異世界でも童貞確定した俺が、超絶に使えない全宇宙最強の禁断魔法を与えられて魔王を倒すまでのお話。

第５６話 絶体絶命のピンチ

「うへ～、今日も熊肉料理かよ……」

　俺は、朝食に出てきた熊肉バーガーを見てため息をついた。朝から熊肉、しかも、そのバーガーって重た過ぎるだろう。

「贅沢を言うな、スグル。こうして日々の糧が得られることを絶対崇高なる神に感謝しなければだぞ」

　アナスタシアは胸元でＸ字を切って祈りを捧げると、熊肉バーガーを美味そうに頬張った。

「お前、朝からよくそんなに食えるよな……」

　食べた栄養は、全部その無駄にでかい乳に行くのだろう。

　乳と言えば、ゆうべ会ったヴィニ姐さんのもすごかったな。

　透明感のある白くもっちりとした肌に、ありとあらゆるものを優しく包み込んでくれそうな、慈愛に満ちた豊満過ぎるおっぱい。

　あそこに思いっきり顔を埋（うず）めたいっ！

　や、やばっ。朝起きてやっと落ち着いた相棒がまたむくむくとしてきやがった。

「うっわ、朝からマジでキモいんですけど」

　そこへ、朝風呂から出てきたパン一姿のアルティナが、濡れた髪をタオルで拭きながら言い放った。

「ちょ、おまっ、なんていう格好してるんだよ！」

　アナスタシアに比べたら慎ましい胸に髪がかかって隠れているものの、その姿は余りにも刺激が強いっての。

「はぁ？　何エロい目で見てんの？　童貞ってマジでキモ過ぎ！」

「うっさい、童貞は関係ないだろ！　お前の方こそ、そんな格好で出てくるなっ！」

　アルティナの方を直視できない俺は、視線を逸らしながら言い返す。

　その視線の先では、アナスタシアが何個目かの熊肉バーガーを頬張っていた。こいつはこいつで一体どれだけ食うんだよ！

　その時、リビングのドアが大きな音を立てて開いた。

「旦那様よ、これは一体何なのじゃ！？」

　勢いよく飛び込んできたエスタが、俺のところへ駆け寄るなり小さな紙片を目の前に突き出した。

　よく見ると、それはゆうべヴィニ姐さんからもらった名刺じゃないか。あっ、そういや、机の上に無造作に置いたままっだった……。

「この石鹸王国メッチャバースとはどういうお店じゃ？　そして、このヴィニボンヌとは誰なのじゃ？」

　エスタがものすごい剣幕で詰問してきた。

「えっ、あ、それは、その……。何だか石鹸関係のお店で……、そ、そこの店員さん……ですが、そ、それが何か？」

　俺はしどろもどろに苦しい言い訳をした。

「うっわ。それって確か、東一番街にあるやらしいお店じゃん？」

　ちょ、おーい！　アルティナってば余計なこと言うんじゃない！

「やらしいお店じゃと！？」

　その言葉に反応したエスタが、一段と険しい表情になる。

「もぐにょ、もごもごの、ぬちゃくちゃで、もぐもごな、もぐぬっちゃ、くちゃもご……」

　口の中を熊肉バーガーでいっぱいにしたアナスタシアが、もごもごと何か言っているが全く分からない。いや、食べながら話すんじゃないってば。

「とにかくじゃ。納得のいく説明をしてもらおうかの、旦那様よ。場合によっては、今すぐこれにサインしてもらうことになるが」

　そう言うと、エスタは胸元から婚姻届を取り出した。

　おい、どこから出すんだよ。ていうか、何の取っ掛かりもないはずなのに、よくそれがそこに収まっていたな。

「い、いや、だからその……。それはただ単に、通りを歩いていたらそこのお店の人にもらっただけで……。な、何もやましいことはないぞ！　ほ、ほんとだよ？　う、うう、嘘じゃないって！」

　俺はキョドりながら必死に言い訳を絞り出す。

「誰がそんなこと信じるかっつーの。ほんっと最っ低……」

　アルティナの目が死ねよと訴えている。

「もごもごもぐもぐは、もぐもごにもごもごだな」

　アナスタシア、お前は少し黙ってろ！

「さぁ旦那様よ、説明してもらおうか」

　いつの間にか、俺は正座をさせられていて、それを三人が取り囲んで見下ろす格好になっている。

　絶体絶命のピンチ……。

　――と、その時。

　ぴろろろん、ぴろろろん……。

　張りつめた空気を破るかのように、俺のパイフォンが鳴り響く。

　パイフォンを取り出して確認すると、チーパーミーツから配達クエストの通知が届いていた。

　チーパーミーツとは、飲食業ギルドが運営する宅配サービスで、マジカルフォンを使って料理を注文、配達できるというものだ。まぁ元いた世界でいうところのアレみたいなものだな。

　これもれっきとしたボンクエのクエストで、得られる経験値は少ないものの、小銭稼ぎには持って来いと言える。

　それにここのところ、冒険者ギルド系のクエストは難易度が高いものが多く、まだまだクソ雑魚な俺には荷が重い。そこで、こういう比較的安全かつお手軽な単発クエストで日銭を稼いでいるとわけだ。

「話の途中すまんが、クエストの依頼が入ったから行かなくちゃだわ」

「待つのじゃ、まだ話は終わっておらんぞ！　どうしても行くというなら、ここにサインしてからにせい！」

「うっわ、逃げ出すなんて最っ低なんだけど」

「もごもご、ぬちゃくっちゃ、もごもぐも……」

　俺はみんなの制止を振り切って、急いでリビングを飛び出したのだった。

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