第9章~異世界でも童貞確定した俺が浮気調査をするまでのお話~

第77話 バズっちゃった♡

「お、今日は熊肉じゃないのか!」


 アナスタシアの裁判騒ぎから数日経った朝のこと。俺は朝食に出されたスープを飲んで思わず声を上げた。


 見たところ、玉ねぎやにんじん、じゃがいもが入っているだけの、いたって普通の野菜スープといった感じで、熊肉っぽい物体は入っていない。だが、野菜だけで作ったスープにしては、コクというかガツンとくるうま味がある。


「旦那様よ、熊肉なら使ってあるぞ」

「え、マジで!?」


 エスタの説明によると、これはキュルティバトゥールとかいう野菜を煮込んだスープで、ブイヨン、つまりだし汁に熊肉が使ってあるのだという。

 

 どうりでガツンとくる味がするわけだ。まぁ、熊肉が目に見える形で入っていないだけまだマシか。


 気を取り直して、俺はテーブルの真ん中に置かれたカゴの中のパンを手に取る。何やら見慣れぬパンだが、さすがにこれには熊肉は入っていないだろうと思った途端、そんな期待はあっさり裏切られた。


 パンをちぎってみると、その中にはほうれん草やにんじんに混じって、黒っぽい肉のような物が見える。これはどう見てもアレだよな……。


 エスタ曰く、これはケークサレという惣菜ケーキらしい。ケーキといっても甘いわけではなく、見た目もパウンドケーキというかパンに近い。


 まぁこれも、食べてみたらチーズやオリーブオイルの風味もあって、悔しいけど普通に美味い。


「これでも旦那様のために、少しでも熊肉っぽさを出さぬように気をつけておる。じゃから残さず食べるのじゃ」


 俺のためとか言われても、こいつからだとあまり嬉しくないのはなぜだろう。


 けど実際、エスタの料理はますます手が込んだものになっている。これだけの料理を作れるなら、もういっそのことシェフにでもなってレストランでもやればいいのに。


 そんなことを考えながら、ケークサレをちぎって口の中へ放り込んでいると――。


「すぐるううう! これ、どうしたらいいのよおおおおお!!」


 リビングのドアが勢いよく開いたと思ったら、アナスタシアが半泣き状態で俺のところへ駆け寄ってきた。


「何だよ、朝っぱらから騒がしいやつだな」


 こいつがこうやって泣きついてくる時は、大体ろくなことがない。


「何だか私の動画が勝手にツリッターに上げられてるのよおおお!」


 取り乱したアナスタシアがマジホを俺に見せてきた。


 ちなみに、ツリッターというのはこっちの世界でのSNSのひとつで、気軽に短文メッセージを投稿したり、写真や動画をアップすることができるコミュニケーションツールだ。もう完全に元いた世界のアレなんだけどね。


 差し出されたマジホを確認してみると、確かに裁判騒動の時のアナスタシアの動画がツリッターにアップされてある。


 しかも動画は、アナスタシアがあのエロ裁判官に純潔を確認されているところだ。このアングルからすると、動画はあの時処刑台を取り囲んでいた群衆の誰かが撮影したものなのだろう。


 幸い、肝心な部分はモザイクがかけられているものの、確認されているアナスタシアのアヘ顔がはっきりと見て取れる。そっちにもモザイクかけてやれよ。


 でもインプレッションは1000万超えでバズってるじゃないか。いいぞやリツリートも数万はある。さらには、動画が切り取り加工されてミームにまでなっている有り様だ。


「よ、良かったじゃないか、バズッてて」

「いいわけあるかあああ! ねえ、これどうしたらいいの? どうやったら消せるの?」

「いや、そう言われてもなあぁ……」


 アナスタシアには酷だが、こうなってしまってはもうどうにもならない。あとは世間から飽きられて自然に収まるのを待つしかない。


「せっかくバズったんだがら、むしろ何か宣伝すればいいじゃん」


 風呂上がりのパンイチ姿でソファーに寝転んでいるアルティナがそんなことを言いだした。


 まーたそんな格好で。慎ましい胸は長い髪で隠れているものの、パンツを隠す気はないよね? もうそれ、絶対わざと見せつけてるよね??


 そう思いつつ、視線がついついそっちに行ってしまうのを止められない。ちなみに、今日は白とピンクのストライプでした。


 それはそうと、さっきアルティナが言っいてたバズったのなら宣伝すればいいって、普通それは動画をアップした方がやることだけどな。


「ま、まぁせっかくだから、俺たちパーティーのことでも何か宣伝しておけば、今後のクエスト受注なんかに繋がるかもしれないな」

「ふぇ~ん……。それじゃあ、私は絶対崇高な神にこの身を捧げる敬虔なエックス教徒で、祖国フリンスに忠誠を尽くす救国の英雄だって宣伝するううう!」


 そんなことをツリッターで宣伝したら、それはそれで炎上しそうだけどな。しかも、この前はそれで処刑されかけたっていうのに、相変わらず懲りない奴だ。


 まぁでも、これでお前もこの街の有名人になれたじゃないかと言いかけて、俺は思い止まった。


「とりあえず、朝メシでも食えよ」

「……うん」


 俺はケークサレを取ってやると、アナスタシアは半ベソをかきながらもしゃもしゃと食べだした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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