第29話 チェリー&ヴァージン
「絶対崇高なる神の御力は、深淵の闇に光る一筋の希望。純潔を失い迷える仔羊に、再び聖なる乙女の証を与えたまえ。『リヴァージン』!」
ボンクエのエントランスの片隅で周りに誰もいないことを確認した俺は、アナスタシアに魔法をかけてやった。そして、何度やっても詠唱するのは死ぬほど恥ずかしい。
「おぉ、私の《処女力》が10になっている! これでまた救国の英雄になれるわけだな!」
魔法をかけてやったものの、それでもアナスタシアの《処女力》ってたったの10しかないのかよ。
「おい、旦那様よ。我にもその『リヴァージン』とやらをかけるのじゃ!」
エスタが目を輝かせながら無邪気にせがんできた。
「あのなぁ、エスタ。『リヴァージン』ってのは失った
俺は呆れつつも諭すように説明してやった。
「むうう……。なら旦那様よ、我とまぐわうのじゃ! そしてその魔法をかければまた純潔に戻れるのであろう? さすれば我は旦那様とまぐわい放題ではないか!」
「はぁ? 何を馬鹿なこと言ってるんだ。それが処女神の言うことかよ。そもそも俺は童貞を喪失するとその魔法を使えなくなるんだよ」
「何じゃ、そうなのか。せっかくいい方法を思いついたと思ったのじゃが……」
エスタは口を尖らせてぷいっとそっぽを向いた。
「エスタ様! あなた様は永遠の純潔を誓われた御身であるのに、なんと嘆かわしいことを仰るのですか! このような下劣で軟弱な童貞男とまぐわうなどもっての外でございます!」
アナスタシアが声を荒げてエスタをたしなめる。
あのさ、毎回毎回そうやって俺のことを貶すの止めてくれないか。
§§§
再び受付に戻ると、お姉さんは露骨に迷惑そうな顔をして出迎えた。
それはともかく、次は冒険者ギルド系のクエストを受注するためのパーティー登録だ。
「それではこちらの用紙にご記入ください」
お姉さんが差し出した用紙には、パーティー名やメンバー氏名、職業、希望するクエストなどを書き込む欄がある。
パーティー名か。こういうのって地味に悩むよなぁ。
「なぁスグル。《救国の英雄とその仲間たち》というのはどうだろうか?」
アナスタシアがノリノリになって提案してきた。
「却下だ! お前は救国の英雄じゃなくてただの勇者見習いだろうが」
「で、では《処女神と敬虔なエックス教徒》はどうだ?」
「それも却下! そもそも、俺はエックス教徒じゃない」
「むぅ~……。ならばスグル、貴様はどうなのだ?」
アナスタシアがふくれっ面をして俺に意見を求めてきた。
「えっ、俺か?」
急にそう言われると、それはそれで困る。
「うーん、それなら……。《
「ぷぷぷ。スグル、貴様もかなり痛いではないか」
アナスタシアは、口元に手を当てて笑いを堪えながらそう言った。
「う、うっさいわ! お前にだけは言われたくない!」
こいつに馬鹿にされると妙にイラッとくる。
「お主ら、静かにい。パーティー名ならば、我がもう決めて申込用紙を出しておいたぞ」
「「えっ!?」」
エスタのやつ、さっきからやけに静かだと思ったら勝手にそんなことしやがって。
「ちょ、おい。パーティー名は一体何にしたんだ?」
どうせこいつのことだから、嫌な予感しかないのだが。
「それでは皆さま。パーティー名は《チェリー&ヴァージン》ということで登録の方を完了致しました」
そう言って、受付のお姉さんはパーティー用のボンクエカードを差し出した。お姉さんの顔は努めて平静さを装っているものの、吹き出しそうになるのを必死に堪えているといった様子だ。
「チェリー&ヴァージン!? そんなこっ恥ずかしいパーティー名なんて、俺は絶対に嫌だからな!」
「こっ恥ずかしいとは何じゃ。我らに相応しいパーティー名じゃろうが!」
エスタはぺったんこな胸をこれでもかと突き出して、得意げにそう言い放った。
「あぁ、さすがはエスタ様! とても素晴らしいパーティー名でございます!」
アナスタシアよ、本当にそれでいいのか? お前はすぐに純潔を喪失するだろうが。
「あの……、すみませんがお姉さん。パーティー名の変更ってできませんか?」
「申し訳ありません。原則として変更は受け付けておりません」
お姉さんは事務的に、でも同情を禁じ得ないような顔でそう言ったのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【あとがき】
作者よりお願いがございます。
面白かった! 続きが気になる、また読みたい! これからどうなるの?
と思ったら作品への応援お願いいたします。
合わせて☆やレビュー、作品のフォローなどもしていただけると本当に嬉しいです。
皆さまからの応援が今後の励みとなりますので、何卒よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます