第62話 クリス・マキア再び
「さぁ、みなさん! 準備はよろしいですか? 祖国フリンスのため、このウォーター市を守るため、思いっきりやられて……あ、いや、戦ってきてください!」
市長の言葉の後、固く閉ざされていた城門が開き、俺たちボンクエのパーティーは追い立てられるようにして門の外へと出された。
ギギギギギ……、バタン!
俺たちが門外へ出た途端、素早く城門が閉じられた。
ちょ、おい! 本当に俺たちだけで戦えってのか?
目の前では渡河を終えたインヴィランド軍が続々と集結し、その数はざっと数万はいるように見える。
対して、俺らボンクエのパーティーはたかだか数百人。しかもこっちから手出しができないときている。
これってもう最初から詰んでるよね。
「すぐるん!」
えっ!?
俺を呼ぶ声がしたので振り返ると、そこになんとヴィニ姐さんの姿があった。
「どうしてここに? もうすぐここは戦場になるんですよ!」
「あたしねぇ~、何だかとても胸騒ぎがしてぇ~。これってぇ~、もしかしたらぁ~……」
ヴィニ姐さんが何かを言いかけたその時――。
「ウォーター市のみなに告ぐ! 我らは栄えあるインヴィランド国王陛下の軍隊である! 我らがドバット海峡を越え、遥々この地にやって来たのは貴国と戦争をするためではない! 真の目的は両国の千年にもわたる血塗られた歴史に終止符を打つためである!」
インヴィランド軍の中から、どこかで聞いたことのある声が大音声で響き渡った。
ん? この声はもしかして……。
「だがそのためには一つ条件がある! それは竜舞スグルという少年を我らに引き渡してもらいたい!」
えええええええええええ! 何で俺??
「竜舞スグルって、湖賊を倒したっていうあの……」
「そういや、《チェリー&ヴァージン》とかいうパーティにいた奴だよな」
「そいつ、確かまだ童貞のガキじゃ……」
周囲からそんなヒソヒソ話が聞こえてきた。
おい、誰が童貞のガキだ。心の中でそんなツッコミを入れつつも、今ここで見つかったら面倒なので、俺はできるだけ目立たないように身を潜めた。
「ん? こいつじゃね?」
「あぁ、いたいた。お前、竜舞スグルだろう?」
あ、やっべ。あっさり見つかっちゃいました。周囲の視線が一斉に俺に集まる。
「え、え~と、その……ど、どうも~。ていうか、どうして俺なんすかね。あは、あはは、あははははは……」
俺はおどけて答えるてみるものの、みんなの視線がとても冷たく、そして痛い。
これってもう、俺が出て行かなきゃならない状況なんじゃね?
その時、インヴィランド軍がざわめきだし、中から攻城塔のようなものが現れた。
よく目を凝らすと、その最上部にひと際異彩を放つ重武装した女性が立っているのが見て取れる。
あれって、まさかクリス・マキア!?
「やっぱり~……。この騒ぎってぇ~、クリちゃんの仕業だったのねぇ~」
ヴィニ姐さんはそう言うと、不安そうにクリス・マキアのいる攻城塔を見上げた。
「さぁ、ウォーター市の者たちよ! 千年戦争に終止符を打つため竜舞スグルを差し出すか、それとも我らと一戦交えるか、どちらかを選ぶがいい!」
攻城塔の上から叫ぶクリス・マキアの姿は、戦を司る女神そのものといった風格で、ぶっちゃけ今にも小便ちびりそうだ。いや、じつはもうちょっとちびってたりする。
この前ヴィニ姐さんの家で、帰り際にクリス・マキアが囁いていたあれはこういうことだったのか。
あっ、そうだ。確かアルティナはクリス・マキアの妹だったよな。
「なぁ、アルティナ。お前ってクリス・マキアの妹なんだろう? どうしてお前のお姉ちゃんがインヴィランド軍なんかを率いているんだ?」
「はぁ? そんなのあたしが知るわけないじゃん。けどまぁ、マキ姉は戦いの女神だし、誰かをそそのかしては戦争するのが好きみたいだしさ」
アルティナは面倒臭そうに答えた。おいおい、それって、めっちゃやべー奴じゃん……。
「お前がどうにかお姉ちゃんを説得できないか?」
「何であたしが。つーか、ぶっちゃけあたし、マキ姉とは仲良くないんだよね」
眉間にしわを寄せてキレ気味に吐き捨てるアルティナ。
えっ、そうなの?
「だって、マキ姉はあたしの趣味を馬鹿にするし」
あぁ、例のアレな趣味ですか。
「それにいつだったか、大掃除の時にあたしのコレクションしてた本を捨てちゃってさ。もうほんっと最悪……」
うっわ、それはないわ。ちょっとだけアルティナに同情した。となると、アルティナに説得は無理か。もしかしたらどうにかなると思ったんだけどな。
あっ、それならエスタが!
「な、なぁ、エスタ。お前ってクリス・マキアの伯母さんに当たるわけだよな? だったら伯母さんの力でどうにかできないか?」
「無理じゃな」
エスタはエスタで、不快な顔つきでにべもなく答えた。
「あやつは我と同じように
あぁ、こいつはこいつでしょうもない恨みを抱えているわけか。
となれば……。
「ヴィニ姐さん、クリス・マキアを何とか説得できませんか?」
最後の手段とばかりに、クリス・マキアの友人であるというヴィニ姐さんに頼んでみる。
「わかったわ~、やってみるぅ~!」
ヴィニ姐さんは力強くうなずくと、インヴィランド軍の方へと向き直った。
「クリちゃ~ん! 聞こえるぅ~? あたし、ヴィニボンヌよぉ~! ねぇ、クリちゃ~ん! どうしてこんなことするのぉ~? みんなとっても困ってるわぁ~! もうこんなことは止めてぇ~、みんなでまたピザでも食べましょ~!」
攻城塔の上のクリス・マキアに向かって、ヴィニ姐さんが大きな声で語りかけた。
「おや? 誰かと思えばアワブロデイッテじゃない。何の用? 私が用があるのはあなたじゃなくてスグル君なのだけど。それに、どうしてこんなことするのかですって? それはね、あなたのせいに決まってるじゃない! あなたはその色気でスグル君を誘惑して、彼はまんまとそれに引っ掛かり、私ではなくあなたを選んだ。そんなの許せるわけないわ!」
えっ、そんな理由? そんなくだらない理由で、インヴィランドの軍隊まで動かしてのこの騒ぎかよ。
けどそうなると、この騒ぎの原因は俺とヴィニ姐さんにあるってことになる。
「ごめんねぇ~、すぐるん。クリちゃんのこと、説得できなかったぁ~……」
ヴィニ姐さんが今にも泣き出しそうな顔で、説得できなかったことを謝った。
「いえ、ヴィニ姐さんが謝ることないです。こうなったら、後は俺が何とかします」
俺は腹をくくり、シン・伝説の剣を手にインヴィランド軍の前へと進み出た。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【あとがき】
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