異世界でも童貞確定した俺が、超絶に使えない全宇宙最強の禁断魔法を与えられて魔王を倒すまでのお話。

第３２話 湖賊の襲撃

「ふぅ、大漁じゃの。これを地元のギルドへ持ち込めばかなりの金額になるぞ」

　小一時間ほどの漁で船が一杯になるほどのレタスが獲れた。

　エスタが言うには、獲れたての新鮮なレタスなら一個１０フリンにはなるそうだ。

　獲れたレタスは千個くらいありそだうから、ざっと１万フリンか。ってことは、日本円にすると大体１２０万ってことになる！

　最初のクエストでこんな大金を手に入れられるなんて、俺たち超ラッキーなんじゃね？

　しかも、湖を泳ぐレタスを獲るだけで危険なモンスターと戦うこともない。

　何だよ、すげー楽なクエストじゃないのか、これ。

　ま、まぁ若干一名、巨大なタコに純潔（しょじょ）を奪われるという尊い犠牲はあったけれど……。

　アナスタシアを見ると、震えながら膝を抱えてうずくまっている。しょうがない、また面倒臭いことになる前に魔法をかけてやるか。

「純白なるヴェール、禁忌の花園に穿たれし闇。万物不変の理に我は背く。それは絶対崇高なる存在の御意思なり。その御力により再び祝福の光を。『リヴァージン』！」

　悲しいかな、もう取説を開かなくても詠唱がすらすらと出てくるようになってきちゃったよ。けどやっぱり、詠唱する恥ずかしさは何度やってもなくならないものだな。

「ほらアナスタシア、魔法をかけてやったぞ。今日はもう純潔を失うなよ」

　アナスタシアの碧い瞳に輝きが戻り、剣を取って勢いよく立ち上がった。

「おぉ、身体の中から聖なる力がみなぎってくる！　これでまた救国の英雄として戦えるぞ！　ありがとう、スグル！」

「お、おう……」

　ぐうううううううううううう！

　すっかり元気を取り戻したアナスタシアが盛大にお腹を鳴り響かせた。

「こ、これは、その……、腹が減っては戦ができぬというやつだ」

　アナスタシアがお腹の辺りを押さえて顔を赤らめる。空腹は連鎖するもので、何だか俺まで腹が減ってきた。

「何じゃお主ら、腹が減っておるのか？　ならば獲れたての新鮮なレタスもあることじゃし、ここは我がうまいものでも作ってやろう」

　いつの間にかエプロンを身に纏ったエスタが、包丁を手に取ると手際よく何かを作り始めた。

　――って、よく見ると裸エプロンじゃねーか！

「ふふん、旦那様よ。こういうのに憧れていたのじゃろう？」

「いやいやいや、俺にそういう趣味はないんだってば！」

　そ、そりゃまぁ、男なら誰だって裸エプロンへの憧れがあることは認めよう。

　けどそれは、アナスタシアみたいなエロい身体をしていればであってだな。エスタみたいにロリでつるぺたは論外だ。……た、多分。

　そんなこんなで、料理を作り始めてから数分。

「出来たぞ、お主ら！　『獲れたて新鮮しゃきしゃきレタスを使ったエスタの気まぐれカルパッチョ』！　どうじゃ、美味そうじゃろう！」

「「おぉ！」」

　一体どんなものを作るのか一抹の不安があったが、思った以上にまともな料理が出てきた。何てたって、１４０億年も独身を貫いてきたんだもんな。そりゃ料理の腕前だって否が応でも上がるってもんか。

「隠し味に我の愛情が入っておる。さぁ旦那様よ、たくさん食べるがよい」

　いや、その隠し味はいらない。

　ん？　中に入っているこの白っぽいものは何だ？？

「なぁ、エスタ。これってもしかして……」

　その白っぽい具材をフォークで突き刺してエスタに尋ねてみる。

「あぁ、それはさっき旦那様が切り落としたオオマミズダコの触手じゃ。切り落としたばかりで活きがいいからカルパッチョの具材にしたというわけじゃ。このタコもかなりの高級食材なんじゃぞ」

　エスタはふふんと鼻を鳴らして得意げになっている。

「いやでもさ、これってさっきまでアナスタシアに巻きついてたやつだよね……」

　しかも、俺がフォークで突き刺したのは、どうやら触手の先端部分っぽい。

　それってつまり、アナスタシアのアレにああなったやつなんじゃ……。

　こんなもん食えるかってアナスタシアの方を見ると――。

「あぁ、エスタ様の作られた料理を頂けるとはなんという幸せ！　とっても美味しゅうございます！」

　そう言ってカルパッチョを貪り食っているじゃないか。

　おい、それに入ってる具材はさっきまでお前に巻きついて、しかも純潔を奪ったものなんだぞ。それをよくもまぁ美味そうに食えるよな……。

　俺はタコの先端部分をそっとはじいて、レタスだけを食べることにした。

「ん？　旦那様よ。タコが残っているがひょっとして嫌いなのか？　この先っちょの部分が一番美味いというのに」

　いや、そうじゃない。そうじゃないんだ、エスタ……。

「好き嫌いはいかんぞ。料理は残さず食べる。それが作った人への礼儀、糧となった生き物たちへの感謝なのじゃから」

　そう言うとエスタは、はじいておいた触手の先っぽをつまんでひょいと口の中へ放り込んだ。

　あっ、だからそれは……。

「うむうむ、ほんのり塩気があって美味いではないか」

「そ、そうか……。そりゃ良かったな」

　エスタにどん引いた視線を向けたその時――。

　ドスンという大きな音とともに、俺たちの乗っている船のすぐそばに水柱が上がった。その直後に、激しく船が揺れて湖水が雨のように降り注いだ。

「な、何だなんだ？？」

　あまりに突然なことで、何が起こったのか状況がよく理解できない。

　その後も立て続けにいくつも水柱が上がり、その度に船が大きく揺れて俺は船底を転げまわった。

「アナスタシア、エスタ、大丈夫か！？」

　二人に呼びかけると、エスタは舷側にしがみついていて無事のようだ。

　アナスタシアは！？

　彼女の方へ目をやると、こんな状況にも拘らずカルパッチョの皿を抱え込んでむしゃむしゃ食べている。

「まだ食ってるんかーい！」

　どんだけ食い意地が張ってるんだよ、こいつ……。

　とにかく、二人とも無事ではあるようだ。

　船の揺れが収まったので、舷側からそっと顔を出して周囲を覗いてみる。すると、何やら遠くに怪しげな船影が見て取れた。

「むむむ、あれは湖賊じゃな」

「こぞく？」

「そうじゃ。ここワース湖を傍若無人に荒らしまわり、行き交う船を襲撃しては金品を奪う。さらにレタスの収獲時期には、漁船を襲って漁の邪魔をする無法者じゃ」

　要するに、海賊の湖版というやつか。

　よく目を凝らすと、芦ノ湖なんかで見たことあるような海賊船っぽい船が、悠々とこっちへ向かって来ている。

　おいおいおい。そんなヤバいのが出てくるなんて聞いてないぞ。

　元いた世界で人気だった漫画の《シルクハットの一味》みたいな、義侠心溢れる海賊団っていうわけじゃないんだろうな、きっと。

「旦那様よ。収獲したレタスを全部湖に捨てるのじゃ」

「えっ、何でだよ？」

「今すぐここから逃げる。レタスを満載していては船速が出ず逃げ切れぬ」

　逃げるのには賛成だけど、せっかく獲ったレタスを捨てるのは惜しい……。

「何をぐずぐずしておるのじゃ！　今が逃げるチャンスなんじゃぞ、早くせい！」

　いつもはおませで強気なエスタが、珍しく真顔になって声を荒げる。

「だあああ！　わかったよ、捨てりゃいいんだろ、捨てりゃあ！」

　俺は手当たり次第にレタスを掴んでは湖へと放り投げた。

　アナスタシアに目をやると、まだカルパッチョを食べてやがる。

「おい、のんきに食ってる場合か！　お前もレタスを捨てるの手伝えよ！」

「ひょうひひた！」

　アナスタシアは皿に残るカルパッチョを一気にかき込んだ。

　数分で全部のレタスを湖に投げ捨てると、俺たちは一目散に逃げ出した。

　あぁ、せっかくの１２０万が……。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

作者よりお願いがございます。

面白かった！　続きが気になる、また読みたい！　これからどうなるの？

と思ったら作品への応援お願いいたします。

合わせて☆やレビュー、作品のフォローなどもしていただけると本当に嬉しいです。

皆さまからの応援が今後の励みとなりますので、何卒よろしくお願いします。