第75話 アレの確認♡

「さぁ裁判官! 彼女を憲法違反で処刑するというのなら、仲間の俺も同罪です! 同じように処刑してください!」


 ひるむ裁判官に俺はゴリ押しとばかりにもう一度叫んだ。


 正直、俺は心の中でめちゃくちゃぶるってる。アナスタシアを助けるためのハッタリだとはいえ、もし本当に俺まで処刑ってことになったらどうしよう……。


 俺は勢いでそんなことを言ってしまったのをちょっと後悔した。


「ううっ……、しゅぐりゅうううう! あだしのだめにそごまで言っでぐれるなんで~! わああああん!!」


 アナスタシアは俺の言葉に心を打たれたのか涙で顔をぐちゃぐちゃにしている。

 

 おいおい、そんな顔で泣かれたら、こっちまでうるっときちまうだろう。


 本当に痛くて面倒で、どうしようもない奴だけど、やっぱり俺にとってこいつはかけがえのない大切な仲間なんだ。


「ふんっ! ならば望み通り、お前も同罪ということで処刑してやろう! この者も引っ立てい!」


 裁判官が近くの刑吏に命じた。


 くっ、やっぱりそう来たか。……どうする。


「おいおい! 救国の童貞を処刑するつもりかよ!」

「そいつは何も悪くねーじゃねーか! そのねーちゃんも悪くねーよ!」

「そうだそうだ! 命懸けで国を守ったそいつらを処刑にするなんておかしいぞ!」

「童貞のまま処刑するなんて可哀想だろ! せめて一発やらせてからにしてやれや!」


 群衆の中からそんなヤジが飛んできた。


 お前ら……。そう言ってくれるのは嬉しいけど、こんな大勢の前で童貞童貞言うのはやめて、お願いだから!


「ええい! 静まれ! 静まらんか!」


 群衆からの思わぬヤジに裁判官が動揺を見せる。 よし、これならいけるかも。


「みんなもああ言ってるんで、ここはインヴィランド軍の侵攻を食い止めてこの国を救った俺に免じて、どうか判決を考え直してくれませんか?」

「ぐぬぬぬぬ……。よかろう、憲法違反については不問としよう。だが国教であるエックス教の敬虔な信徒を騙り、絶対崇高な神を冒涜した罪はやはり重い。よって処刑は免れぬ!」


 この裁判官はどうしてもアナスタシアに罪をかぶせて処刑したいようだ。ここからどうやってこいつを論破したものか。


「裁判官! どうして彼女がエックス教の敬虔な信徒を騙っているってことになるんですか? 仲間の俺が言うのもなんですが、こいつは日頃から心底エックス教を信仰しています!」

「ふんっ! ならばなぜその者は純潔ではないのだ? 絶対崇高な神に仕える敬虔なエックス教の信徒はみな純潔でなければならん! この私もそうである!」


 あ、そういうことか!


 純潔かどうかを問われると、今のアナスタシアは確かに純潔じゃない。なぜならこの前、あいつはインヴィランド人らに襲われた後、俺が魔法をかけてやろうとしたのを断ったんだからな。


 となるとこの裁判官、アナスタシアが純潔じゃないってのをわざわざ確かめたってことなのか?


 ていうかこの人、最後にしれっと自分も純潔だとか言ってのけたけど、それってつまり童貞ってことだよね。


 俺はちょっとだけこの裁判官に親近感を覚えた。……って、いやいやいや。今はそれどころじゃないだろう!


「裁判官! それなら彼女はやはり無罪です! なぜなら、彼女は間違いなく純潔だからです!」

「ははは、何を言うか! この者が純潔でないことはすでに私がこの目で確認済みだ!」


 え? やっぱりこのおっさん、アナスタシアが純潔じゃないってことを確認したのかよ!? しかもその目でって、おい!


 さっき感じたおっさんへの親近感は一瞬で消し飛んだ。


 それよりもだ。そういうことならばこの判決は覆せる! 何てったって、俺にはあの魔法があるんだからな! 

 

 そう、失われた処女膜を再生し、純潔を取り戻すというあの全宇宙最強の禁断魔法が!


「お願いです、裁判官! 彼女が純潔かどうかもう一度確認してください!」


 またあいつが確認するのかと思うと何かちょっと悔しいけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


「ふんっ! 何度確認しても同じことだ!」

「そこをどうか、この救国の童貞に免じてお願いします!」


 我ながら、こんなことを言っているのがひどく悲しい。


「……くっ。いいだろう、そこまで言うのなら確かめてやろうではないか。処刑する前にもう一度拝んでおくのも悪くないからな」


 ちょ、おい! 最後に本音がダダ漏れてんだけど!


 裁判官だとか敬虔なエックス教の信徒だとか偉そうにしてるけど、本当はこいつ、単なるエロおやじじゃないか!


「裁判官! ひとつお願いがあります。この俺も敬虔なエックス教の信徒なので、確認する前に絶対崇高な神と彼女への祈りを捧げさせてください!」


 俺が敬虔な信徒だなんて真っ赤な嘘だけど、裁判官が確認する前にアナスタシアに魔法をかけてやらくてはならない。そこで、祈りを捧げるふりをして魔法の詠唱をするという作戦だ。


 でもぶっちゃけ、大勢の前であんな恥ずかしい詠唱なんてしたくないのだが……。


「ほう、お前もエックス教の敬虔な信徒なのか。みなもお前が童貞と言っているようだしな。いいだろう、好きなだけ祈りを捧げるがいい」


 おい、みんなが童貞と言ってるってのは余計だっての!


 でもこれで、俺が魔法を詠唱しても不審に思われることはない。


 よし、今魔法をかけてやるぞアナスタシア!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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