第74話 推定無罪
急いで中央広場に駆けつけてみると、広場の真ん中に仰々しい処刑台が設置されていて、それを取り囲むように大勢の人だかりができていた。
そしてその処刑台の大きな柱には、ヴィニ姐さんが言っていたとおり、粗末な囚人服を着たアナスタシアが荒縄でぎっちぎちに縛りつけられている。
「うわああん! 私は無実だああああああ!!」
アナスタシアの悲痛な叫び声が広場に響き渡る。ヴィニ姐さんは縛られて気持ちよさそうにしていたと言っていたけど、さすがにそんなことはなかったな。
ていうか、あの日俺と別れてから何がどうしてこうなった?
よからぬ輩に絡まれてやしないかという心配はあったけど、まさかしょっ引かれて処刑されようとしているだなんて、正直こうした展開は予想外だった。
やがて、ざわつく群衆の前に厳かな法衣を纏った初老の裁判官が現れた。
「ええい、静まれい! これより被告人アナスタシア何某の公開即決裁判を執り行う!」
裁判官は裁判の開始を高らかに宣言すると判決文を読み上げ始めた。
「被告人は恐れ多くも絶対崇高の神に仕えるなどと虚言を弄して人々を欺き、さらに自らを祖国フリンスに忠誠を誓う救国の英雄と騙る不届き者である!」
あぁ、やっぱりそこつっこんじゃいますか。俺も初めてそれを聞いた時には、何言ってんだこいつって思ったしな。
でも、確かに発言自体は厨二病的で痛くはあるけど、あいつの神への信仰心や祖国に忠誠を誓う心に嘘偽りがないというのはよく知っている。
「加えて被告人は、先のインヴィランド軍侵攻の際、こちらから先制攻撃を行ういとう重大な憲法違反を犯した。よって、ここに被告人を火刑に処するものとする!」
おいおい、憲法違反で即処刑っていくらなんでも酷すぎるだろう。
しかもあのアナスタシアの行動は、たとえ憲法違反であったとしても、それこそ祖国への忠誠心から行ったもののはずだ。
そして、果敢にも一人でインヴィランド軍に立ち向かったアナスタシアは、大勢の兵士によって
それを思うと、俺はこの判決に段々と腹が立ってきた。
「いやああああ! 私は本当に絶対崇高の神に仕える敬虔なエックス教徒で、祖国フリンスに忠誠を尽くす救国の英雄なのよおおおおお!!」
アナスタシアは潔白を訴えて泣き喚き激しくもがいている。そして、もがくほどに荒縄が身体に食い込んで、その巨乳がより際立つことになった。
その絵面はひどくエロく、これはちょっと前のめりになってしまう。群衆もそんなアナスタシアの姿を見て、卑猥なヤジを飛ばしたりと大いに盛り上がる。
「ええい、静まれい! 何をぐずぐずしている、早く火をつけよ!」
群衆の狂騒っぷりに慌てた裁判官は刑吏に刑の執行を急がせた。
「やだやだやだあああああ! 私はまだ死にたくなあああああい!!」
刑吏がアナスタシアの足元に積まれた藁束に松明の火を近づける。マズい、このままだと本当に火あぶりにされてしまう。
ええい、くそっ!
