第28話 職業(ジョブ)確定

 どうにかこうにか、アナスタシアとエスタを宥めると、お姉さんに謝って登録を再開した。


「――それでは、みなさんの職業ジョブを確認致します。まず竜舞勝りゅうまいすぐる様ですが、職業は《流浪の剣士》でよろしいですね?」


「あ、はい……」


 さっきの登録用紙の職業欄に無職と書くわけにもいかないので、俺は少しばかり剣の腕があることから《剣士》と書き込んだ。


 それなのに、《剣士》の前に勝手に《流浪の》と付け加えられてしまっていた。経歴が何もないからなのか、それともどこのギルドにも所属していない流れ者の剣士ということだからなのか。


「ぷぷぷ。流浪の剣士とは、童貞の貴様にはぴったりの職業ではないか」


「うっさいわ!」


 アナスタシアが小馬鹿にしてきたが、言い返して騒ぎになるとまたお姉さんに怒られるから、ここはぐっと我慢しておこう。


「次にアナスタシア・エロイーズ・ステファ・バヴァロワ・ド・トゥーザン様ですが。申し訳ありません、職業の欄に《救国の英雄》とありましたがそれでは登録できません」


「何だと!? 私は絶対崇高な神に仕える敬虔なエックス教徒にして、偉大なる祖国フリンスに忠誠を尽くす救国の英雄だぞ!」


 顔を真っ赤にして反論するアナスタシアの声がボンクエの室内に響き渡り、みんなの視線が俺たちに集まる。



「はぁ? 敬虔なエックス教徒だぁ?」


「ぷっ。救国の英雄って何だよそれ」


「頭の中お花畑だな、クスクス……」



 室内のあちこちから、そんなヒソヒソ声が聞こえてきた。そりゃそうだよな、俺だって実際そう思うもん。


「お客様。ご自身をどのように設定されようと自由ですが、ボンクエではそうした設定で職業を登録することはできません」


 受付のお姉さんは努めて事務的に、そしてぴしゃりと言い放った。


「き、貴様! 今、せ、設定と言ったか!?」


 さらに顔を紅潮させたアナスタシアが、わなわなと怒りに打ち震えている。


「最近はあなたのように、色々と勘違いされている方が多くて困るんですよ。大した能力や経験もないのに、自分だけは特別だと思い込んでいる痛い人が」


 受付のお姉さんは、さらに容赦のない追い撃ちをかけてきた。


「か、勘違い? 大した能力や経験もない痛い人……だと? な、なな、何という屈辱! うぅ、うううううう……」


 アナスタシアの顔が見る見る歪んで、今にも泣き出しそうになっている。こうなると、何だか可哀想に思えてきたな。


 しょうがない、ここは一つ助け舟でも出してやるか。


「あの……すみません、ちょっといいですか。英雄っていうと、普通は勇者がなるものだったりするじゃないですか。そこで一つ提案なんですけど、英雄に憧れる勇者、その見習いということで、こいつの職業は《勇者見習い》っていうことでどうですかね?」


「は、はぁ……。そういうことでしたら、《勇者見習い》ということで登録致します」


 受付のお姉さんは、渋々ながらそれで納得したようだった。


「良かったな、アナスタシア」


「ふえええええ……。ぐすん」


 アナスタシアは、涙を拭い鼻水をすすりながらこくっと頷いた。


「続いてエスタ様ですが。職業欄に《専業主婦》とありますが、ご結婚されておりませんので、誠に申し訳ありませんがそちらでの登録はできません」


「何……じゃと!?」


 衝撃を受けたようなリアクションをしてみせるエスタ。いやさ、実際に結婚してるわけじゃないんだから、それで登録できないのは当然だろう。


「ですが経歴に《家事手伝い》とあるので、そちらでのご登録は可能です」


「むううう……」


 エスタは不承不承、納得した……ようだった。だが、頬を膨らませてそっぽを向く顔がちょっと可愛い。


 そんなわけで、エスタの職業は《家事手伝い》ということに決まった。


 それにしても、家事手伝いっていうのは便利な言葉だよな。無職なのを堂々と正当化しているわけで、親戚のおばさんにもそんな人がいたっけ。そして、今なお独身。


「それでエスタ様、もう一つ確認なのですが。年齢の欄に記入漏れがございまして。年齢の方をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 受付のお姉さんが気まずそうな顔で切り出した。


 あっ、そうか。こいつ、自分の歳を言いたくなくて、わざと書き込まなかったんだな。


「そ、それは……。ええい、レディに対して年齢など聞くでないわ!」


 エスタは明らかに狼狽えている様子だ。しょうがない、ここはまた俺が何とかしてやるか。


「あの……すみません、ちょっといいですかね。じつはこいつ、140億歳なんですよ。けど見てくれはこの通り、どこからどう見ても小学○年生くらいの超絶ロリババァなので、そこのところのは実年齢ではなくて、見た目の年齢くらいでどうにかなりませんかね?」


「は、はぁ……。そう申されましても、それはそれでアウトな気がするのですが……」


「おい、旦那様よ。勝手に我の年齢を明かすでないわ! それと、ロリババァの前に超絶と付け加えるなぁ!」


 エスタは、恥ずかしさで顔を赤くしてぽかすかと俺を叩いてきた。


「ま、まぁ年齢についてはきちんと記入していただきますが、年齢不問のクエストもございますので……」


 こうしてエスタは、140億歳の《家事手伝い》ということで落ち着いた。


「それでは、こちらがボンクエカードになります」


 受付のお姉さんが免許証くらいの大きさのカードを差し出した。


 それを手に取ると、目の前にぼわっとウインドウのようなものが浮かび上がった。そこには名前や職業をはじめ、レベルや経験値、スキルなどが細かく記されている。


 おぉ、これこれ。こういうやつを求めていたんだって! やっぱりこういうのって、異世界やファンタジーモノの定番だもんな。


 浮かび上がったウインドウをよく見てみると、すでにレベルが3になっていて、経験値も数百ほどたまっていた。


 アナスタシアを助けた時の戦闘なんかで経験値が入り、レベルが上がったということなのだろうか。


 各種パラメータは《最大HP50、最大MP40 攻撃力35 守備力20 魔力??? ちから25 かしこさ60 うんのよさ???》などとある。


 魔力とうんのよさの《???》って何だよ。それはそうと、自分で言うのもなんだけどクソ雑魚だな、俺。


 ん? パラメータの中に53万を超えるすごい数値があるのを発見した。


 ――って、よく見ると《童貞力》とある。そういや、ギガセクスのおっさんがそんなこと言ってたっけ。


「ぷっ、童貞力だと? しかも53万以上あるとは、やはり貴様は筋金入りの童貞だったんだな」


 俺のウインドウを見て、アナスタシアが馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「うっさいわ! お前なんか《処女力》が0じゃねーか!」


「!? 私の《処女力》が0……だと? そ、そそ、そんなあああああああ!」


 アナスタシアは慌てて自分のウインドウを確認すると、見る見る顔が青ざめガタガタと震えだした。


「何じゃ、我の《処女力》など1億じゃぞ。別に嬉しくもないがの」


 1億ってのもすごいな……。そりゃまぁ、140億年も純潔しょじょを貫いてるのならそれくらいの数値にもなるのか。


「頼むスグル、今すぐ私に『リヴァージン』をかけてくれ!」


 激しく取り乱したアナスタシアが、泣き叫びながら俺にすがりついてきた。


「ちょ、落ち着けアナスタシア。後でちゃんと魔法をかけてやるから!」


「後でじゃなく今すぐにだ! 早く私を純潔に戻してくれ! でないと死んでやるううううう!」


 こうなると、アナスタシアはもう手のつけようがない。


「おい、旦那様よ。さっきも小娘が言っておったが、その『リヴァージン』とは一体何の魔法なのじゃ?」


 ボンクエの中が再びカオスと化しそうだったので、俺はアナスタシアとエスタを引きずるようにして一旦受付を後にした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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