第63話 覚醒
「おーい、クリス・マキア! 俺ならここだ!」
俺はゆっくりとした足取りでインヴィランド軍の前へ進み出ると、攻城塔の上に立つクリス・マキアを見据えながら声を張り上げた。
「あら、スグル君。随分と潔く、そしてあっさりと出てきたわね。話が早くて助かるわ。そういう子、嫌いじゃないわよ。でも最初から私を選んでいたら、こんな大ごとにはならなかったのにね」
遠目にも、クリス・マキアが不敵な笑みを浮かべているのが分かる。
「さあ、俺はこうして出てきたぞ! 煮るなり焼くなり好きにしたらいい! だからすぐに軍勢を引いてくれ!」
俺は威勢のいいことを言ってみたものの、両足はガタガタと震えている。
――と、その時。
俺のすぐそばを何かが風のように通り過ぎて行った。よく見ると、アナスタシアが単身でインヴィランド軍へと向かっているじゃないか。
「我こそは救国の英雄アナスタシア! 絶対崇高なる神にこの身を捧げ、祖国フリンスへの忠誠を誓う者なり! 祖国を侵略の魔の手から守るため、いざっ!」
大音声で名乗りを上げつつ、インヴィランド軍の中へと斬りこんでいった。
あの馬鹿っ! 一人で立ち向かっていくなんて、いくら何でも無謀過ぎるだろ!
追いかけて行こうとするものの、インヴィランドの大軍勢を目の前にして体が全く言うことをきかない。
俺はインヴィランド軍の中へと消えていくアナスタシアの後ろ姿を、ただただ見送ることしかできなかった。
しばらくすると、インヴィランド軍の中からざわめきが沸き起こる。
「おぉ! こいつはすげぇ上玉な女だ!」
「ひやっほお~う! ヤれ、ヤッちまえ!」
「や、止めろ! 触るな、汚らわしいっ!」
「ほら~早くしろ! 回せ回せ~!」
「くっ……、殺れ、ひと思いに殺ってくれ……」
「うおおおお! たまんねぇ~ぜぇ!」
「ぐへへ、穴という穴にブチ込んでやれぇ~!」
インヴィランド軍の兵士たちの下卑た声と、それに必死に抗うアナスタシアの声が響き渡った。
あの中で、どのような惨劇が繰り広げられているのか容易に想像がつく。
「アナスタシアアアアアアア!!!」
俺は大声で叫んでみたものの、やはり体が震えて動くことができない。
やがてインヴィランド軍の中から、見るに堪えないボロボロな姿をしたアナスタシアがよろめきながら出てきた。
剣を杖代わりにしてようやく俺の所にまでたどり着くと、そこで力尽きたように倒れ込んだ。
俺はすぐさまアナスタシアを抱きかかえる。
「……ス、スグル。やはり私は救国の英雄にはなれなかったようだ。この通り純潔も穢された……。頼む、スグルの手で私を殺して……」
そこまで言うと、アナスタシアはがくっとうなだれた。
「おい、アナスタシア? 目を開けろ! 目を開けてくれええええええええ!」
アナスタシアを揺さぶってみるものの、全く反応がない。
「……アナスタシア。アナスタシア、アナスタシア、アナスタシアアアアアアア!」
頭の中で、アナスタシアとのこれまでの日々が走馬灯のようによぎっていく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺の中で何かが覚醒した。
「古より森羅万象を照らす原初の輝き。明鏡なる心に写す根源たる命の波動。目蓋を開きてこの白き
俺はアナスタシアを抱きかかえたまま、頭の中に自然と浮かんできたフレーズをそのままに詠唱した。
すると俺の頭上に、複雑な模様をした巨大な魔法陣が何重にもわたって浮かび上がった。
さらに、大空はまるで時空の狭間にでも迷い込んだかのように揺らぎ、大地は唸りを上げて激しく鳴動する。
身体の、というより相棒の奥底から、計り知れない力が漲ってくるのを感じる。
こ、これが童貞力……なのか!?
俺はさらに詠唱を続ける。
「遍く宇宙、遍く天地を統べる絶対崇高なる神に冀う。深淵の闇を照らす、慈悲深きその恩寵を今ここに! 『リヴァージン』!」
アナスタシアを抱く腕に力を込めて、俺は声の限りに叫んだ。
その直後、俺とアナスタシアは眩い光に包まれ、さらにその光が周りのもの全てをゆっくりと飲み込んでいく。
視界が真っ白になり、この世のありとあらゆるものが浄化されていく、そんな感覚に満たされたのだった。
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【あとがき】
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