第27話 ボンクエリベンジ

 市庁舎で住民登録を終えた俺たちは、昨日のリベンジとばかりに意気揚々とボンクエに乗り込んだ。


「おい、エスタ。何でお前までついて来るんだよ。別にお前はボンクエに登録するわけじゃないだろう」


 住民登録もできたことだし、ぶちゃけもうエスタに用はない。ていうか、こいつがいるとまた騒ぎを起こしそうで怖い。


「いや、我も登録は初めてじゃからこの際してみようと思っての」


「私はエスタ様が来てくださりこれほど心強いことはございません! ですがエスタ様、こんな童貞男との結婚はどうかお考え直しください!」


 そしてこのアナスタシアである。もう嫌な予感しかしないのだが……。


 気を取り直してボンクエの中に入ると、昨日と同様に、死んだ魚のような目をした覇気のない連中で溢れていた。


「よぉ、兄ちゃん。見慣れねぇ顔だいな。家族連れでクエストを探しに来たんきゃ? なっからべっぴんな女房に、可愛い娘っこなんじゃねん」


 ボンクエのエントランスで地元の失業者……いや、冒険者とみられるおっさんが、気色の悪い笑みを浮かべながら馴れ馴れしく話しかけてきた。


「いや、家族じゃないんで。ていうか、こいつらは俺の女房でも娘でもない」


「そうだぞ、貴様! 言っていい冗談と悪い冗談がある! 私がこんな童貞男の女房のわけが無いだろう!」


「誰が娘っこじゃ! 我こそがそこの童貞男の女房じゃ!」


 俺は全力で否定し、アナスタシアは剣の柄に手をかけながら憤り、エスタはただの妄想を主張した。それと二人とも、人前で俺のことを童貞と言うのはやめろ。


「何だ、おめぇら家族じゃねんきゃ。そんじゃあ、パーティーか何かなん?」


 パーティー!?


 おっさんの話によると、ボンクエのクエストには様々なギルドのものがあるのだが、それらは比較的簡単なので個人で引き受けることが多いという。


 そして、いわゆる冒険者ギルド系と呼ばれるクエストは、難易度が高いため複数の冒険者がパーティーを組んでクエストを引き受けるというのが一般的らしい。


 クエスト受注のために冒険者たちがパーティーを組むというのは、こうした世界では基本中の基本だもんな。


 俺がパーティーを組むとなると、やはりメンバーはこいつらということになるのか。振り返り、そこにいる救国の英雄と自称する痛い女と、小学○年生くらいにしか見えない超絶ロリババァを見て深いため息をついた。


「ん? 何だ、スグル。まじまじと私の顔を見て。何かついているのか?」


「ふん、まったく無礼な奴じゃ。我がこやつらの娘だなどと。ぶつぶつ……」


 果たしてこの二人、クエストを受注して魔物なんかと戦うことになった場合、本当に役に立つのだろうか。


 この世界で俺がギガセクスから頼まれたことは、おっさんの娘二人を純潔しょじょに戻すことの他に、魔王討伐というものがある。


 まるで買い物のついでみたいな、めちゃくちゃ軽いノリで頼みやがって。どう考えても、それは無理ゲーってもんだろう……。


 それはともかく、パーティーを組んで冒険者ギルド系のクエストをこなしていくことで、地道にレベルやスキルを上げていくしかない。


 そのうちにギガセクスの娘についても何とかなるだろう、きっと……。


 何はともあれ、まずはボンクエに登録だ。


「あの~。ボンクエの登録に来たんですけど……」


 昨日と同じように、だるそうにしてマジカルフォンというスマホっぽいものをいじくっている受付のお姉さんに声をかけた。


「あぁ、昨日のお客様!」


 お姉さんは慌ててマジカルフォンを仕舞うと、また来たのかという雰囲気を醸し出しつつ事務的な作り笑いを浮かべた。


「おや? 今日は奥様の他にお子様もお連れですか?」


 あんたも同じような勘違いをするんかーい!


「また間違えられたのか!? なぜこんな童て……」


「無礼者! 我はこやつらの娘ではなく、この童て……」


 今度は童貞と言わせねーよと、俺は二人の口を同時に塞いで言葉を遮った。それに、またここでこいつらに騒ぎを起こされたら困るからな。


「それでは、こちらの用紙にご記入願います」


 お姉さんからボンクエの登録用紙を受け取り、名前と住所まではすらすらと書いたものの、次の項目でふとペンが止まってしまった。


 職業ジョブと経歴か。職業って言われても、転生前は普通の高校生だった。それに経歴についても、この世界に飛ばされたばかりで経歴らしい経歴なんてものは何もない。


「何だ、貴様には職業も経歴もないのか? フッ、これだから童貞というやつは」


 俺の申込用紙を覗き込んだアナスタシアが、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「だから、童貞って言うな! それは職業や経歴とは関係ないだろう。お前こそ、職業欄に救国の英雄とか書いてて痛過ぎるわ!」


「き、貴様、無職で何の経歴もない、童貞引きこもりの分際でこの私を愚弄するのか?」


「だから、人前で童貞言うなっての! それと、引きこもりじゃないわ!」


 アナスタシアの言葉にカチンときて、つい大きな声を上げてしまった。


「お客様、他のお客様のご迷惑となりますのでお静かに願います!」


「すみません……」


「すまぬ……」


 受付のお姉さんに怒られて、俺とアナスタシアはしゅんと肩をすぼめた。


 ふと、これまでやけに静かだったエスタに目をやると、もう記入を済ませてしまったようだ。


 どれどれ、ちょっと覗いてみると――。


 職業の欄には《専業主婦》、経歴の欄には《家事手伝い》と書いてある。経歴は別に間違ってはいないだろうけど、専業主婦というのはこいつのただの願望じゃないか。でもまた騒がれたら面倒なので、ここは敢えてつっこまないでおこう。


 それはともかく、登録用紙には魔法やスキルを記入する欄もある。魔法っていうと、当然あれも書かなきゃいけないのか。因果律をも覆す、全宇宙最強の禁断魔法というあれを……。


 クエストの役に立ちそうもないから、それは書かないでそのまま提出してしまおう。うん、それがいい。


「ん? スグル、魔法の欄に記入漏れがあるぞ。貴様にはあの気持ち悪い、失われた純潔しょじょを取り戻す『リヴァージン』とかいう変態な魔法があるではないか」


「ちょ、おーい! アナスタシアさん、ここでその話はなしですよ! っていうか、気持ち悪いとか変態って言うんじゃない!」


「何じゃ、その純潔を取り戻す魔法というやつは?」


 ほら、エスタが食いついてきちゃったじゃないか。


「いや、見た目が幼女のロリババァには必要のない魔法だから」


「誰が幼女じゃ! それとロリババァ言うなぁ!」


「はっ!? そう言えばスグル、今日になったらまた『リヴァージン』をかけてくれると言っただろう! 早くかけてくれ! このままでは職業欄に救国の英雄と書いて出せないではないか!」


「おい、旦那様よ。その『リヴァージン』とは一体何なのじゃあ!」


 アナスタシアとエスタが大騒ぎして、受付はカオスと化した。


「お客様! 他のお客様のご迷惑となりますので、夫婦喧嘩、親子喧嘩はよそでやってください!」


 今度は受付のお姉さんにガチで怒られた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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