第50話 衝撃の事実再び
「アルティナよ、久しぶりじゃの。元気そうではないか」
依然として殺気立っているアルティナを落ち着かせるように、エスタが努めて穏やかに語りかける。
「……エスタ伯母さん、おひさぁ」
あぁ、そうか。この二人って、伯母と姪っていう関係なんだっけ。
「ところで伯母さん、これは一体どういうこと? もしかして、パパとグルになってカリントーを匿ってたの?」
険しい顔で詰問調に問いかけるアルティナ。
「いや、この件に関しては、我は一切与り知らぬことじゃ。我の弟とそこの着ぐるみの小娘のことについても、さっき知ったばかりじゃからの」
「……ふ~ん、そう。じゃ、カリントーをあたしに引き渡してくれるよね?」
アルティナは、きっとカリントーを睨みつけた。さすがのカリントーも、俯き加減に怯えた表情を見せている。
こ、こわっ! 敵意っていうか、殺意むき出しじゃないか。
けれど、改めてアルティナをよく見てみると、切れ長の眉に目、鼻筋もすっと伸びた端正な顔立ちをしていて、可愛いというより勝ち気な美少女といった感じだ。
身体つきは、狩りによって鍛え上げられたのか引き締まり、そこに俺が元いた世界の学校か何かの、ブレザーのような服を着ている。
……って、えっ?
それって、もしかして俺の高校の制服なんじゃね? どうしてこいつがそれを着ているんだよ!
しかも、着こなしは所謂ギャルのそれといった感じで、ネクタイが緩められたシャツの胸元は大きく開き、スカートの丈はパンツが見えそうなくらいに短い。いや、何ならもう見えちゃっているのだが。
この制服について、考えられることは一つしかない。あのおっさんの仕業か……。
「何あたしのことじろじろ見てんの、キモっ。殺すよ?」
アルティナは、まるで汚物でも見るような目をして吐き捨てた。
「サ、サーセン……」
さっき俺が畳みかけた時は泣きそうになっていたのに、今はまるで別人のようだな。
「まぁ待て、そう怖い顔をするでない。この小娘を引き渡したとして、お主は一体どうするつもりなのじゃ?」
そう言いながら、カリントーをかばうかのようにエスタはすっと前へ出た。
「は? そんなの知れたことじゃん! 私に仕えるニンフは絶対に
「えっ? あぁ、うむ……、そ、そうじゃの」
エスタは視線を逸らして、ぽりぽりと頬を掻きながら何とも歯切れの悪い返事をした。
そりゃまぁそういう反応になるよな。こいつはことあるごとに俺と結婚したがって、その上すぐにでも純潔を喪失したいと思っているんだから。
「じゃ、早くカリントーを引き渡してくれない? じゃないと、伯母さんでも容赦しないんだけど」
アルティナはエスタを睨みつけたまま矢筒に入った矢に手をかける。
「ま、待つのじゃ。まずは落ち着いて話し合いを……」
「あぁ、マジうっざ!」
矢を引き抜いたアルティナは、素早く番えるとエスタに狙いを定めた。
「お待ちください、アルティナ様!」
エスタの陰に身を潜めていたカリントーが声を上げた。
「私はもう逃げも隠れも致しません。どうかアルティナ様のお好きなように」
意を決したような顔をしたカリントーが、アルティナの前にゆっくりと進み出た。
「ふん、いい覚悟だわ。あんたさ、よくもこの私を裏切ってくれたじゃん。そのケジメ、きっちりつけてもらうから!」
「……はい、覚悟はできております」
そう言うと、カリントーは静かに目を閉じた。
アルティナは矢を番え直すとゆっくり引き絞る。
「最後に何か言い残すことある?」
「アルティナ様との腐っていた日々、楽しかったです」
カリントーはにっこりと笑った。あぁ、守りたいなぁ、この笑顔!
「……そっか。私も楽しかった。じゃ、さよなら」
アルティナの表情が一瞬緩んだものの、すぐにまた険しい顔つきに戻る。
ヤバいヤバいヤバいヤバい! どうにかしないと、このままじゃ本当にカリントーがヤバいぞ。
ええい、くそっ、もうこれしかないか!
「あ、あの……。ちょっと、いいっすか?」
俺は片手を上げて恐る恐る切り出した。
「うっさい! 邪魔するならあんたから
アルティナは、弓を引き絞ったまま上半身をくるりと俺の方へ向ける。
「ちょ、わっ、待て待て、まずは話を聞けって! お前はカリントーが純潔でなくなったことが許せないんだよな? だったら、俺に一つ方法があるんだが」
「はぁ? 方法って、何それ?」
よし、食いついた!
「俺には『リヴァージン』という全宇宙最強の禁断魔法ってやつがあるんだ」
「全宇宙最強の禁断魔法? はんっ、それが何だっていうわけ?」
アルティナはイラつきを隠すことなく吐き捨てた。
「そいつでカリントーを戻せるんだよ。お前がこだわる純潔ってやつにさ」
矢を向けられて今にもちびりそうなのを堪えて、俺はドヤ顔をして見せる。
「何適当なこと言ってんの。一度失った純潔を戻せるわけないじゃん」
「それが戻せるんだよ! 『リヴァージン』って魔法は処女膜を再生させることができるんだ!」
「は? 処女膜を再生? あんた、自分が何言ってるかわかってんの? 処女膜再生なんてあり得ない。ていうか、男が処女膜がどうのってキモ過ぎるんだけど!」
アルティナは怒りを通り越して、心の底から蔑むような目で俺を睨みつけた。
「はい、これには私もドン引きです」
カリントーも頷いて、ゴミを見るような視線を俺に向けてきた。
ぐはぁっ!
あぁ、やっぱり普通はそういう反応になるよな。ある意味、俺は弓矢で射られるよりも深いダメージを負った。
「いや、アルティナよ、それは本当じゃ! 旦那様は処女膜を再生させることができるのじゃ!」
すかざずエスタが援護射撃とばかりに説得にかかる。
「伯母さんまで何言ってんの? ていうか何、その旦那様って? まさか、そこのキモい童貞男が伯母さんの旦那ってわけ?」
「い、いや、まだ正式に
エスタは頬を赤らめて口ごもった。おい、エスタ、そこで恥じらってどうする。
「うっわ、マジでキモいんだけど。永遠の純潔を誓ったはずの伯母さんが、こんなキモい童貞男と夫婦とか、ほんっとあり得ないわ」
こ、こいつ、何もそこまで罵らなくても……。
「ま、待たれよ、アルティナ殿とやら! エスタ様は誓ってこの童貞男と結婚などしてはおらぬ! それはこの私が断言しよう!」
アナスタシアが横から口を差し挟んできた。
「だあああああ! ややこしくなるからお前は黙ってろ!」
くっそぉ……。どいつもこいつも、俺を童貞童貞童貞童貞って馬鹿にしやがって!
「なら見せてやんよ、俺の実力ってやつを! お前ら、括目しろ!」
ここはハッタリでもいいから強引に押していく!
「天地万物の根源、虚無より出でし開闢の輝き。それは漆黒の闇を照らす一条の希望にして、原罪の混沌に揺蕩う魂を救済する光なり。今ここに顕現せよ、『リヴァージン』!」
もう取説を一切見なくても、息を吐くようにそれっぽい詠唱がきるようになってしまっている自分がひどく悲しい。
詠唱を終えると、カリントーの体がボワッと光った。全宇宙最強の禁断魔法なのに、相変わらずエフェクトはショボい。
……って、んんっ? 赤い光……だと!?
どういうことだ? 赤いってことは、つまりエラーということだよな?
前にアナスタシアがエラーになった時は、同一人物に対して魔法は一日一回までということだった。けれど、カリントーには初めて魔法をかけるわけでそれには当てはまらない。
ならどうして……。
「あのさぁ、威勢のいいことを言った割には何も起こらないじゃん。やっぱただのハッタリだったってわけ?」
アルティナの表情が再び怒りを帯びてきた。
「い、いや、これはその……、何かの手違いというか……。魔法はちゃんと発動しうたんだよ、う、嘘じゃない。でも、何故だかわからないけどエラーになって……」
俺の言い訳も虚しく、アルティナはゆっくり矢を番えると俺に向けた。
「本当にうんざりなんだけど。もういい、マジで終わりにするわ。死ねっ!」
あぁ、これはマジで終わった。死を悟ったその瞬間――。
「待ってください! じつは私、妊娠しているんです!」
突然、カリントーが大声で叫んだ。
「「「「えっ!?」」」」
その場に居合わせたみんなが一斉にカリントーの方へと振り向いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【あとがき】
作者よりお願いがございます。
面白かった! 続きが気になる、また読みたい! これからどうなるの?
と思ったら作品への応援お願いいたします。
合わせて☆やレビュー、作品のフォローなどもしていただけると本当に嬉しいです。
皆さまからの応援が今後の励みとなりますので、何卒よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます