第39話 ギリギリの勝利?

 湖賊船からの砲撃は止み、辺りは物音一つせずに静まり返っている。


 ゆっくり目を開けてみると、湖賊船は俺たちの船の前方およそ100メートルのあたりで止まっていた。


 一体何が……、はっ!?


 辺りを見回すと、なんと湖面がカッチカチに凍結しているじゃないか!


「は、はは……ははは、あっははははははははは!」


 ぶっちゃけ、何が起こるか不安しかなかったのだが、まさか湖全体を凍結させるなんて、やっぱりこいつを切り札にして正解だった。


 ジャリ……。


 アナスタシアのもとへ駆け寄ろうとして何かを踏んづけた。


 ん? あぁ、くそっ!


 アナスタシアが魔法を放つ際に、ぶちまけて凍りついたゲロを踏んじまったよ。


「でかした、アナスタシア! 今回ばかりはお前のことをちょっと見直したぞ!」


「……ふっ、私を誰だと思っている。絶対崇高なる神に仕え、フリンスへの忠誠を誓った救国の英雄だぞ。これくらい朝飯前だ」


 アナスタシアはやつれきった顔に力ない笑みを浮かべた。


「いや、朝飯前っていうか、がっつり食ったろお前。しかも、それを全部吐いたし」


 とはいえ、今回はアナスタシアのきわどい水着でT字戦法を思いつき、こいつの魔法でピンチを乗り切ることができた。


 ここは素直に褒めてねぎらってやるか。そう思った途端、アナスタシアからほんのりとゲロ臭が漂ってきたのでその気が失せた。


「おい、旦那様よ。湖賊船からあの女がこっちへ向かってきておるぞ!」


 何だって!?


 エスタの言葉に慌てて舷側から身を乗り出してみると、確かにメートウがこっちへ向かって歩いてきている。


 アナスタシアの魔法で湖賊船の動きを封じることはできたわけだが、それから先のことは全く考えていなかった。


 メートウは昨日のように片手に剣、もう片方の手には短銃を持ち、不敵な笑みを浮かべて悠然と近づいてくる。それを見て、俺は反射的に舷側へ身を潜めた。


 ヤバいヤバいヤバいヤバい!


「おーい、筋金入りの坊や! いるんだろう、そこに」


 とっさに隠れたつもりだが、メートウにはバレバレだったようだ。


「まさか湖を凍らせてあたいらの船の動きを止めちまうなんて、そんなぶっ飛んだ戦いを仕掛けてくるとは思ってもみなかったよ。ふふふ……、あたいらの完敗だ」


 えっ、意外にもあっさりと負けを認めた?


 俺は舷側からそっと顔を出す。


「坊や、降りといでよ!」


 お、おわっ! メートウとがっつり目が合ってしまった。目が合っただけなのに、心臓のバクバクが半端ない。


「船での戦いじゃあたいらが負けたけど、今度はあたいと坊やのサシでじゃないか」


 そう言ってメートウが俺に剣を向けると、ねっとりと舌舐めずりをした。その姿はあまりに恐ろしく、そしてひどくエロい。


 アナスタシアとエスタが二人がかりでもまるで歯が立たなかったのに、俺一人でどうこうできる相手ではない。


 またしても、蛇に睨まれたカエルのように固まってしまったが、もまた別な意味でカッチカチだ。


「ん? 旦那様よ。何じゃ、そのへっぴり腰な格好は?」


「ほ、ほっとけ!」


 それは男として止むを得ない事情があるんですよ、エスタさん……。


 でもこれからどうする?


 ――とその時、何やら周囲が騒々しくなった。



「今がチャンスだ! 湖賊のやつらを打ちのめせ!」


「俺たちのワース湖を取り戻すぞ!」


「レタス漁を散々邪魔された恨み、今こそ晴らしてやる!」



 目を凝らすと、地元の漁業ギルドの人たちが各々武器を手にして、こちらへ押し寄せて来るのが見える。


「……ふんっ、またしても邪魔が入っちまったようだね。坊や、勝負はお預けだ。その時まで筋金入りのソレを大事にしとくんだよ! あっはははははは!」


 メートウは背筋がゾクゾクするようなエロい顔つきでそう言うと、くるりと踵を返して高笑いしながら立ち去っていった。


 ……ふぅ、助かった。


 俺は腰が抜けたかのように、その場にへなへなとしゃがみ込んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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