第5章~異世界でも童貞確定した俺が初体験(クエスト)をするまでのお話~

第31話 レタス狩りと巨大タコ

 俺は今、白波を立てて軽快に進む小さな船の上で風を感じている。


 どこまでも続く青い空に白い雲、緑豊かな山並みといった見渡す限りの大自然。気分はまさにリゾート!


 ここはガンマ地方の隣り、ノブコイ地方にあるワース湖だ。


「おい、旦那様よ。どうじゃこの水着、似合っているであろう?」


 そう言って、つるぺたのエスタがスク水姿を得意げにひけらかしてきた。


「こ、ここは異世界だろう! どこでそんな物を手に入れたんだよ?」


「ふふん、これでも我は神のはしくれ。手に入らぬ物などないわ! この水着は旦那様の好み通りじゃろう?」


 いやいやいや、俺にそういう趣味はないから。それに、そいつの入手ルートは大体察しが付いた。


「あぁ、エスタ様! なんと神々しいお姿なのでしょう!」


 布の面積が限りなく小さい、ほぼ紐のようなビキニを着たアナスタシアが、エスタをぎゅっと抱きしめた。


「アナスタシア! お前はお前で、なんていうものを着てるんだよ!」


 下半身が敏感に反応してしまった俺は、前のめり気味にそう叫んだ。


 ――ったく。アホで面倒臭くて色々と残念な女のくせに、身体つきだけは一丁前にエロいんだから。ま、まぁ好みで言うなら、俺としては断然こっちの方だけど。


「えぇい止めろ、離さんかぁ!」


 水着から時折りはみ出しそうな、いやむしろ、少しはみ出してなくもないような、そんなアナスタシアの大きい胸に顔を挟まれているエスタがちょっと羨ましい。


 いかんいかん! 俺は両手でぴしゃりと頬を叩いて雑念を払った。


「おい、お前たち! 水着なんか着て浮かれているが、ここには遊びで来たんじゃないんだぞ!」


 そう、俺たち《チェリー&ヴァージン》は初めてのクエストでここにやって来たのだ。


 何のクエストかって? それはずばり、レタス狩り!


 だがなぜ湖でレタス狩りなのか、何の疑問もなくここまで来たわけなのだが。


「おいエスタ。今更なんだが、俺たちはレタス狩りに来たっていうのに、どうして船なんかに乗っているんだ?」


「はぁ? 何を言っておるのじゃ。レタスとはココで獲るものじゃろうが」


 そう言って腕組みしたエスタが、片足で船底をトントンと踏み鳴らした。


「――はい?」


「レタスはを泳いでおるのじゃ」


 えっ!? レタスが何だって??


「いやいやいや、ちょっと待ってくれ! レタスが泳ぐとか全っ然意味が分からないんだけど」


 エスタの説明によると、この世界のレタスは旬の時期を迎えると、一斉に畑から飛び出して湖の中を泳ぎ回るのだという。


 なんでも、ここワース湖は全国でも有数のレタスの産地で、収獲されたばかりの瑞々しいレタスは市場で高く売れるらしい。


「何だスグル、そんなことも知らなかったのか。だから貴様はいつまで経っても童貞のままなのだ」


 アナスタシアが俺の肩にぽんっと手を乗せて、侮蔑を含んだ憐みの視線を向けてきた。


「うっさいわ! それと童貞って言うな!」


 肩に乗せられた手を払いのけようとしたその時、アナスタシアの背後に何やら巨大な触手が現れた。


「おい、後ろ後ろ!」


 そう呼びかけたものの、ぬるぬると動くその触手は、見る見るうちにアナスタシアの身体に巻きついてしまった。


「くっ……。身動きが取れない!」


 もがけばもがくほど、巨大な触手がアナスタシアの身体を締め上げていく。そして、触手が絡みついた姿は何だかめっちゃエロい。


「ふむ。これはオオマミズダコじゃな」


 エスタが目の前の状況に動じることなくそう言った。


「えっ、湖なのにタコ?」


 淡水にタコって生息できるものなのか?


 ま、まぁこの世界じゃレタスが湖の中を泳ぐっていうんだから、湖にタコがいても別に不思議じゃないのかもしれないけれど。


「そうじゃ。こいつはその名の通り真水に生息するタコじゃ。そしてレタスを好み、その群れを追っておる。こいつがいるということはレタスの群れも近いぞ。旦那様よ、投網の用意をせい!」


「いや、それよりもアナスタシアを助ける方が先だろ!」


 アナスタシアを見ると、絡みついた触手の先端がうねうねと艶めかしい動きをしながら、彼女の紐のような水着の隙間へ入り込もうとしている。


「いやあああ! ス、スグル、た、たたた、助けてくれ! 触手の先っぽがすぐそこまで! は、早く、早くどうにかしてくれえええええ!」


 どうにかしろって言われても……。


 とりあえず、隙間に入り込もうとしてる触手に掴みかかったものの、ぬるぬるとしていてうまく引き離すことができない。


 エスタはというと、こんな状況にも関わらず投網を湖へ放っている。


「おいエスタ、そんなことしてる場合か! お前も助けるの手伝えよ!」


「なぁに、絡みついているだけで食われはせん。それよりも、オオマミズダコがそやつに取りついている今こそ、レタスを獲る絶好のチャンスなのじゃ」


 どうやら、エスタはアナスタシアを助ける気がないようです。


「早く、早くそいつをどけてくれえええええ!」


 アナスタシアが泣き叫べば叫ぶほど触手はぬめぬめと絡みつき、その先端がついに水着の隙間に入り込んでしまった。


「ひ、ひいいい! いやああああああああああああ!!」


 あっ――。

 

 アナスタシアの悲鳴が止んで、辺りは静寂に包まれた。


 ダメだったか……。


 手遅れになってしまったが、アナスタシアをこのままにしても置けない。


 俺はレタス狩りのために用意していた大きな鎌で、絡みつく触手をどうにかこうにか掻き切った。


 触手から解き放たれたアナスタシアは、力なくその場にへなへなとしゃがみ込んだ。その目からはハイライトが消え、小刻みに震えながら何かをぶつぶつ呟いている。


 はぁ、またこれかよ。ほんと、この女ってばもう……。


「ア、アナスタシア、大丈夫か? あとでまた『リヴァージン』をかけてやるから、その……、元気出せよ」


 切り落とした触手が、船底でうねうねと動いていて気持ち悪い。


 と、その時――。


「うおおお! 大漁じゃあああああああ!」


 重苦しい空気を打ち消すかのように、エスタが大声を上げた。


 引き揚げられた投網の中には何玉ものレタスが入っていて、活きがいいのかぽんぽん飛び跳ねている。


 やれやれ、本当に湖でレタスが獲れやがった。さっきの大きなタコといい、湖の中を泳ぐこのレタスといい、ここはなんてデタラメな世界なんだ。


「見よ、大漁じゃろう! これからじゃんじゃん引き揚げるぞ! ほれ、旦那様も見てないで手伝うのじゃ!」


 半ば呆れる思いでエスタを見ていたが、クエストでここへ来たことを思い出した俺は、気を取り直してエスタを手伝うことにした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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