「ちょっと待ったあああああ!」
俺は群衆を掻き分けて処刑台の前へと躍り出た。
「しゅぐりゅうううう! たしゅけてえええええ!!」
アナスタシアは俺を見るなり涙で顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。
まったく、この女はいつもいつも面倒ばかりかけやがって。でもそれと同時に、俺は何が何でもこいつを助けてやらなければと思った。
「裁判官、刑の執行は待ってください! 彼女は無罪です!」
俺は裁判官と対峙すると声高にそう宣言した。
とは言え、アナスタシアが無罪だという根拠も、どうやってそれを証明するのかという方策もない。
さて、これからどうする――。
「何だお前は? ここは神聖な法廷の場であるぞ!」
「彼女は無罪なんです! なので刑の執行を取り止めてください!」
「何だと!? この私の判決に異議があるというのか?」
裁判官はいきなり目の前に現れた俺を訝しみ、判決に異を唱えられたことで不快感を露わにした。
「私の判決は絶対崇高なる神のご託宣であり、フリンス国王陛下のご意思を代弁するものである。その判決に異を唱えるということは、それすなわち、絶対崇高なる神への冒涜と国家への叛逆であるぞ!」
裁判官は居丈高にそうのたまった。
はぁ? 絶対崇高なる神のご託宣だぁ?? それってあのギガセクスのおっさんのことだろう。あのおっさんがそんなこと言うもんか。
むしろあのおっさんなら、アナスタシアのようなエロい女の子を火刑なんかには絶対にしないはずだ。
そう思うと、この裁判官の方こそ絶対崇高な神の名を騙る不届き者であり、この判決がいかにでたらめかってことだな。
「どうした小僧。絶対崇高な神への冒涜、国家への叛逆と聞いて恐れ入ったか?」
勝ち誇ったようないやらしい笑みを浮かべる裁判官。
どうしよう。この手の輩は論破しようとしても逆ギレしそうだから、もういっそのことギガセクスのおっさんでも呼ぼうか。
あ、でもあのおっさんの呼び出し方なんて知らないんだっけ。こんなことなら、あのおっさんの姉であるエスタだけでも連れて来るんだったな。
そんなことを考えていると、にわかに群衆がざわつきだした。
「ん? あいつって、この前インヴィランド軍を退けた奴じゃね?」
「おぉ、そうだそうだ。確かあいつ、《チェリー&ヴァージン》にいた奴だ」
「何てったっけ? 名前はスグル……とか言ったか??」
「そうそう。あいつ、まだ童貞なんだってな」
「マジかよ? でもあの湖賊の頭目をヤっちまったって話も聞いたぜ」
「何でもインヴィランド軍の奴らから童貞の悪魔って恐れられてるとか」
そんな声があちこちから聞こえてきた。
みんな俺のことをそんな風に噂しているのか。しかも、童貞だってことも知れ渡っていてものすごく複雑な気分だ……。
「な、何だと!? お前がインヴィランド軍の侵攻を退けたというあの救国の童貞、竜舞スグルだというのか??」
裁判官が俺を見て驚きの声を上げた。
ちょ、おい! こんな大勢の前で、救国の童貞って言うの恥ずかしいからやめて!
だが、裁判官は俺の正体を知って明らかに動揺の色を見せる。
「そ、そうです、俺は竜舞スグルです!」
「ふ、ふん。救国の童貞であるというお前がいったい何の用だ? いくらお前とて、この神聖なる法廷の場を汚し、私の判決に異議を唱えるなど許さぬぞ!」
裁判官は動揺を隠すかのように居丈高にまくしたててきた。
だから、救国の童貞って言うなっての! ほんと、へこむからやめて!
「いや、異議があります! 彼女は俺のパーティーメンバーで大切な仲間なんです!」
「だからどうしたというのだ? その者は敬虔なエックス教の信徒を騙り、憲法違反という重大な罪を犯したのだ!」
「彼女のしたことが憲法違反で罪に問われるというなら、あの時あの場所にいたパーティーメンバーである俺も同罪というになりますよね?」
「そ、それは……。ぐぬぬ、とにかく憲法違反は憲法違反なのだ! その者の処刑は免れん!」
「彼女を憲法違反で処刑するのなら、その仲間であるこの俺も同じように処刑してください!」
俺は一か八か、命懸けのハッタリをかましたのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【あとがき】
作者よりお願いがございます。
面白かった! 続きが気になる、また読みたい! これからどうなるの?
と思ったら作品への応援お願いいたします。
合わせて☆やレビュー、作品のフォローなどもしていただけると本当に嬉しいです。
皆さまからの応援が今後の励みとなりますので、何卒よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます