立派なもんや。この前、偶然手に入れたから、リブちゃんにあげとくな」


「わー!!嬉しい!ありがとう!!」


「風邪なんかひかれて商売相手が倒れちゃ、こっちも商売できひんからな。あったか〜い我が家で使いぃ」


「うん、分かった!」


「ほな、お父さんによろしくな」


リブがそこまで気を許している相手なら悪い人間ではないのだろう。

最後にヴルに手を振って、台車と共にお暇した。

帰る途中にまた一人、店の中に入っていった。

こじんまりと営業をしているようだが、意外と顔が広いのかもしれない。


「ついでにギルドに顔出そっか。もしかしたら、何か分かるかもしれないし」


「ナナシのことか?」


「そう。だってギルドなら他の街からの情報も得られるでしょ。別の街で尋人として依頼がかかってるかもしれないじゃん」


「確かに…。ギルドは情報の倉庫だからな。こいつのことを知ってる人間もいるかもしれねーし。行かないよりはいいだろ」


「………別にいい」


詮索されるのは好きでないらしい。

少年は仏頂面でリブの要求を断った。


「お、喋った!」


「僕が誰であろうと…知らなくてもいい…」


「あんたの意見は聞いてないの。私たちが気持ち悪いから、調べさせてもらうってだけよ」


「………」


「だって、あんたが殺人鬼だったら、私らは犯罪者を匿った人間ってなるし。私らの納得のために行くのよ。あんたは知らなくていいかもしんないけど、私らのために協力してよね」


「……あんたが、それで満足するなら…」


「良かったな、ナナシ。これでお前の帰る場所が分かるぞ!」


意気揚々と足を進める二人を前に、少年は低い声で呟いた。


「…どいつもこいつも…自分勝手だ…」

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