第33話 これからどうする?

「――それで、これからどうするかなんだが」


 湖賊の襲撃から這う這うの体で逃げ帰った俺たちは、湖畔の街ワースにある漁業ギルドに併設された酒場で、早めの夕食をとりながら今後について話し合っていた。


 テーブルの上には、レタスとソーセージのトマトソース炒めやレタスとチーズの豚肉巻き、レタスにスモークサーモンのサラダなど、ワース湖の獲れたてレタスを使った料理が並んでいる。


 ここはレタスの産地で今が旬ということもあって、料理はどれも新鮮なレタスを惜しげもなく使っていて美味そうではある。けれど、今日の出来事を思い出すとあまり食欲が湧いてこない。


 あぁ、せっかくの120万が……。


「ふむ……」


 さすがのエスタも黙り込んだままで、テーブルに並んだ料理にも手をつけないでいた。


 そんな重苦しい雰囲気の中、アナスタシアだけが目の前のトマトソース炒めを美味そうに頬張っている。


 こいつ、船でもカルパッチョを貪り食っていたのにまだ食うのか。食べた栄養は全部そこへ行くんだなと、俺はアナスタシアの大きな胸を見ながら思った。


 そんなことよりも、だ。


「このまま帰るとクエストは達成できないし、当然だが報酬もない」


 このクエストには、旅費やら船、漁具を借りたりと何かと金が掛かっている。報酬がないと、これらのために借りた金を返すことができない。


「なので、明日またレタス狩りに出ようと思うんだが……」


「じゃが旦那様よ。また湖賊の奴らが出てきて襲われるぞ」


 腕を組んだままのエスタが顔を顰めて答えた。


「そ、それはその……、奴らが出てくる前にささっとレタスを獲ってだな……」


 なぁに、またアナスタシアを囮にしてオオマミズダコをおびき寄せて、その隙にさくっとレタスを……。そう思ってアナスタシアの方へ目をやると、汁だけになったトマトソース炒めの皿を手に取りズズッとすすっている。


「ん? スグルもこれを食べたかったのか? すまんな、私が全部食べてしまって」


 俺の視線に気づいたアナスタシアが、申し訳なさそうな笑みを浮かべた。


 ダメだ。いくら魔法でまた純潔しょじょに戻せるとはいえ、こいつを囮にするような真似はやっぱりできない。


「湖賊が出てきたら……、そ、その時は正々堂々と戦うまでだ!」


 力強く叫んだ声が思った以上に響き渡り、酒場中の視線が俺へと集まった。



「はぁ? 湖賊と戦うだぁ?」


「……ふん。湖賊の強さを知らないよそ者がいきりやがって」


「そんなの、命がいくつあっても足りやしねぇ……」



 あちこちからヒソヒソと声が聞こえてくる。


 えっ、ちょ、何この完全アウェーな空気感。俺、そんなに的外れなこと言ったのか?


 そこへ隣の席の、いかにも地元のレタス漁師といった風体のおっさんが話しかけてきた。


「お前さんらはよそから来たのだろう? だから湖賊の恐ろしさを知らんのだろうが、湖賊と戦うなどもっての外だ」


 おっさんは俺たちのことを気遣ってくれているのか、穏やかに、そして諭すかのように語りかける。


「見たところ家族連れのようだが、悪いことは言わん。このまま故郷くにへ帰って、家族みんなで穏やかに暮らすことだ」


 あぁ、また家族と間違えられてるよ。俺たちってそんなに家族感あるわけ?


「……あの、俺たちは家族じゃないんで」


「いや、家族じゃろう!」


 エスタが間髪入れずに答えた。おい、ややこしくなるからお前はちょっと黙っててくれ。


「俺たちは冒険者パーティーで、レタス収獲のクエストでここへ来ているんだ。このまま帰ったらクエストを達成できないし、そのために借りた金も返せない。だから、何としてもレタスを収獲しなくちゃならないんだ。たとえ湖賊と戦うことになるとしても……」


 そこまで言うと、俺は言葉を詰まらせた。


「ちなみに、私たちのパーティー名はチェリー&ヴァージン。略してチェリヴァだ」


 アナスタシアが横からしれっと口を挟んできた。


「ちょ、恥ずかしいから人前でそのパーティー名を口にするな!」


 っていうか、チェリヴァって何だよ。変に略すんじゃないっての。


「パーティー名の由来は、私たちメンバー全員が処女に童貞だからだ」


 さらにいらん情報を付け足した。


「とりわけ、こちらにおられるエスタ様は永遠の純潔を誓われたお方で、無論、私も絶対崇高なる神に純潔を誓っている。そして、目の前にいるその軟弱そうな男は、見ての通り筋金入りの童貞だ。それはこの私が保証する」


 アナスタシアは自信に満ち溢れた顔つきでそう言い放った。


「おい、俺が童貞だってことをこんな大勢の前で言うんじゃない! お前には個人情報保護っていう概念がないのかよ! ていうか、俺はお前に童貞を保証された覚えはないんだが!」


 俺の反論も虚しく、酒場内はしんと静まり返った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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